02_束の間の平穏と、世界を揺るがす訃報
今日は、チーム『コモレビ』にとって貴重な休日だった。
ガーディアンとして重要な戦力に数えられている彼女たちは、日々学業と防衛任務を同時にこなしているため、丸一日の休みというものが滅多にない。
彼女たちは第一セクターにある学園を離れ、この国の安全領土である王都の大型ショッピングモールまで足を運んでいた。
ここは若者たちで賑わう場所であり、今日も私服姿の少女たちがはしゃいでいる。
「今日こそは行きたいところ全部回るで!」
「だいたいオマエはいつもそう言って、予定の半分も回れねぇんだよな」
「梓! 今日のウチはいつもとちゃうで! 見とき!」
腕をまくって意気込む巴瑞季に、梓が呆れたようにツッコミを入れる。
その横では、美咲と穂香のコンビもいつものやり取りを繰り広げていた。
「ボクね、ボクね! 今まで貯めたお小遣い全部使って、限定グッズ買いまくるの!」
「だいたいアナタはいつもそう言って、ゲームセンターで全財産をつぎ込み、何も取れなくて泣いて帰ることになりますよね」
「穂香ってば、分かってないんだから! 今日のボクは一味違うの!」
目的がバラバラな彼女たちは、ここで三手に分かれるのがお決まりのパターンだ。
梓と巴瑞季、美咲と穂香、そして乙羽と桜夜という組み合わせである。
「私ね、私ね! 今日は桜夜の服いっぱい買うんだよ!」
「お前らはいつもそう言いながら人に囲まれて動けなくなるんだよなぁ」
「全くです……もう少し自分たちの人気の高さを自覚してほしいのですが」
「人気なのは乙羽だけで、私は被害者です」
無表情のまま淡々と述べる桜夜に、梓と穂香が呆れたように首を横へ振る。
「乙羽はまだしも、無自覚に顔が良い人が一番怖いですね。こちらがいつもどれだけ気を使っていると思っているのでしょうか」
「そうなんだよな。こいつら外じゃ危なっかしくて一人にできやしねぇ」
梓と穂香の言う通り、とにかくこの二人の容姿に釣られてやってくる人は大勢いる。
歩けば誰もが振り返る太陽のような美少女が、ネコのようにそっけない無表情の美少女にベタベタと甘えている姿は、あまりに周りの目を惹きつけてしまうほど尊いのだ。
そのため、今日は二人ともマスクや帽子を深く被せて姿を隠している。
「ほな、12時にあのカフェに集合してランチな!」
「よ〜しっ! テンション上げてこぉ〜!」
「おぉ! さあ、桜夜行こう!」
元気な掛け声と共に、それぞれの目的地へと向かってメンバーは散っていった。
◇
それぞれの目的を楽しんだ一行は、ランチの時間となりカフェに再集合した。
テーブルには色とりどりのドリンクや軽食が並び、休日の和やかな空気が流れている。
「みんなどうだったぁ? 楽しんだかな!」
「見ての通り、巴瑞季は予定の三分の一の店も見てねぇよ。いつも通り優柔不断が炸裂中ってとこだ」
「ちゃうんやぁ! あんないっぱいほしいもんあったら迷ってまうねん!」
大荷物を抱えて言い訳をする巴瑞季の隣で、穂香が静かにため息をついた。
「こちらもいつも通り、午前中にゲームセンターで全財産無くなった人がココにいますよ。このランチ代は私に借金です」
「ち〜が〜う〜のぉ! あと100円あったら絶対取れたんだって! それまでは景品を落とすための準備なの! 先行投資なの! あと100円だったの〜!」
頭を抱える巴瑞季と美咲を見て、乙羽がくすくすと笑う。
「あはは〜なんだかんだ私らが一番楽しめたかな! さすがにここまで変装したかいがあったよぉ〜! 桜夜の服もいっぱい買ったしね! 夜が楽しみだよ〜!」
「何をする気ですか?」
「買った服全部着せ替えて写真撮りゅ!」
「迷惑なのでやめてください」
「大丈夫だよ! 寝ている間に着替えさせるから!」
「まぁ、それなら」
(((それならいいのか……)))
乙羽と桜夜以外の四人は心の中でそう突っ込んだが、口には出さない。
この二人ならそれが通常運転だと、痛いほど分かっているからだ。
平和で、他愛のない時間。
桜夜にとっても、この温かい場所は心地よかった。
偽りの姿でも、乙羽たちのこの笑顔が守れるのなら、それでいい。
――しかし、その平穏は突如として打ち破られた。
『臨時ニュースです! ガーディアンより緊急で即報が入っております! どうやら七大執政より通達があるとのことです』
カフェの各所に配置されているモニターから、一斉に臨時ニュースが流れ出した。
いや、カフェのモニターだけではない。
個人のスマート端末や、街頭の大型ビジョンなど、あらゆる端末が同じ映像に切り替わっている。
国営通信による緊急の放送が始まる合図だ。
周囲の客たちがざわめき始め、コモレビのメンバーも食事の手を止めてモニターを見上げる。
画面には国王イヴと、人類の最高戦力である『七大執政』の面々が映し出されていた。
「我がアルカディア国民の皆さん、ごきげんよう。今日は皆さんに辛い報告をしなければなりません」
画面越しの国王イヴの沈痛な面持ちに、国民全員へ緊張が走る。
「お気付きかもしれないが……後ろに立つ我が国の最高位戦力である七大執政。その中でも皆を守り皆に愛され、最強戦力の一角だった――『第一席、聖光の聖女』が戦死した」
国王の言葉に、世界中から音が消えたかのような、なんとも言えない静寂が流れた。
カフェの客たちは息を呑み、持っていたフォークを落とす者もいた。
「嘘……」
乙羽の口から、小さな呟きがこぼれ落ちる。
彼女の顔からみるみる血の気が引いていくのを、桜夜はただ、奥歯を噛み締めて見つめることしかできなかった。




