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22_白銀の閃光と、深淵の契約

 目前に迫る、黒き絶望の太陽。


 ブリュレの放つ圧倒的な熱量は、地下プラントの鉄骨を飴細工のように溶かし、酸素さえも焼き尽くそうとしていた。


(――やはり、私が動くしかありませんね)


 桜夜が偽装用のギアメタルを腰にしまい、その瞳の奥に「白亜の桜」を宿そうとした、その時だった。


「……させない……。誰にも、指一本……触れさせない!!」


 絶望に染まる戦場を、少女の叫びが貫いた。


 乙羽の背中から、今までとは比較にならないほど巨大で、かつ鋭利な「純白の翼」が噴き出す。


「お、乙羽……!?」


 驚愕する梓たちの目の前で、乙羽が手にした光の剣が、爆発的な輝きを放ち始めた。


(この光は?! ……まるであなたを見ているようです、遥さん)


 それは母である第一席・遥がかつて見せた輝きに似て、しかしそれよりも遥かに蒼く、冷たく、澄み渡った月の光。


「おおぉぉぉぉぉッ!!」


 乙羽が剣を突き上げると、一帯が音を置き去りにした純白の閃光に包まれた。


 ブリュレの黒炎と乙羽の光が正面から衝突し、周囲の視覚を完全に奪う「ホワイトアウト」が引き起こされる。


「眩しい!? 何も見えへん!」

「乙羽!? 無茶だよ、そんな出力……!」


 仲間たちが光に目を焼かれ、蹲る。


 だが、その光の檻の中で――ただ一人、冷徹な瞳を細める少女がいた。


(……しかしまだ決定打には届きませんか……この隙に……)


 桜夜は、近くで膝をつく第六席の背後へと音もなく移動した。


 第六席は、眩い光とブリュレの威圧感で、震えながら蹲っている。


「ひ、ひぃ……なんだ、この光は……! あいつも化け物か……」

「……情けないですね、第六席」


 背後からかけられた、絶対零度の声。


 第六席が弾かれたように振り返ると、そこには普段の「無能な神白桜夜」とは全く違った雰囲気の『死神』が、見覚えのある冷気を纏って立っていた。


「な、な……っ!? 貴様、その力……まさか、第七……」

「黙りなさい」


 桜夜の細い指先が、第六席の喉元に添えられる。


 それだけで、第六席の全身の細胞が「死」を予感して硬直した。


「今から私の白亜の花びらを、あなたの『空間転移』に乗せて、あの男のコアへ直接叩き込みます。座標指定は私が行います。あなたはただ、私の意図通りに間へ穴を開けなさい」

「ふ、ふざけるな! お前の攻撃なんかを直接転移させたら俺の魔導力回路が焼き切れる!」

「……いいから、やりなさい。拒否権はありません。それとも、ここで私があなたの首を『空間ごと』凍らせましょうか?」


 桜夜の瞳にある桜の紋章が、不気味に狂い咲く。


 第六席は、紛れもなくこの少女が『自分と同じ七大執政の第七席』であることを確信した。


 そして、先ほどの彼女の発言が脅しではなく本気であることも。


 目の前にいるのは、自分をゴミのように踏み潰せる、真の強者だ。


「……く、そっ! やってやる、やりゃあいいんだろ!」


 第六席が震える手でギアメタルを起動し、空間の隙間を作り出す。


 桜夜はそこへ「白亜の桜」を極限まで細く、鋭く圧縮して送り込んだ。


(空間の接合点、捕捉。――そこです)


 ブリュレが乙羽の光を押し戻そうとニヤついた、その瞬間。


 ブリュレの胸の真ん中、コアが存在する座標に、針の穴ほどの「空間の亀裂」が生じた。


「な、に……!? 空間が、内側から……」


 ブリュレが気づいた時には、すでに遅かった。


 亀裂から溢れ出したのは、熱量を喰らい尽くす白き氷。


 桜夜の放った絶対零度の花びらが、ブリュレの体内からその存在を凍結させていく。


「あ、が……ば、馬鹿な……!? この私が、内側から……『凍らされて』いるだと……!?」


 ブリュレの全身から、火が消える。


(この程度の氷では、いずれ溶かされるでしょう。しかし、あなたを仕留めるのは私でありません)


 乙羽の光が、もはや抵抗を失った黒炎を突き破り、ブリュレの体を真っ二つに両断した。


「――っ、はああああっ!!」


 乙羽の最後の一撃と共に、プラント内を埋め尽くしていた光が収束し、静寂が戻る。


 そこには、全身を光に焼き斬られたように塵となって崩れ落ちていく第四柱の姿があった。


「……やった、のか?」


 梓が恐る恐る目を開ける。


 そこには、肩で息をしながら立ち尽くす乙羽と、その傍らで「腰を抜かした」第六席、そして――。


「……乙羽、大丈夫ですか?」


 いつもの無表情で乙羽の傍に歩み寄る桜夜の姿があった。


「乙羽、すごかったやん! あんな光、見たことないわ!」

「ボク、まだ目がチカチカする……。でも、乙羽が助けてくれたんだよね?」


 仲間たちが乙羽に駆け寄り、その健闘を称える。


 乙羽自身も、自分の右手に残る不思議な感触を不思議そうに見つめていた。


「……私、どうやって……」


 その光景を、第六席だけは冷や汗を流しながら見つめていた。


 彼は知っている。


 乙羽の光は素晴らしかったが、あのブリュレを仕留めた決定打は、乙羽の光だけではなく、自分の背後にいた少女の「白い力」の助けがあったからこそ成し得たものだということを。


(化け物だ……。あのガキ、無能どころか……この世代の、いや、今の七大執政の誰よりも危険だ……)


 第六席が震える視線を向けると、桜夜は仲間たちに隠れるようにして、彼にだけ聞こえる小さな声で、冷たく囁いた。


「……今のことは、あなたと私だけの『契約』です。もし誰かに話せば――」


 桜夜が、首元の爆弾首輪を指差す。


 第六席は、死を覚悟した顔で力なく頷いた。


「……わか、っている……。何も見ていない、私は、何も……」


 こうして、第四柱との死闘は幕を閉じた。


 だが、その勝利の裏で、乙羽の中に眠る「第一席」の力が確実に目を覚まし、そして桜夜という『絶対的な守護者』が、第六席という最強の奴隷を手に入れた瞬間でもあった。


 崩落した地下プラント。


 その瓦礫の隙間から、桜夜は地上を見上げる。


 戦いは、まだ始まったばかりだった。

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