第五十話 だから私は信じてる
「すっごいなぁ....」
ケイケイこと、鹿島楓は心底驚愕していた。引っ込み思案だが好奇心旺盛な彼女は、恐らく二度と見ることはない風景を目の奥に刻み込もうと、必要以上にキョロキョロしていた。
巨大な宇宙船に、幾多の魔獣の出現が重なった結果、彼女の暮らす地域には避難勧告が出された。
そのため、こうして沿岸地域に設置された普段は決して使われることのない地下施設に、彼女は身を寄せていたのだ。
「こんな広い施設、元々はなんのために作ったんだろう??」
すでに数百は下らないほどの人々がそこには集まっていたが、それでもスペース的にはまだまだ余裕が見受けられた。
かといって何か設備があるわけでもなく、施設というよりかはただの空洞のようだ。建設途中なのだろうか??
「..外は大丈夫なのかな..心配だな..」
来た道を振り返ってケイケイは呟く。もはや入り口は見えず、照明は電灯だけで薄暗い。そしてどこか不気味で寂しい。
けれど、意外と不安はなかった。なぜなら..
「..星奈ちゃんがいてくれてよかった。ほんと、不幸中の幸い、だね..」
一人ではなかったからだ。こういう危機的状況に際して、親しい人がいることほど心強いことはない。特に星奈は明るいからなおのことだ。
「....」
「....星奈ちゃん??」
と、思っていたのだがさっきから星奈はやけに無口だった。その少し前までは普通に二人で雑談とかもしていたのだが、今は完全に気が抜けているようで、申し訳ないが少し不気味ですらあった。
「....」
「..聞こえてる??」
「........」
「..聞こえてない??」
「........」
「「............」」
とりあえず完全に上の空であることをケイケイは理解した。
なんとなく気まずさとか、やり辛さとか、戸惑いとか、ありとあらゆる近づき難さが二人の間に流れ、同様の理由で沈黙が続いていた。
しかし、不意に星奈は言葉を発した。
「..行っちゃった..」
目の色を取り戻した星奈は、なんとなく大人な女性の雰囲気を醸し出しながら、ため息混じりに呟いた。
隣にいたケイケイは思わずなんと言っていいか返答が思いつかず、まごついついてしまっていた。
「ん?? あぁ、ゴメン!! ちょっとライトとお話ししてたんだ」
その様子に気づいた星奈は手を合わせて元気よく謝った。
「..大丈夫..星奈ちゃん」
「あぁっ、やめて。その可哀想な人を見る目。別に幻覚とかが見えたわけじゃないから!! ちゃんとテレパシーだから!!」
「あっ、なるほどね、納得」
突拍子も無い弁明だったが、それでケイケイは納得したらしい。これには思わず星奈も「するんだ」とこぼした。
「だってそれぐらいならライトさん出来そう..」
ケイケイの頭の中では、どうもそういう感じになっているらしい。だが実際はそんな万能ではない。
「そうかな.. まっ、厳密にはライトがやったわけじゃないみたいだけとね..話したのは本人だったけど..」
「なんて言ってたの??」
「ん〜、よく分かんないけど.. うまく船を奪いとったから、それ使って敵の本拠地に殴り込むみたい。
多分、これからラスボス戦に臨むのかな」
星奈が知るライトに関する現状はこんな感じであった。説明に対してケイケイはウンウンとうなづき、次いで目線を上にやった。考え事をする時の癖だ。
「ということは、ライトさん今もう地球にはいないんだ..」
「その通り。ザッツライト!!」
「..今のダジャレ??」
触れるか触れないか逡巡した上で、ケイケイは申し訳なさそうに尋ねた。
「え?? ....いやいや、そんな意図ないヨ」
どうやら言われてから気づいたようで、星奈は恥ずかしそうに否定した。
「でも..大丈夫なのかな.. 勝てるのかな..」
「大丈夫でしょ!!」
「断言するね..その心は??」
「だってライトはさ、主人公なんだよ」
星奈が発した謎の一言によって、ケイケイは非常に困惑した。
が、それに星奈は思い出を振り返るように続けた。
「..ずっと側で見てきたから分かるんだ。どんなに辛くて、どんなに苦しくても、ライトは立ち上がって、道を切り拓いてきたんだよ。死にたくなるほど暗い過去も、壁だらけの現在も超えて、必死に未来に進もうと、繋げようとしてるんだよ。
そんな人、完全に主人公でしょ。主人公がラスボスに負けて終わる物語なんて、私知らないもん。だからきっと、ライトは勝つよ。勝って、帰ってくる、約束したんだから」
「......そうだね..主人公なら、どんなピンチになっても切り抜けられるよね」
「うん、だから私は信じてる、ライトのこと」
星奈が満面の笑みを浮かべる。ケイケイもそれに薄く微笑んで返す。
「そっか.. ライトさんが主人公なら、星奈ちゃんはヒロインだね」
「..私が??」
自分を指差す星奈に、ケイケイはうんと頷いた。
「....じゃあ私は何すれば良いんだろう..」
「応援すればいいんだよ。ヒロインの応援に応えて、主人公がラスボスを倒す。これで完璧だよね」
「確かに。でも届くかな、宇宙の果てまで..」
「きっと届くよ」
「..そうだね。届けるぐらいの気持ちで応援しないとね」
「それでこそ、星奈ちゃんだよ」
また、二人は笑いあった。
「ケイケイ..ありがとう」
星奈の感謝の言葉にケイケイは「今言うんだ」と少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうだった。
「....口に出すのが大切だから、言えるうちに..」
そう言うと、今はもう遥か彼方、宇宙の果てにいるライトに思いを巡らせた。
・・
・・・
・・・・
「いよいよ、目標地点だ..」
船でワープ航法を行なっているライトは、ディスプレイを確認した。もう到着まで、一分とかからない。
そして、ついに視界が開け、目の前には広大な宇宙が広がっていた。
その一つの、球体ではない、異形の星を見つめるとライトは目を細めた。
「..久しぶりだな.. ホントに帰ってきた..」
かつての故郷、そして今は打ち倒すべき星、万感の思いを胸に抱き、ライトは当然熱くなる。
「さぁ..クライマックスだぜ!!」
エンジンに青白い炎が灯り、船は星に向け全速前進した。
【どうせもうすぐ終わっちゃうから色々ぶっちゃけちゃう劇場】
ケイケイについて
主人公のライト、ヒロインの星奈、メインヴィランのシャドウ、に次ぐ出番を持ち準レギュラーとして活躍したケイケイこと鹿島楓ですが、元々の想定では出番は一話こっきりのゲストキャラになる予定でした。
しかしヒロインの親友というポジションと、UMAが好きという設定が相乗効果を発揮した結果、図らずも非常にお話の起点にしやすいキャラになったので、その後もちょくちょく登場していただくことになりました。そしてその代わり、星奈もう一人の親友、ナナちゃんの出番が消滅しましたとさ..
ちなみに元気いっぱいアホの子の星奈とは対照的に才色兼備、ただしUMAが絡むと残念になるという感じのイメージでキャラを決めました。が、実際には作者の描写能力の致命的欠乏によって、作中そういう風に見える部分は少なかったような気がする..
さてそんな感じでお話作りに貢献してくれて、作者的にはありがたかった彼女ですが、今回で出番は終了です。お疲れ様でした。




