11_傲慢なる者と、道端の石塊
気迫に満ちた激しい訓練を終えたメンバーが仰向けに寝転がり、息を整えていた。
「桜夜、今日のウチの動きどうやった?!」
「踏み込みの角度が3度低いです」
「なんやて?! ほんならまだ足運びのクセが直ってへんいうことやんな! 後3度やな?! 3度ってどんくらいや?! 少し高めに踏み込んだらええんか?! うおぉぉぉ、もう一回訓練や!」
「桜夜、アタシはどうだった?!」
「インパクト前の力みが大きいです」
「あんだと?! いまいちインパクトの衝撃が足りなかったのはそれのせいかぁ?! つ〜ことはなにか?! まだあれ以上の威力が出せるってことだよな?! うおぉぉぉ! 巴瑞季もう一回打ち込んで来い!」
「ボクはボクはボクは?!」
「ポチ一号に魔導力を与えすぎです」
「やっぱりそう思う?!?! 最近一号が太ってて動きが鈍いの! 二号の動きに全然追い付いてなくてさ! でも威力は強いんだよねぇ〜! あっ! もしかしたら一号も二号も均等にうまく魔導力を分けられたら威力もスピードも一緒にあがるってことじゃん! わぁぁぁぁ! ボクわかっちゃんたもんね! わぁぁぁぁい!」
「さ、桜夜、私にもアドバイスをお願いします!」
「5つではなく、6つです」
「なっ?! いくら5つのドローンを操って周りを見ていたとしても、あくまで見ているのは私自身だということ……つまり、私を含めると6つの目があるということですね?! 盲点でした! さすがは桜夜です!」
桜夜が多くを語らずとも、それぞれが勝手に解釈してくれるのはありがたかった。
(会話は苦手ですが……頼られるというのも、悪い気はしませんね)
桜夜自身も幼い頃から厳しい修行を続け、己と向き合ってきたからこそ、今のこの子たちの気持ちも分かる。
自分が恩師から受けたことを、今度はその大事な愛娘と仲間たちへ少しでも返しているのだ。
コモレビは確実に実力を付けていた。
それは訓練だけではなく、防衛任務においてもその片鱗を見せ始めており、基本的に各小隊同士が大きな防衛団体を組んで任務にあたることが多い中で、コモレビだけは特殊な別動隊に組み込まれることが多くなった。
危険を伴う任務ではあるが、実力を認められた小隊のみが割り振られるその別動隊は、戦況を左右する重要拠点の防衛などを任されるまでになっていた。
それらの任務を着実にこなしていく中で、もはやコモレビを学生扱いする小隊はいなくなっていた。
◇
――それから数日後。
「おい、聞いたか? 今日、この学園に七大執政の一人が来るらしいぞ?!」
「まさかその方が学園長になられるのかな」
「元学園長の第一席様が退けられてからもうかなり経っていたもんな」
「第二席様がいいな! あの圧倒的な強さは男の憧れだぜ!」
「第三席様がいいわ! 第一席とはまた違った美の象徴でもあるし!」
「どなたでもいいよ! また七大執政様がお近くにおられるならそれだけで感無量だ」
その日の学園内は騒然としていた。
学園の外には映像機を構えた大勢の大人たちが大量に押し寄せ、学生や周りの住民たちに話を聞いている。
本来七大執政が動くということは、必ずこのようなお祭り騒ぎが起こるものだ。
七大執政の誰かが来るというだけでも浮き足立つのに、その人物が学園長に就任ともなればこうなるのも仕方のないこと。
「誰が来ると思う?」
「アタシは第七席様がいいな」
「ウチも」
「ボクも!」
「私も」
「私も絶対白姫様がいい!」
あの一件以来、全員が第七席、暗黙の白姫に夢中のようだ。
「桜夜はどう思う?」
「あ、あの人は……そういうのはやらないかと……」(私に振られても困ります……)
まさかこれほどまでに自分が慕われるとは思っていなかった桜夜は、戸惑う他ないようだ。
「確かに! あの方は目立つ行動はされないはずだもんね! だとしたら誰だろう?」
「どうせ第四席ちゃうか? あれだけ第一席のこと心酔しとったし」
「ありえますね。あの方の志を受け継ぐとか、いかにもあの方が言い出しそうです」
「ボクは第五席様でもいいなぁ! あの人も魔導獣使いだし、実際に見てみたいよ!」
多方面でこの話題は尽きない様子で、今日の授業は教員を含めてあまり集中できていない。
そんな中、たった一人桜夜だけが自分たちのすぐ近くで『空間の歪み』を感じ取った。
空気の密度が変わり、パキリと空間にヒビが入ったかと思うと、そこから音もなく一人の男が染み出すように現れた。
忽然と姿を現したその者の正体は、空間の調律者と呼ばれる七大執政の第六席だった。
さすがの桜夜もいきなり近くに現れるとは予想しておらず、対応に戸惑う。
そんな様子を気にとめるわけもなく、第六席はコモレビに近づく。
「お前たち、職員棟とやらはどこだ」
「あ、それならそっちの建物の階段上がった先を……え、ええぇぇぇええ?!」
「静かにしろ。消し飛ばすぞ」
「ご、ご無礼をお詫びします! まさか七大執政様がこんな場所におられるとは思わず、私はコモレビの隊長、月乃乙羽です! 部下の非礼は私が責任を!」
驚く巴瑞季の頭を押さえ込み、跪いて頭を下げる乙羽。
他のメンバーもすぐさまそれに続く。
「静かにしてくれればそれでいい。今のは不問とする」
「はっ、ありがとうございます」
「それよりも……お前たちが噂の学生部隊、コモレビか」
第六席は小さく呟きながらコモレビ全員を一瞥すると、桜夜の位置で一瞬だけ視線を止める。
「なぜ魔導力が低い無能がここにいる」
そして、すぐに吐き捨てるように言い放った。
「っ?! お、お言葉ですがこの子は……」
桜夜は、乙羽の発言を遮り更に深く頭を下げる。
「私はこの小隊の雑用係のような存在です。場合によっては肉壁として扱っていただければ良いかと」
そう言う桜夜の後頭部をグリグリと踏み付けると、興味がなさそうに向きを変えた。
「お前のような無能は虫唾が走る。ゴミカスは今すぐ僕の前から消え失せろ」
「はい、失礼しました」
桜夜はそそくさとその場を離れた。




