15 デイトレードに手を出す
お盆である。沙優はついにデイトレードに手を出した。彼女が子供のころに一時期デイトレードが話題になったときがあり、その時にそれで儲けている女性のインタビューが強烈に印象に残っている。その人は、その日、買った値段から1円でも高くて売ればいいので、そうそう損はしないと言っていた。沙優もそれに触発されて株を始めたかったのだが、親に止められてやれなかったのだ。とは言え、今から思えば、その時の沙優に用意できたのはお年玉を貯めた10万円くらいなので、それではデイトレードに向いた株は買えなかったかもしれない。
とにかく、お盆の頃に数日の休みが取れた沙優は、子供の頃から気になっていたデイトレードをやるチャンスを手に入れてしまったのだ。損はしたくないので、急落して売り時を逃しても、そのまま保有することもできるA社の株を選んだ。とは言え、万が一株価が急落したらその日のうちに損切りをしようとも思っている。以前損切りをせずにずるずる株を持ち続けてしまった経験は生かさなければならない。持ち続けることで結局は儲けることができたのだが、含み損を見続ける経験はもう一度したいものではないのだ。沙優は朝に3865円でA社の株を買い、帰省のための移動の最中も株価をチェックし続けた。実家の最寄駅に着く直前、少し株価が上がったところで、これ以上のリスクをとるのはやめようと3885円で売って2000円の儲けである。
ところで、沙優の利用しているネット証券は買ったり売ったりするのに、一回数百円の手数料が必要である。比較的小規模な取引の場合は手数料が無料のネット証券もあるのだが、数万円を儲け出すと手数料が誤差の範囲に思えてきて、彼女は手数料を払うことを気にしていない(最近はネット証券は手数料無料の方向になってきています。今とは少し状況が違います)。とは言え、今回の取引だと2000円の利益に数百円の手数料がかかるので割合としては大きい。更に言うならNISA枠を使っていないので儲けに約20パーセントの税金もかかっている。
翌日も家族に見つからないようにしながら、同じ株を買って売り3千円ほどの儲けを出した。その翌日は少しリスクをとり株価がもっと上がるのを待ったので1万円ほどの利益が出た。ここでお盆休みは終わりである。このままデイトレードを続けていたら、いつかは調子に乗って失敗しそうな気もするので、やれなくなってちょうど良かったのかもしれない。
沙優は段々やばいと自覚し始めていた。最近仕事中も株価が気になってしまうのである。今のところは昼休憩の間に証券会社とは別の、携帯に元々入っていた株価アプリからチャートを眺めるだけで抑えているが、仕事中も気になる時が出てきた。とは言え、忙しいと株のことを考えている場合ではなくなるので、ちょっと暇な時だけだが。少し株で儲かっていると言っても、安定した公務員の給料とは比べ物にならないので、株を気にして問題を起こして、万が一クビになったら、目も当てられない。そろそろ、株への熱中を抑えないといけないのでは、と怖くなってきている。
とは言っても、数日後にまた別のIT企業の株を2800円ほどで買ってしまうのだった。一度味わった蜜をそうそう手放すことは出来ないのである。
この作品中の会社、人は全てフィクションです。株式投資は元本割れするリスクがある投資です。始める場合はリスク管理などの情報収集をしてからにしてください。




