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01_最弱の劣等生と過保護な隊長

 ガーディアンはこの国に生きる人間であれば、誰もが憧れる英雄だ。


 その養成機関である『聖アルカディア魔導学園』の訓練場では、国中から集まったエリート候補生たちが、日々競い合うように自らの力を誇示していた。


「次、月乃乙羽つきの・おとは、はじめ」


 今日は全生徒を対象とした「定期魔導力測定」の日。


 アナウンスが一人の少女の名を口にすると、騒がしかった訓練場に静けさが漂う。


 乙羽が自身の魔導力を高めると、それに呼応するように、彼女の持つ『ギアメタル』が変形を開始する。


 腰に携えた光り輝く剣と、天使のような背中の翼。


 誰もが思わず見とれてしまうような、神々しい姿だ。


「はぁっ!」


 彼女は黄金の剣を抜き、空間を切り裂いた。


 剣先から放たれた光の斬撃は、「魔導力測定機」の前にある標的を見事に粉砕する。


『測定結果:ランクA』


 身体からギアメタルへと注がれた魔導力の総量を無機質なアナウンスが読み上げると、どよめきと大歓声が上がった。


「月乃すげぇ! ガーディアンの隊長クラスじゃねぇか!」

「いや、凄すぎるだろ!」

「さすが過ぎる! 我らが学園の最強アイドル!」


 この魔導力測定の指標は、ガーディアンが独自に定めている戦闘力の目安となる。


 学生の平均値が「ランクD」であり、ガーディアンでも一般戦闘員なら「ランクB」で一流だ。


 学生でありながら「ランクA」という乙羽の数値は、異常と言っていい。


 愛嬌溢れる笑顔で歓声に応えながら壇上を降りる彼女は、強さと容姿を兼ね備えた学園一番の人気者だ。


 しかし、高水準の者がいれば、逆に低水準の者もいる。


「次、神白桜夜かみしろ・さくや、はじめ」


 無機質な教官の声が訓練場に響く。


「おい、次はあの『お荷物』の番だぞ」

「お、『凡人』の番か」

「アイツ存在価値ねぇよな」

「才能の差ってのは残酷だよ」


 周囲から飛んでくる嘲笑と蔑みの視線。


 それらをまるで気にする様子もなく、測定用装置の前に歩み寄る。


 そして、古びた拳銃型の「ギアメタル」を取り出し、引き金を引いた。


――プシュ。


 間の抜けた音と共に、銃口から少しの発煙があっただけ。

 的はビクともしていない。


『測定結果:ランクF』


 無慈悲なアナウンスに、今度は嘲笑が沸き起こった。


「ははは! やっぱりな! 今日も一般人以下だ!」

「ランクFなんて出すのアイツだけだろ? よく退学にならないよな」


 この世界で生きるものにとって、魔導力は必要不可欠なものだ。


 魔導力の大きさがその者の強さを表す象徴であり、人間としての存在価値までもがそれによって決まる。


「神白、もう少し努力したらどうだ? 魔導力がここまで低いとは話にならんぞ」

「はい」


 桜夜は感情の起伏を一切見せず、淡々とした口調で応えた。


(努力もなにも、私には魔導力というものがありませんからね)


 そう、彼女には魔導力というものが一切存在していない。


 そのため、世間体に溶け込めるようこの偽装用のギアメタルを師匠が授けてくれたのだ。


 本来ある一定の魔導力を放出していたが、長年使い込んで壊れているのか今では低ランク判定の出力しか出ない。


 そんなガラクタを大事そうに抱えながら、彼女は一人で訓練場の出口へと向かった。


 静かな校庭。


 木漏れ日が差すその場所を歩いていると、背後から圧倒的な熱量が飛びついてきた。


「さ~くやっ♪ また一人でどっか行こうとするんだから!」


 月乃乙羽。


 亡き師でもある第一席の忘れ形見であり、この歳で魔導力ランクAを保持する天才。


「……乙羽。離れてください。暑苦しいです」

「や~だよっ♪ 離したらまた一人でどっか行くでしょ? 今から『コモレビ』みんなで食堂行くの!」


 首筋に絡みつく、柔らかな腕。


「……なら本当に離れてください。歩けません」

「私が抱っこしてあげるー!」


 乙羽は桜夜の背中に顔をうずめ、クスクスと笑う。


 その無邪気な笑顔の奥に、彼女もまた母を亡くした深い傷を隠していることを、その場に一緒にいた桜夜だけは知っている。


「どうしてそうなるんですか」

「いいから! 行くよ!」

「あ、ちょっ……」


 桜夜は呆れながらも、乙羽にされるがまま身を委ねる。


 学園一の才能と人気を持ちながら、万年劣等生の桜夜に異常なほど懐いている乙羽。


 これは、聖アルカディア魔導学園での「七不思議」の一つとされていた。


「お、やっと来やがったぜ。あの二人」


 米俵のように担がれた桜夜を見て、呆れた声を上げたのは遠山梓とおやま・あずさだ。


 背中の巨大な盾が、彼女の細い体躯には不釣り合いなほどの圧迫感を放っている。


「やっとかいな! どこでイチャイチャしてたんや」


 そのすぐ横には、ガントレットを装着している小柄で短髪の源巴瑞季みなもと・はづきがいた。


「もうちょっとでボクの可愛い魔導獣たちで探すところだったよ~」


 召喚した魔導獣に頭を咥えられながら、杖をブンブン振り回しているのは菊川美咲きくかわ・みさき


「美咲、その顔がとても気持ち悪い獣をどこかに消し去ってくれませんか?」


 冷静に淡々と毒を吐き、自身の周りにドローンを飛ばしているのは、黒髪ロングヘアーの栗林穂香くりばやし・ほのか


 彼女たちはチーム『コモレビ』。


 学園唯一のガーディアン正式部隊だ。


「みんな~お待たせ! 桜夜ったらまたネコみたいにどっか行っちゃうんだも~ん! すんごい探したんだから」

「誰がネコですか」

「まさかおい、また誰かに悪口言われたんじゃねぇだろうな」

「梓、やめとけや。この前もそれで半殺しにしてたやん」

「大事な仲間の陰口はボク嫌いだなぁ~食い殺す?」

「桜夜が許してくれるなら全生徒スキャンして陰口を言った人を全員スタン状態に致しますが?」

「致さないでください」


 本来、ガーディアンは完全実力主義であり、魔導力の数値と実績が全てを決める。


 低スペックの桜夜がこのエリート部隊に居られるのは、メンバー全員が「桜夜がいなければコモレビは成り立たない」と上層部に直談判したからだ。


 誰もが桜夜の本当の正体も、本来の力も知る者はいない。


 だが、コモレビとしての桜夜の役割をきちんと見出し、それに対して絶対的な信頼を置いている。


『私は本当に幸せ者みたいですね。遥さん』


 桜夜は以前、亡き『恩人』に言われた言葉を思い出しながら、静かに青空を眺めた。

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