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10_王の激励と、再起の誓い

 小型モニターが付いたデバイスを大切そうに抱えた秘書が、眼鏡をクイッと押し上げると、乙羽たちがハッと顔を下げて跪こうとする。


「そのままで大丈夫だよ。コモレビ諸君、ごきげんよう。今回はこちらの都合に合わせてもらって悪いね」


 ニコッと気さくな笑顔を向けると、少しだけコモレビの緊張が解けたようだ。


「い、いえ、滅相もございません! 国王陛下」

「キミが隊長の月乃乙羽くんだね。ガーディアンの最年少隊長であるキミを含めた、コモレビの諸君にはとても期待しているよ」

「はっ! ありがとうございます」

「あぁ、それとこれは暗黙の白姫から伝言だよ。コホン、『キミたちはまだ未熟。しかし、仲間のために立ち向かったその勇気は認めます』だってさ」

「暗黙の白姫様が私たちにっ?! きょ、恐縮です!」

「キミたちは第七席が任務の『ついでに』助けたと思っているんだろうけど、それは違うよ。『キミたちだから』助けたんだよ」

「っ?! 第七席様が私たちを……」

「第七席はどういうわけか、キミたちコモレビを大変気にかけているみたいでね。おっと、これ以上言うと、僕が本人に怒られちゃうからね。ふふっ、これからも頑張ってね!」

「はい! ありがとうございます!」


 通信が切れたことを確認すると、乙羽が隣にいた桜夜に抱き付いて顔を埋めながらくぐもった声をあげる。


「わ、わだじっ、もっと強ぐなるぅっ! 次は絶対に、アタシが桜夜もみんなも全部護り抜ぐがらねぇっ!」


 これは乙羽だけの思いではなかった。


 本当はここにいるほとんどの者が、心の奥に恐怖を抱えていた。


 あまりに強大な力に打ちのめされ、初めて身近に感じた自分たちの死。


 それらに押しつぶされないよう、必死に平常心を装っていた。


 国王イヴは、コモレビ全員の顔を見てそれを読み取り、桜夜の真意を代弁したのだ。


 その言葉がどれほどこの子たちの救いとなり、前を向くきっかけになったことだろうか。


(あなたは昔からいつもそうやって私を助けてくれますね……イヴ)


 普段は絶対に口にしない言葉ではあるが、静かに心の中で感謝した。


「……暑苦しいです、乙羽。鼻水を私の服につけないでください」


 泣きじゃくる乙羽の背中を不器用な手つきで撫でながら、桜夜は小さく息を吐いた。


「乙羽の言う通りやで! ウチらも、暗黙の白姫様みたいに……絶望をひっくり返せるくらい、強くなったるんや!」

「あぁ! アタシは負けねぇ! 今度はぜってぇ負けねぇ!」

「仕方ないですね……頭に血が上ったあなた方を私が全力でサポートしてあげますよ」

「あれ? さっきまでボクの胸でワンワン泣いていた泣き虫穂香がいなくなったみたい」


 それぞれの決意に燃えるコモレビの様子を見て、秘書は満足げに頷き、音もなく病室から去っていった。


(……いろいろと好き勝手に語られたのは少し癪ですが、まあ良しとしますか)


 仲間たちの温もりを感じながら、桜夜の胸の奥底では、未だ見ぬ黒幕への冷たい殺意が静かに、そして確実に研ぎ澄まされていた。



――コモレビ全員が退院してから数日後。


 学園の第3訓練場には、かつてないほど気迫に満ちた声が響き渡っていた。


「どおりゃあああっ! 美咲、いまだ!」

「ポチ一号は右! 二号は左! 同時にお手ぇええ! 穂香!」

「了解! ドローン展開、牽制射撃撃ちます! 巴瑞季、今です!」

「しゃああ! うおりゃあああ!」


 ダミー標的が放った魔導弾を大盾の梓が弾き、その隙に美咲が使役する魔導獣が素早い連携でダミー標的を追い詰め、穂香のドローンが的確に退路を塞ぐ。


 そこに、推進力を最大にした巴瑞季のガントレットから痛烈なカウンターが叩き込まれた。


「……ふぅ。みんな、すごく動きが良くなってる。前みたいな無駄な動きが全然ないよ」


 訓練の様子を後方から見ていた乙羽が、額の汗を拭いながら感心したように頷く。


「当然や! もう二度と、あんな無様な姿は晒さへん。アタシらはコモレビなんやからな!」

「あぁ。どんな理不尽が来ても、絶対に護り抜けるように……もっと、もっとだ! 巴瑞季、お前が全力でぶつかってこい!」

「よしきた! その大盾ごと粉砕したるわ!」

「美咲、こちらももっと連携が取れるように練習しましょう」

「オッケー! ボク、本気を出しちゃうからね!」


 あの特A級魔物との遭遇と、圧倒的な力の差、そして『暗黙の白姫』からの伝言。


 絶望と憧れを同時に味わったコモレビの面々は、これまでの和気あいあいとした雰囲気を残しつつも、訓練に対する真剣度が劇的に変わっていた。


「桜夜、私たちも負けていられないよ!」

「はい」


 桜夜はギアメタルで大量の煙幕を発生させて一面を覆い隠し、乙羽の視界を奪う。


 その状態で、大量のダミー標的が一斉に乙羽へ向けて攻撃を仕掛ける。


「はぁ! やぁあ! せい! もっと、もっとだよ! アイツの攻撃はもっと速くて多くて、重かった!」


 もはや学生の訓練の枠を超え、ガーディアンの上級者が行うような訓練を始めた乙羽。


 今のコモレビであれば、Cランク程度の魔物なら、いくら押し寄せて来ようが問題なく対処できるレベルまで到達している。


 乙羽に関しては、単独でBランクの魔物を倒せるくらいのレベルだ。


 コモレビはこれまでを凌駕する勢いで急成長しており、それぞれ個人がガーディアンの小隊を持てるほどの実力にまで登り始めている。


「この訓練装置、ガーディアンでも上級者が使ってるものなんだけどなぁ」と、操作モニターの前にいるガーディアン技術部の者たちの発言を『白亜の桜』で桜夜は聞いていた。


「あ、あれ?! あれれ?! なんか攻撃が増えてない?! それに威力も増してるんだけど?! ちょっと、桜夜ぁ?!」


 ギアメタルの煙幕に紛れ、桜夜は指先で小さく弾いた氷の礫をダミーの攻撃に混ぜる。


 もちろん、乙羽に怪我をさせない絶妙な加減で――。


 桜夜の手が加わった鬼の修行を終えたコモレビは、全身を泥だらけにしながらも充実した顔を浮かべていた。

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