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23_しばしの休息と、絶望の引率者

――第四使徒柱ビュレとの死闘の後。


「……つまり、あの謎の装置は自ら魔導力を魔物の魔導力と同調させ、それを基盤に特殊な魔法結界を発動させるものだったというわけです……考えもしませんでした」


 穂香が国王秘書から受け取った解析結果を読みながら、それを皆に伝える。


「だから最初のベヒーモスも、白姫様が倒したから結界が解けたんだね」

「なので今度は倒されないよう、地中に埋めてもしばらく生きていられる魔物の体の中に装置を埋め込んで結界を発動したようですね」

「それでもその結界ごと発動コアを凍らせて破壊した白姫様の炸裂パンチには耐えられなかったんだね!」

「今にして思えば、アタシらが移動していたあのルートも?」

「完全に誘導されていましたね。私の魔物感知能力を逆手に取られました……」

「まぁ結果的に第五柱のソルベも第四柱のブリュレとかいう奴も倒せたからええんとちゃう?」

「……でも、それはたまたま私たちの運がよかっただけだよ。ソルベは白姫様と水姫様が倒してくれたし、ブリュレを倒せたのも私だけの力じゃない……外道メガネ、アンタが手助けしてくれたんでしょ?」


 隅っこに座って窓の外を眺めている第六席に鋭い視線を向ける乙羽。


「あ、あぁ……」


 それよりも遥かに冷たい視線を背中に感じた彼は、当たりさわりのない返事をする。


「コイツが? あの状況でなにが出来たんだよ」

「詳しくは分からないけど、あの瞬間明らかにブリュレの攻撃が弱まったの。だから私の攻撃が通った」

「でもあの時の乙羽はとても凄かったです」


 あまり深堀りをしてほしくない桜夜は、わざと口を挟む。


「ウチのネコがデレた?!?!」

「誰がネコですか」

「今の夢じゃないよね?! 確かめるために一回抱き着いてスリスリしてもいい?!」」

「やめてください」


 緊張感のあった会話に、少しばかり穏やかな雰囲気が流れる。


「ほっほっほ。世界の強敵を相手に戦う少女も、戦いから離れればやはり歳相応の顔をなさいますね。おや? どうなさいましたか、第六席様?」

「い、いや……なんでもない」


 秘書に心配されるほど、すっかりと態度が変わってしまった第六席。


 あれからまともに桜夜の顔を見ることも出来ない。


 彼は自分が『無能』と罵り、『頭を踏みつけ』、『第六セクターへと飛ばした』ことを今更激しく後悔している。


「しっかし、めちゃめちゃええ部屋くれたよな、水姫様」

「本当にな。ここはアタシらの宿舎にも近ぇし、作戦会議にはうってつけだぜ」


ここはコモレピに与えられた特別な執務室だ。


各個人のデスクに加え、フカフカのソファーまである。


そこで国王秘書を含めた、情報交換を行っていた。


「オホン。そろそろ本題に戻りましょう、お嬢さん方」


秘書はモニターの前へと立ち、進行役を務める。


「謎の結界については概ねよろしいでしょう。元副長で指名手配犯の中だった者は死亡。遭遇した、泥人形のような魔物と、我々のホンマルだった使徒柱の一人と遭遇、その第四使徒を撃破。ここまでは大変素晴らしい戦果です。しかし問題はここから……」

「そう。ホンマルの死亡により、他の使徒柱に繋がる道筋を絶たれました。現場にはその痕跡も証拠も何も残っていない」

「つまりはお手上げ状態なんだよねぇ~。あ、そのお菓子ボクにも頂戴」

「これからどう動くかだよなぁ~。巴瑞季、アタシの分食ってんじゃねぇ!」

「ケチくさいこと抜かすな梓! 秘書のおっちゃん、そっちの方は他に手掛かりとか見つかってへんの?」

「こちらでも全秘書にて各国を飛び回っているのですが、今のところなんとも……あ、ワタシにもそのおせんべいを一つ」

「やっぱり魔物の侵略進路から割り出す必要があるかなぁ……桜夜はどう思う?」

「まずキミの膝から解放してください」

「それは無理」

「それと変なところを触らないでください」

「それも無理。はい、あ~ん」

「ハムハム……ここは一度、水姫様とも相談した方が良いかと」


桜夜がそう言った瞬間、扉がガチャリと開いた。


そして執務室へと入ってきたその人物を見た瞬間、全員が飛び上がり、慌てて膝を付いた。


「……楽しそうね」


 深海のような低い声に、全員の額に冷や汗が流れる。


「み、水姫様……」

「乙羽、穂香が提出した報告書に間違いはないわね?」

「は、はい! ありのまま報告しております」

「よく書けていたわ。外道メガネは多少役に立っているみたいね?」

「……不本意ながら」


相変わらず窓際の席に座り『ふん』と鼻を鳴らして気丈に振舞っている。


今の第六席にとっては、第三席よりも第七席である桜夜の方を危険視しているようだ。


「ならば結構。アンタたちが大物を倒したおかげで、敵勢力も世界全土からこのアルカディア王国への攻撃に集中してきているわ」

「敵側も余裕がなくなってきているということでしょうか」

「昨夜、緊急で行った執政会議でもその結論に至ったわ。今後、このアルカディア王国周囲の防衛をより強固とします」

「も、もしかしてだけど、七大執政が一堂に集結しちゃったり……?」

「えぇ。今ある人類最強戦力をもって、魔物を殲滅する」


第三席からの言葉に、室内では歓声が上がる。


『聞いてませんが!?』

『だって、勝手に決めたもの』


衝撃の事実に、誰にも見えないよう口パクで会話する白姫と水姫。


「なら、俺は自分の部隊へ帰るぞ。もう引率の必要はないはずだ」

「黙れ外道。お前はいつまで自分が七大執政でいられると思っている」

「……なに?」

「七大執政にお前の『席』はもうない。これは国王陛下を含めた我々七大執政全員の総意だ」

「……なん……だと」

「世間的にはまだ公にしないが……お前の命はもう長くない。近日中に極秘裏に処刑される予定よ」


絶望に暮れ、両膝をついて座り込む第六席。


その姿をゴミを見るかのような目で見下し、第三席は静かに部屋を出て行った。

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