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14_絶望の雨と、白亜の再臨

「乙羽! いくらなんでもこれ以上は無茶だ! とまれ!」


 コモレビメンバーは、第六セクターという危険地帯にたった一人で送り込まれてしまった桜夜の救出を行うため、全速力で移動していた。


「そもそも第六セクターのどこにいるのかも分かりません! まずは駐屯している部隊へ問い合わせを行うべきではありませんか?!」

「そんな暇ない!」

「乙羽待つんや! 少し冷静にならな……」

「うるさいっ! グダグダいうなら、ここから先は私一人で……」


 乙羽の言葉を、美咲が制止した。


 その頬を平手で叩く音が響いた。


「それ以上言うと、ボク本気で怒るよ」


 その思い切った行動と、美咲の涙に全員が驚いて黙った。


「……ごめん」


 乙羽は目を逸らし、歩みを止めた。


「お前の気持ちは痛いほど分かってん。一秒でも早く桜夜を助けに行きたいんは、全員一緒なんや」

「でもな、お前の今の姿、自分で分かってるか? もう倒れる寸前だろ?」

「桜夜なら必ず生き残っているはずです。私たちが思っているよりも遥かに強い子ではありませんか」


 乙羽は少し冷静になると、自分がどれだけ無理をしていたか理解した。


「美咲……その……」

「ボクはね、このメンバーが本当に大事なの。絶対に誰も見捨てないし一人にしない。もちろん桜夜もだよ」


 あまり本音を語らない美咲からの言葉に、乙羽は唇を嚙み締めた。


「くっくっく。あまりにいいお話が聞けて、ワタシとても感動していますよ」


 突然話しかけてきた声に、全員が他のガーディアンの人物かと思っていた。


 しかし、乙羽だけは何かを察知し、全力で身構える。


「止まりなさい。あなたは何者ですか?!」

「初めましてどうも。ワタシは『ソルベ』と申します。以後、お見知りお気を」


 次第に土埃が晴れ、人型ながら人間ではないその姿を目の当たりにすると、他の全員もすぐに身構えた。


「アンタ、なんや?! 人間とちゃうな!」

「どう見ても、味方じゃなさそうだな」

「得体の知れない解析データですね……こんなの初めてです」

「ボクの直感も言ってる。そいつは危険だって」


 それぞれがギアメタルを起動し、戦闘態勢を取った。


「おやおや。せっかちですねぇ~、もう少し長生きしたいとは思わないのでしょうか」


 ソルベは威圧するように自身の魔導力を高めていく。


「みんな、全力で行くよ!」

「OKだ、隊長!」

「こんなところで足止めしてる場合とちゃうねん!」

「こいつ邪魔。ボクも真面目にやる」

「全機展開! 先行してけん制します!」


 穂香のドローンはソルベを囲うように展開し、それぞれが砲撃を行った。


 砲撃により舞い上がった土埃に紛れ、美咲の魔導獣『ポチ一号と二号』が挟み込むように全力の『お手』を打ち込む。


 その間に梓のインパクトで飛び上がった巴瑞季が、ガントレットを高速回転させて力を溜め込んでいた炎の拳と、同じく光の翼で飛び上がって光の剣を振りかぶっていた乙羽が空中から同時に攻撃を放った。


 大きな爆発が起こり、全員が確かな手ごたえを感じていた。


「……くっくっく。とても良い攻撃でしたよ。そのあたりのザコどもに比べたら余程マシなレベルですね」


 土埃が晴れた後、ソルベは何事もなかったかのように平然と立っていた。


 無傷。


 いや、それどころか、乙羽たちの攻撃が直撃する直前で『空間が捻じ曲がり』、攻撃そのものが逸らされていたのだ。


「嘘やろ……アタシらの全力やぞ……!」

「ありえない……! 直撃したはずなのに!」


 驚愕するコモレビの面々を嘲笑うかのように、ソルベは優雅に一礼した。


「ですが、少々痛い。お返しと参りましょうか」


 ソルベが指を軽く鳴らした瞬間、巴瑞季の足元の空間が歪んだ。


「ぐあっ!?」


 見えない力に弾き飛ばされ、巴瑞季が巨木に激突して崩れ落ちる。


「巴瑞季! このやろぉおおお!」


 梓が大盾を構えて突進するが、今度は梓の背後の空間が歪み、そのまま地面へと激しく叩きつけられた。


「梓!? まずい! 穂香、美咲! 散開して距離を取って!」


 乙羽の指示で動こうとするが、遅かった。


 穂香の展開していたドローンが次々と見えない力でスクラップにされ、美咲の『ポチ一号・二号』も空間の圧力によって地面に縫い付けられ、悲鳴のような鳴き声を上げる。


「な、なんて力……。これじゃ、まるで……」


 乙羽の脳裏に、かつて遭遇した『特A級魔物』の絶望的な記憶がフラッシュバックする。


 ソルベの力は、あの時の魔物に匹敵……いや、知性がある分、それ以上に悪質で厄介だった。


「くっくっく。素晴らしい絶望の表情ですねぇ。あのお方がわざわざ私を差し向けた理由がよく分かります。あなた方のような『希望』をプチッと潰すのは、本当にたまらなく気持ちがいいものです」


 ソルベはニヤリと嗤い、ゆっくりと乙羽に近づいていく。


「さあ、あなたには消えてもらいましょうか」


 ソルベの右腕が異様に膨張し、周囲の空間を巻き込みながら必殺の一撃が振り下ろされる。


「……くっ!」


 乙羽は光の剣を構え、防ぎきれないことを悟りながらも、何とか致命傷を避けようと身構えた。


――しかし、その一撃が彼女に届くことはなかった。


 ピキィィィィィィィンッ!


 ガラスが砕け散るような甲高い音が響き渡り、ソルベの周囲を覆っていた『空間の結界』が、文字通り「凍りついて」砕け散ったのだ。


「……なっ!?」


 ソルベが驚愕の声を上げたその時、乙羽の目の前に、フードを目深に被った人物の背中が立ち塞がっていた。


「……え?」


 その背中には『第七席』の紋章が輝いている。


「あ……暗黙の白姫……様」


 第七席は乙羽を一瞥せず、ただ静かなる凍てつく怒りを目の前の敵へと向けている。


「これはこれは……第六セクターからここまで戻るにはあまりにも早すぎますね……やはりあなたはまだお力を隠しておられましたか?」

「第六セクターからっ?! 暗黙の白姫様っ! 第六セクターに大事な子がいるんです! お願いです! その子をどうか助けてください! 私の命より大切な子なんです……お、お願い、お願い……です……!」


 第七席の裾を握り、必死に祈願する乙羽。


 そんな乙羽に、第七席は自身の端末画面を向ける。


 そこには『神白桜夜は私が保護した。速やかにこの場から仲間と撤退しなさい』の文字があった。


 乙羽はそれを見て、堰を切ったように涙をこぼしながら頷くと、気絶している仲間の元へと急いだ。

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