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宇宙をかけた戦士の戦い  作者: イシハラブルー
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第四十五話 伝説の女王




 三月のある昼下がり、商店街はそれなりの賑わいを見せていた。そこに所狭しと立ち並ぶ店は、各々が少しでも客を集めるためにと、セールを決行したり、異常にカラフルな看板を掲げたり、はたまた店主がやたら大きな声を響かせたりと、精一杯の創意工夫を施していた。

 何しろ三月というのは転換期、四月から始まる新生活のために居住を移してきた人も多い、新規の客を獲得したい販売者にとってみれば、願っても無いチャンスなのだ。

 しかし、そんな彼らの思いを踏みにじるかの如く、道行く人の注目を一身に集める者がいた。目立つ鮮やかな金髪に、RPGの世界から飛び出してきたような服を着こなす彼こそが、今日まで魔獣と戦い続けてきた宇宙の戦士ライトである。

 彼は目を尖らせ、すれ違う人達の顔を吟味すると、ふと足を止め、懐から黒いトランシーバーを取り出してスイッチを入れた。通信の相手は彼の相方、星奈である。


「あ〜..もしもし、もしもし?? 聞こえてるか??」


「聞こえてるよ〜」


「こちらライト、ただ今商店街の薬屋前、怪しい女は見当たらない。そっちの状況を、どうぞ」


「こちら星奈、ただ今デパートの屋上から望遠鏡で街を監視中、こっちも怪しい女は見当たらない」


「う〜ん..そっちもダメか..」


 二人はお互いの状況を確認しあった。なにやら“怪しい女”とやらを探しているようだが、まだ見つかっていないようだ。


「まぁそう簡単にはいかないよね。そもそも本当にいるのかも怪しいし」


「それに..この街は人が多過ぎる。仮にいたとしても、この大勢の人の中から見つけるのは至難だな」


「だよねぇ..」


 この街の人口は千人を優に超える、その中から特定の一人を探し出すのはもちろん容易ではない、かなり根気がいる。午前中から調査を続けている二人の精神はすっかり摩耗していた。


「「....はぁ」」


 トランシーバー越しに二人のため息が共鳴した。そもそもなぜこの二人はこんなことをしているのか、その発端は昨日に遡る

















 昨日、ちょうど星奈が夕飯の蕎麦をすすっていた時、スマホが鳴った。


「あ、ケイケイ?? どうしたの、またUMAでも出たん??」


 着信の主を確認した星奈はあっけらかんと応えた。


「..そ..そんなに私ってUMAのことばっかりかな??」


 彼女の名は鹿島楓、通称ケイケイ、星奈が通う大学のUMA研究会(非公認・部員星奈のみ)で部長を務めている。そんな彼女は当然、筋金入りのUMAオタクである。


「八割ぐらいそうでしょ」


「そ..そんなに..かな」


 だが本人にその自覚はないらしい。


「まぁ、冗談はさておき....どうしたの?? まさかまたストーカーか..」


 滅多に出すことのない凄みのある声で星奈は言った。クリスマスの“あの事件”から少し経つが、まだ記憶には新しい。もちろんあの事件で味わった後味の悪さを彼女は忘れなどしなかった。


「ううん、不思議なくらいあれから何もないよ」


「そう....そりゃよかった」


 星奈は安堵したが、ライトは傍で苦々しい表情を浮かべていた。彼も彼で二人とは違う、別種の後味の悪さをその事件で味合わされていたのだ。

 だが今回の件はそれとは全く関係ない。


「....じゃあ本題に入るけど..まぁ実のところ半分UMAみたいなもの。それに関する調査を手伝って欲しいんだ..」


「なぁんだ、やっぱり」


「でも..今回は深刻だよ」


 電話越しだったが、その声色からはケイケイの表情がありありと分かるようだった。


「最近ニュース見てる??」


「ボチボチかな??」


「じゃあ“連続高校生惨殺事件”は知ってるよね??」


「....嫌な事件だよね..」


 “連続高校生惨殺事件”、呼んで字のごとくである。ここ数ヶ月に渡って四名の高校生男女が惨殺された。犯人は未だ捕まっておらず、行方もわかっていない。その犯行は一定内の地域で発生しており、そして見つけられた遺体はどれも上半身が激しく損壊させられていた。

 この猟奇的な事件は瞬く間にメディアによって伝えられ、色々と社会問題まで引き起こしているため、星奈も当然ながら知っていた。


「その事件について、ちょっと気になることがあるんだ」


「気になること??」


「うん。なんでも、現場の近くには“大きなマスクをつけた女”が決まって現れているんだって..」


 このことはどのメディアでも触れられていない、だから星奈はケイケイが語るこの情報を知らなかった。


「?? ..それって普通にソイツが犯人ってことなんじゃないの?? 放っとけば警察が捕まえるでしょ」


「私もそう思う。でもね....もし、彼女がただの人間じゃなかったとしたら..」


「ただの人間じゃない??」


「うん.. だってよく考えたら、普通の女の人がいくら死体だからって、原形をとどめないぐらい滅茶苦茶にできると思えないよ」


「それは..まぁ確かに.. じゃあ......どういうこと??」


 星奈はない知識を振り絞ろうとしたが、諦めて考察をケイケイにゆだねた。


「結論から言うとね..私はその女は......“口裂け女”じゃないかって思ってるんだ」


「え"!? 口裂け女..」


「うん..確証はないけど、そんな気がするんだ。できればこれが本当かどうか確かめたいんだ。手伝ってくれる??」


 あまりにぶっ飛んだ答えに思わず星奈は聞き返したが、どうやらケイケイは大真面目らしい。


「..そんな突拍子もない.. そもそも口裂け女なんてただの都市伝説でしょ.. 実在するわけないじゃん、しかも平成の終わりに..」


 が、それはいくらなんでも非現実的すぎる話で、流石に鵜呑みにはできない。ただ否定しつつも、星奈はどうも歯切れが悪かった。何というか、記憶の片隅からナニカに引っ張られるような..そんな気がして、この非現実的な話を完全に否定できなかったのだ。


