17 新規公開株とPER
しばらく前から沙優は、新しい株取引に手を出そうとしていた。新規公開株の購入である。沙優は比較的最近上場した株を中心に買っているが、それなら上場する時に買ってしまえばよいのでは、と思ったのだ。もちろん、新規公開株が上場後に急騰することがある(上がらないことももちろんある)という儲け話のにおいにも惹かれているのであるが。近々、上場することが決まっている会社の中からよさそうなものを選んで購入を申し込むのだが、申し込みが多いと抽選になる。しかも証券会社ごとに割り当てがあるようで、沙優が口座を持っている証券会社は多く割り当てられているわけでもなさそうである。何度か申し込んでみた彼女だが、一度も当たったことはなく、そうそう当たらないのではないかと思うようになってきていた。
そうやって新規公開株について調べてもなかなか買えないでいるので、代わりに2ヶ月前に上場した会社の株を買ってみたりもした。株への熱中が冷めず、仕事中でも少し暇になると株価が気になってしまうという悩みは続いている。そもそも、なぜ株をするのか、沙優は自問自答してみる。一つは楽しいからで、完成に趣味化している部分がある。もう一つは将来が不安だからである。彼女は新卒で就職したわけではないので、生涯年収が低くなってしまう。老後への不安があるし、仕事だって何かのトラブルでやめないといけなくなることが絶対ないとは言えない。サラリーマンの生涯収入と言われる2億円くらいあれば、心配しなくていいのになーと思うのである。それから、使いきれないくらいのお金があれば困っている人や場所に寄付したいという気持ちもある。沙優はつらいニュースに割と感情移入してしまうタイプなのだ。
こういう風にお金が欲しいとは言え、今後ものすごく株がうまくいって、沙優の給料以上、例えば年間一千万を儲けられるようになったら仕事をやめたいだろうかと考えるとそういうわけでもない。そうなっても仕事は辞めないだろうと思う。沙優はだんだん職場でも頼りにされ始めていて、やりがいを感じている。職場には苦手な人もいなくはないが全体的に人間関係はよいので、それが続く限りはやめるのはもったいない。それに、仕事を辞めてしばらくは楽しくても、そのうち暇で暇で仕方なくなるだろうと予想できる。沙優はだらだらする時もあるが、ずっとだと飽きてしまうのである。適度に仕事はしたいのだ。
そう考えると、ものすごくお金がいるわけでもない。仕事を辞めなくてはいけなくなるリスクや老後不安もあるが、その不安がすごく大きいわけではないのだ。だったら、最初の目標のテンバガーをやめて、もう少し目標を小さくしてもいいんじゃないかとも思い始めていた。A社の株が急騰した時に早めに売ってしまい後悔したため、その後に買った100株は何倍にもなるまで持っているぞと決心しているが、それ以外の株は10万円以上の儲けがでたら売ってしまう傾向にあるので、株価が10倍になるまで待つことができていない。A社に期待を残してはいるが、自分の性格ではテンバガーを目指す投資は無理なのではと思うようになってきている。
こんな風に考えるようになったのも、新規公開株に加えて、もう一つ別の株投資のやり方が気になっているからである。それは株価収益率(PER)を指針にするやり方である。PERとは株価を一株あたり当期純利益で割った数字らしい。つまり、その会社の純利益をすべて株主に還元するとして、一株あたりに割った時に、その利益が株価に占める割合である。沙優も一応きちんと考えればわかるのだが、しばらくするとなんだっけ?となってしまう数字である。利益が株主に全て還元されたとして、何年で株を買ったお金を回収できるか、という数字とも言えるらしい。とにかく、これが株価と利益のバランスを見るのによく、特に5以下になっていると株価が割安になっているという。つまり、利益が株主に全て還元されたら5年で株の代金を回収できるということになる。確かにそう考えると、このPERは10よりは5の方がお得な株だとわかる。沙優が読んだ記事によると、ある投資家はこのPERを指標に長期投資をして成功しているらしい。割安な株を買えば、そのうち株価が上がってくるというやり方である。
沙優は自分が持っている株のPERを調べてみることにした。そうすると、IT系の株は2桁はあったりと、軒並みPERが高い。この数字は小さい方がよいので、沙優の持っているIT系の株はあまり良くないことになる。その分、市場の期待が高いとも言えるが。そんな中で、唯一5を下回る数字だったのがGooodである。
「おおー。さすが優秀な役員がいる会社」
ビジネス書を読んで、その著書が役員をしていたので買っていたGooodだが、なんとPERは4.86と理想的であった。しかし、そんな会社の株を沙優は300株しか持っていない。金額にして30万ちょいである。株を始めたころの沙優なら大金だが、最近は50万くらいは平気で株に突っ込むようになったので、こんな良さそうな株を30万しか持っていないのは勿体無いのでは、という気になってきた。そうなると、いつもの如く買わないと気がおさまらない沙優は、以前より少し株価が上がっていたGooodを500株買い足した。
この作品中の会社、人は全てフィクションです。株式投資は元本割れするリスクがある投資です。始める場合はリスク管理などの情報収集をしてからにしてください。
ネットではない証券会社とお付き合いがあると、新規公開株の購入を勧められることもあるようです。本当にいいものを勧めてくれているとは限らないので、証券会社のいうことを鵜呑みにしないほうがいいみたいです。




