26 旅行に行く
この日、沙優は2時間かけてある観光地にやってきていた。少しコロナが落ち着いてきたので帰省以外では久しぶりの遠出である。ここで学生時代からの友人である莉緒花と待ち合わせなのだ。ちなみに沙優はロースクール時代の友人とは最近連絡をとっていないし、その前からの友人で定期的に連絡をとっているのは莉緒花だけである。その時々で仲のいい友達はいたのだが、司法試験を受け続けている時に縁が切れていったのである。
「こっちこっち、久しぶり」
「久しぶりー。すごい久しぶりだから、なんか緊張する」
「あーなんか分かる」
いつもは変なところを見せないようにしているので、沙優もごく一般的な会話を友達とできるのである。そのまま二人は神社に向かった。縁結びでも割と有名だが、他にも色々なご利益があるという。とはいえ沙優が願ったのは普通に家内安全である。なんだかんだ言って命と健康が一番大事だと思っているのだ。株価が上がるのを願えばいい気もするが、それは自分でなんとかすべき問題だと彼女は思っている。罰当たりな気もするし。縁結びのことは全然考えてないところが沙優であった。
二人はお食事どころで地元の海鮮を使った昼食をとり、次に美術館に向かった。その間も近況を報告したり、共通の知り合いの話をしたりと忙しい。
「そういえば、面と向かっては言ってなかったからもう一回いうけど、就職おめでとう」
「ありがとう。採用してもらえるなんて本当にラッキーだったよ」
「本当によかったね」
「そう、よかった。もう無理かと思ったりもしたしね」
莉緒花は1年前にある公立の博物館に学芸員として採用された。学芸員は資格自体はそこまで難関でもないのだが、収入がよい安定した職につくのは極端に難しい。一つのポストに何十倍どころではない応募があったりするのだ。沙優と莉緒花には、つくのが難しい仕事を目指して不安定な20代を過ごしたという共通点があり、お互いの苦しい状況を話すことができる友だちなのである。ロースクールより前の友達にはバリバリ働いている人が多く、安定した職についていないこと自体、言いづらかった。
「結構忙しいの?」
「うん、忙しい。展示とか企画だけに集中できるわけじゃなくて、他にも色々仕事があるから。でも研究も続けられるんだし、毎日楽しいよ。あ、でも締め切り前はかなり辛いんだけど」
「そうなんだね。じゃあ本当に就職できてよかったね」
「そう。自分のやってることにかなり近いポストの募集が奇跡的にあったから。いや、本当にもう少し募集のありそうな研究分野にしとけばよかったって何度も思ったよ」
「そっか。前に分野で全然違うって言ってたもんね」
「そうだよ。本当によかった。それで沙優は最近どうなの?少し前までコロナ対応の応援で忙しかったんでしょ」
「そうそう。まあ、私に専門的なことが任されるわけじゃないけど、人手が足りないから仕事量は多かったなー。ちょっと落ち着いたからほっとしてるけど」
莉緒花は夢を叶えて沙優は挫折したという違いはあるが、挫折のことも含めてそのまま話せるのはありがたい。友人も親戚も基本的にはいい人たちだが、だからこそ腫れ物に触るような感じもあるので、こっちも気を使うことになる。弁護士を目指したことに後悔はないが、煩わしいこともいくらかはあるのだ。




