13_無能追放と、空間の試練
「お初にお目にかかる。七大執政の一人、第六席だ。本日よりこの学園の長を務めることとなった。どうかよろしく頼む」
壇上の第六席からの言葉に歓声が上がるが、第六席は右手を少し上げてそれを収める。
「皆の歓迎に感謝する。皆も知っての通り、昨今、魔物の脅威も上がってきている」
それは全世界に駐屯している部隊からも報告が上がっている事実だ。
「特にこのアルカディア王国は、我々ガーディアンという人類の最高戦力を持って魔物の脅威を一手に担っている国だ。この学園はそんな誇り高きガーディアンの育成機関、ここにいる全員がそのことを胸にしかと刻んでおくべきことだ」
人類の最強から放たれた言葉に、コモレビ以外の者たちは胸に手を当てて頭を下げ、敬意の意を示した。
「そこで、今まで第一席が残してきた基準を変更する。副長、説明を」
第六席はそう言うと腰かけた。
変わりに学園副長に就任した第六席の副官が壇上に立ち、変更点を読み上げた。
その内容というものは、今までの第一席が大事に残していた、「全ての生徒に対して平等にチャンスを与える」方針とは全く違い、「魔導力の高さによって全ての成績や序列が決まる」方針へと変えられていたのだ。
「この学園に無能は不要である。魔導力ランクE以下の者は、ガーディアンとしての将来性が皆無と断じ、即刻退学とする。対象となる58名は、今この瞬間、学園から消え失せろ 」
(そうきましたか……これでは無理やりコモレビから離されてしまいますね)
そう、先ほど挙げられた58名の中に、当然魔導力ランクFの桜夜も入っている。
「お待ちください! 恐れながら、発言をお許しいただきたく!」
「学園唯一の部隊、コモレビ隊長の月乃か。一言だけ許す」
「僭越ながら、魔導力ランクE以下を一様に無能と決めつけるやり方には賛同しかねます」
「言いたいことはそれだけか? ならば下がれ」
「し、しかし! 今まで我々コモレビは、魔導力ランクFの者を含めたこのメンバー全員で結果を出しています! それは紛れもない事実です! 今一度ご再考を!」
「二度の発言は許されていないぞ月乃隊長。これは学園長様の決定事項だ」
「まぁ待て、副長。そこまでそこの無能が「使える」と言うのなら、それを証明してみせろ」
抗う間もなかった。
桜夜の足元の空間がガラスのように砕け散ったかと思うと、次の瞬間には、彼女の体は無限の闇へと飲み込まれていた。
「桜夜っ?! 第六席様、これは一体どういうことでしょうか?!」
「あの無能は第六セクターへと送った」
「だ、第六セクターに?!」
第六席の言葉に、この場にいる全員の血の気が引いた。
第六セクターはB級やA級魔物がゴロゴロといる場所であり、ガーディアンでも何組かの部隊を編成した上で任務に当たるような場所だ。
そんな場所に魔導力ランクFの者がたった一人で放り出されてしまえば、死は確実だ。
「っ?! 一体なにを考えて!」
「お前が言ったのだ。あの者は無能ではないと。この試練を生きて帰ってこようものなら、オレも認めよう。他に証明したいものはいるか?」
第六席の問に、学園を追放される他の57名は何も言えなかった。
「さて、それでは解散とする。各教員は昨日渡したプログラムに沿って授業を開始するように」
副長の合図で、学生たちは恐る恐るその場を後にする。
コモレビもまた、一目散に学園の転送ゲートへと急いだ。
◇
「この感覚……やはり慣れませんね」
いきなり第六セクターへ飛ばされた桜夜の周囲を埋め尽くしていた魔物たちは、自分たちが何に触れたのかすら理解できずに、ただの氷塊へと成り果てていた。
獲物に群がる虫のように、大群で襲い掛かってくる魔物を鬱陶しそうに凍らせながらも、学園に残した白亜の桜でその後の様子を見ていた。
「まさかこんな強行手段に出るとは……不幸中の幸いは他の学生が飛ばされなかったことですね」
一緒に誰か飛ばされていれば力を使うこともできず、困っていたことだろう。
「それと……暴走しなかったのは賢明な判断ですよ、乙羽」
一目散に転送ゲートへと向かったコモレビは、当然ゲートを使用する許可が下りるわけもなく、そこの担当者に凄い剣幕で詰め寄っていた。
ただ、上級権力の前に従っているだけの人間に何を言っても解決しないのも事実。
「私のためなんかにあそこまで必死になって……さっさと戻らなければいけませんね」
転送ゲートを諦め、自らの足で第六セクターへと向かおうとしているコモレビ。
「一体ここまで何ヵ月かかると思っているのでしょうか」
ろくに物資も持たず、美咲の魔導獣、穂香のドローン、乙羽の翼の飛行を交代で繰り返しながら彼女たちなりの最速で必死に移動している。
桜夜はその周辺の空間に違和感を感知した。
「っ?! しまった! 敵の狙いは私ではなく、あの子ら?!」
案の定、移動していたコモレビを覆うように、空間を隔離する結界が覆った。
それは以前、第三セクターで閉じ込められたものと同じ、通信すらも遮断する厄介な結界。
そのせいで、中に閉じ込められたみんなの状態が分からない。
それよりも桜夜がここまで焦っている理由は、結界が閉じられる前に、以前対峙したことのある凶悪な気配を感じ取ったからだ。
(ファースト……いや、『セカンドスロットル』、解!)
桜夜の足元から大地が凍りつき、周囲の空間がミシミシと悲鳴を上げる。
一筋の黒雷が第六セクターの空を切り裂き、彼女は音速を超えて跳躍した。




