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29_未来の守護者と、消えゆく守護者

 巴端季のガントレットから、今までとは質の違う「白い炎」が噴き出した。


 それはまるで七大執政第二席から放たれるような圧倒的な熱量にして圧倒的な存在感。


 しかし、彼のようなの粗泉な炎ではない。


 それは、大切な者たちを守ろうとする、純粋無垢な炎だ。


「ウチの炎は……もう負けへんッ!!」


 巴瑞季が咆哮と共に大地を蹴った。


 瞬間、彼女の魔導出力が爆発的に上昇する。


「美咲! 穂香! 梓ッ!!」

「お前は絶対に許さない! ボクらの絆、見せてやる!!」


 美咲が叫ぶと、三頭の魔導獣が彼女の身体を包み込むように同調し、その姿は三本の尾を持った狐の姿へと変化する。


 第五席のような糸で強制的に操るものではない。


 それは、魂を分け合った「家族」との完全シンクロ。


 美咲自身が獣の敏捷性と魔導力を纏い、 巴瑞季を背に乗せたままグラッセヘ迫る。


「……解析、完了。『ドーム』展開。この領域のルールを、私が書き換えます」


 最後方でデバイスを叩く穂香の瞳に、膨大な文字列が走るのと同時に、この領域と次元界における定義そのものをハッキングしてしまった。


 それは、第六席のような単純な空間魔法ではない。


 空間そのものの定義をハッキングし、強制的に味方に有利な法則を上書きする「次元干渉術式」だ。


「……むっ?! 何だ?! 体が……重い! この俺が、重力に押し潰されようとしている?!」


 グラッセの大剣が、空を斬る。


 穂香がハッキングしたこの『ドーム』内では、彼女の意のままに物理法則も置き換わる。


 巴瑞季を乗せた美咲を空間転移させ、重力を何倍にもかけたグラッセの攻撃全てが数ミリ単位で逸れていく。


「梓!! 今です!!」

「まかせろっ!! アタシの盾は……光の城壁だッ!!」


 梓が展開した大盾。


 それは第四席を連想させるような鉄壁の守護神だ。


 しかし、彼が用いる何でも吸収する演劇的な盾とは違い、仲間たちへの深い愛と、絶対に誰も死なせないという不屈の意志が形作った、概念的な不落の防壁。


 その想いは、もはや盾として守るだけの存在に留まらない。


 グラッセの必殺の刺突が、梓の盾に触れたその瞬間、何一つ傷をつけることができずに霧散し、逆に自慢の大剣をもその反動で粉砕した。


「ば、馬鹿な……っ! 我の一撃を、魔帝王様に頂いたこの剣を?!」

「そんな物騒なもん、ウチの大事な連れに向けとんやないわぁああ!!」


 巴端季の白熱した拳がグラッセの甲冑を砕き、美咲の爪と尾がその隙間を裂く。


 そして。


「……もう、迷わない」


 戦場の中央。


 静かに、しかし絶対的な存在感を放ちながら、乙羽が歩み出た。


 その姿は、先ほどまでの「光の騎士」ではない。


 純白の着物風の装束を纏い、腰にはただ一本、優美な反りを持つ「刀」を携えた姿。


 第一席の眩い太陽の光とは違う、静寂と冷徹、そして慈愛を学んだ銀色の月光。


「その姿はまるで第一席……?! だがその力は……」

「聖光の聖女様のようになりたくて、その背中を追い求めていた……でも、みんなが教えてくれた。私は私だけの光で閤を照らせばいいんだって」


 乙羽がゆっくりと、刀の柄に手をかける。


 瞬間、周囲の気が一掃され、地下プラントに「銀色の月」が昇ったかのような光が一同を照らす。


「月の……巫女……乙羽』


 桜夜は自身の体内の出血個所を凍結させながら、その姿を誇らしげに見つめる。


 亡き師、第一席聖光の聖女でもある乙羽の実の母親からの光の継承。


 しかしそれは、娘である乙羽が独自に昇華させた「月光の力」。


 乙羽の身体がブレた、と思う暇もなかった。


神凪かんなぎの月・十六夜いざよい


 キンッ……と。


 乙羽が刀を鞘に納める音が、戦場に響いた。


 次の瞬間、グラッセの巨体が、その中心から「銀色の閃光」に両断された。


 空間凍結、物理破壊、そして魔導回路の強制消滅。


 穂香がハッキングで広げた空間に、乙羽の絶対的な月光の斬撃が吸い込まれ、使徒柱のコアを一撃で霧散させたのだ。


「バ、カ、ナ……人間の、子供ゴトキガ……魔帝王様ッ!!」


 断末魔と共に、第三使徒柱グラッセは、銀色の光の粒子となって消滅した。


 後に残ったのは、荒い息をつく五人の少女たちと、その中心で凛と仲む「月の巫女」の姿。


「……はぁ……はぁ……やった、んだよね?」


 乙羽が刀から手を離すと、その神秘的な装束は光となって消え、いつもの制服姿へと戻る。


 そしてすぐに、全員が桜夜の元へと駆け寄った。


「桜夜?! 大丈夫?!」

「……えぇ……急所は……外れた……みたいです」


 それを聞いて安心した全員が膝から崩れ落ちた。


 それと同時に、桜夜が張っていた氷壁も解け、処置を終えた国王イヴが水姫を抱えて現れた。


 すぐに秘書が駆け寄り、状況を報告した後に水姫を受け取る。


「見事だよ、コモレビ諸君」

「……国王様……どうしてこんな場所に」

「説明は後だ。今はココを離れよう。穂香君、今のキミならここにいる全員を学園病棟の転送ゲートまで転送できるかい?」

「……やってみせます」


 穂香はそういうと、すぐに目的地までの解析を済ませ、独自の空間転移で全員を移動させた。


 それからすぐに全員が病棟内で治療を受ける。


 イヴの懸命な処置もあり、絶体絶命だった水姫はなんとか一命を取り止め、桜夜もまた自身の応急処置とその後のイヴの手により命を繋いでいた。


 しかし、彼女たちには休んでいる暇がなかった。


 なんと、あの場から姿を消した元第五席の手により、七大執政の第二席と第四席は帰らぬ人となっていたのだ。

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