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18_水姫の素顔と、明かされた弱音

「先生! 桜夜の容態はどうですか?」


 様子を見に来た乙羽が医師に扮したイヴヘ声をかける。


「うん、順調に回復しているよ。おそらく傷跡も残らないと思う」

「良かったぁ!」

「あ、まだ上着を着せていないからカーテンを開けるのは待ってね」

「え? 桜夜の裸みたんですか?」

「裸ってキミねぇ……一応これでも医者なんだけど」


『無免許の、 でしょ』


 桜夜が服を着ながら小さな声でいたずらっぽく言うと、イヴは必死に口を塞ごうとする。


 しかし、その光景をしっかりと見られてはいけない人物に見られる。


「何をやっているのかな……先生」

「えっ? ちょ?!  こ、これは誤解で……か、神白さん、誤解を解いてくれないか?」

「服を脱がされて胸を触られましたね」

「そうだけどそうじゃないでしょ?! ひぃ?!」


 あらぬ疑いをかけられ、鬼の形相へと変貌した乙羽の威圧に、後ずさりしていくこの国一番の権力者。


(これで少しは気が晴れました)


 このいきなりの訪問は桜夜も想定しておらず、少しばかり驚かされた仕返しをしたかった。


「先生、そろそろこの子たちを休ませてあげましょう。こちらの話も終わりましたので」

「うん! いますぐ出て行こう!」


 イヴはそういうと秘書と一緒にそそくさと病室から出て行った。


 その光景に病室ではニコやかな空気が流れた。


「……そういえば、秘書さんからの話というのは?」


 国王イヴとの会話で、そちらの会話にまで気が回らなかった桜夜は、その内容を知らない。


「それがね、また大変な任務を与えられたんだよ~」


 桜夜を膝の上に戻し、その背中に顔を埋めたまま、乙羽が憂鬱そうに答えた。


「まず、現学園長のあの長っ鼻メガネは、桜夜の一件で国王様から学園長を追放されたらしいぞ」

「学生をいきなり第六セクターに飛ばすなんて、前代未聞やで! 追放されて当然や!」

「その後任になったのが、第三席、盤上の水姫様なんだよぉ!」

「水姫様の統治によって、桜夜を含めた58名の退学処分は無事に撤廃されました。そして、その水姫様から直々にコモレビを直下の特殊部隊に加えると伝達があったそうです。正式には直接ご本人様からお伝えになられるとのことで……」

「明日謁見することになってるんだよぉ~。ねぇどうしよう桜夜ぁ……」

「……先ほどの威圧を放てるなら大丈夫かと」

「冗談やめてよぉ~あんなヤブ医者と七大執政とはわけが違うよぉ~」


(それよりも上位の存在に向けて放っていたのですが……)


 この言葉はしかと胸の内に秘め、その日は全員休むことにした。


――その夜。


 学園の職員棟の頂上にある学園長室。


 その書類の山に淡々と押印している七大執政の第三席。


「……久しぶりね。シロ」


 厳重にセキュリティ管理されているこの部屋に、一人の影があった。


「もうその姿の必要はないんじゃない? 桜夜」


 その人物の体が青白く発光したかと思ったら、氷が解けたかの如く『少女』の体型へと変換し、深めに被っていたフードを脱いだ。


「ここのセキュリティも見直した方が良さそうね……体はもういいの?」

「……はい」

「アンタともそれなりに長い付き合いだけど、初めて顔を合わせて言葉を交わすわね」

「はい」

「よくも今まで騙してくれたわね」

「すみません」

「この私に正体を騒し通せたのは見事よ。これでも誉めてるの」

「……」

「わざわざここに来たということは、私の真意を探りたいからかしら?」

「はい」

「それは『あなたは信用に値しません』という意思の表明ね。ますますあの能天気バカの娘とは思えないわね」

「……本当の母親ではありませんでしたから」

「ふん、少なくとも彼女はそう思っていなかったわ。おめでたいことにね」

「えぇ」

「さて……現状、私が掴んでいる情勢を教えましょう。アンタが国王から直々に聞いたという情報も、出し惜しみせずに話しなさい」


 乃愛は手元の資料を机に置くと、真剣な眼差しを桜夜に向けた。


「……分かりました。あのソルベと名乗った個体、および今回の一連の騒動の背後には、『魔帝王』という未知の存在が潜んでいます」

「魔帝王……?」

「はい。そして、ソルベはその側近である『使徒柱しとばしら』の第五柱。奴らには明確な序列が存在し、ソルベと同格以上の化け物が、少なくともあと四人は存在するというのが国王陛下の見解です」


 桜夜の言葉に、乃愛は忌々しげに指先で机を叩いた。


「なるほどね……話が繋がったわ。最近の魔物の発生は、単なる『異常』にしてはあまりに統率が取れすぎていた。まるで軍隊のように、こちらの防衛網の穴を突くような動きを見せていたのよ」

「統率……個別の意思ではなく、上位者の命令で動いているということですか」

「ええ。私が独自に調査したところ、各地の襲来には五つの異なる強力な『魔導力の波長』が確認されていたわ。……おそらく、それがアンタの言う『使徒柱』とやらの個体数と一致するのでしょうね」


 乃愛はそこで言葉を切り、深く溜息をついた。


「あんな化け物が複数体で一気に攻めてきたら、今のアルカディアは一巻の終わりね。……皮肉なものだわ。アンタが瀕死まで追い込んでくれていなければ、私はあのソルベを仕留めきれたかどうか」

「……」

「何よその顔は」

「意外でした……。乃愛さんが、そんな弱気なことを」

「まぁ私も歳を取ったってことかしらね。見た目だけならいくらでも取り繕うことが出来るけど、年々感じる力の衰えには勝てないわ」


 これまでの第三席のイメージは、常に誇り高く決して弱みを見せない人だと思っていた。


 そんな人物の弱気な姿を目の当たりにすると、さすがに驚きを隠せずにいた。


「正直に言うとね……あの能天気バカの死は、私に想像以上の傷を残しているのよ」


 その言葉は何よりも重く、胸に突き剌さる言葉だった。

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