「....まぁ、調べるだけ調べてみようか。」


「ホント!! ありがとう!!」


 星奈が調査に協力してくれることを知り、ケイケイは子供のように喜んだ。


「じゃあ..細かいことは後で改めてメールするから!! ありがとう!!」


 そう言い残してケイケイは通話を切った。


「......どう思う??」


 通話を終えるなり、星奈はライトの方を向いて尋ねた。


「どうって言われても..オレには分からんよ」


「正直、いるわけないと思うんだ。でも....」


「でも??」


「うん.. なんか“でも"が付いちゃうんだよね。なんでだろ??」


「いや....オレに聞かれても..」


 何も知らないライトはただ困惑の顔を浮かべるのみだった。


「まっ..調べればいいか。ライトも手伝ってくれるよね??」


「....まぁ、仕方ない。手伝おう」


「..ありがと」


 これが昨日の出来事であった。本来なら今回の調査はこの三人でやる予定だった。しかし肝心のケイケイがまさかの急病でダウンしたので、仕方なく残された星奈とライトが調査を行うことになったのが、今までの流れであった。

















 しかしその調査も全く進展しないでおり、元々確固たる意思で調査しているわけでもない二人の間には既に諦めムードが漂っている。


「いないねぇ..」


「いねぇなぁ..」


 さっきまでとは場所を移し、二人は学校近くで人通りの少ない道を徘徊していた。

 なんでもケイケイ曰く、口裂け女は人通りの少ない通学路とかに現れるのが定番らしいので、その伝言を受け、捜索範囲を絞ったのだ。

 二人はもうひたすら闇雲に探すのに疲れた果てたらしく、心なしか朝より目が死んでいる。


「あ、人だ.. マスクしてる..」


「....あの人はただ花粉症なだけだと思う..」


 よくよく思えば、春なんてマスクをしてる人が最も多い時期なのだから、こんなにも口裂け女を探すのに最も適していない。

 最初のうちは二人もマスクつけた女の人を見つけるたびにドギマギしていたが、一人また一人と外れを引き続けるたびに、顔から感情が抜け落ちるのだった。


「..堪えるなぁ..終わりが見えねぇ..」


「はぁ.. ....疲れた」


 二人のテンションはどん底であった。


「「・・・・(いつまで続くんだ....)」」


 別に今すぐやめたっていいのだが、下手に長い時間を費やしてしまった結果、もったいないという心理が働き、二人は降りるに降りられないのだ。


「......飴舐める??」


 ポーチの中身を漁りながら星奈は尋ねた。


「..一つくれ」


 そのライトの答えを聞いて、星奈は持っていた一つ目の飴を手渡し、自分は別の飴をポーチから取り出した。


「..珍しい、どう言う吹き回し??」


「ん.. 気分転換だ..」


 ライトはぶっきらぼうに一言答えた。

 包装を剥がすと、二人は琥珀色のべっこう飴を舌の上で転がした。静かな道のおかげで、歯と飴がぶつかるカラコロという音が、二人にはやけに大きく感じられた。


「・・(しかし、今回ばかりは空振りか.. ケイケイの情報は馬鹿にできないから調べてみたが、ここまで何もないとなると、流石にもう無理だろ.. いい加減これ以上時間を無駄にするのも..........あれ??)」


 物思いにふけっていたライトがふと横を見ると星奈がいない。だが案ずることはなく、すぐ後ろで道路脇の壁を見て立ち止まっていただけだった。正確に言うと、見ているのはそこに貼ってある写真である。


「..何見てんだ??」


 ライトも星奈が見つめる写真を横から覗き見た。貼ってあったのは、どこにでもありそうな“霊園”のポスターであった。


「..どうした??」


「なんか....ここまで出かかってるんだけど..」


 星奈は首に手を当てて見せた。


「何がだよ..」


「う〜ん......“でも”の正体..」


 そう言うと、星奈は顎に手を当て写真とにらめっこを始めた。

 ライトは気を遣って黙ってその様子と、写真を見ていた。

 が、その時空気を読まずに星奈のスマホの着信を報せる調べが鳴り響いた。


「もしもし?? ....ケイケイ!?」


 着信の主はケイケイであった。


「あ....星奈ちゃん......」


「どうしたの、突然!? インフルなんでしょ」


「..うん.... でも、伝えなくちゃ....いけないことがあるんだ....」


 声は掠れているし、呼吸も電話越しに聞こえるほど激しい。明らかに無理をしている、それでもわざわざ電話をかけたのだ。

 何かを察した星奈とライトは口も挟まず、今にも消えそうな声を逃さぬよう耳をすませた。が..


「..星奈ちゃんたちが今調べてる..じけ//・・・・」


「あれ?? ケイケイ?? ケイケイ!? もしもし!?」


 二人の配慮を嘲るように、なんの前触れもなく通話そのものが突如切れてしまったのだ。


「なんだったんだ、今の電話??」


「さぁ?? 話終わる前に切られちゃっ......ん??」


 ふと画面を見た星奈は疑問符をあげた。


「どうした??」


「..圏外だ....さっきまで使えてたのに......」


 画面の左上に表示される圏外の二文字。その二文字が何やら不穏な空気を醸していた。

 やけに生暖かい風が吹き、空から雨の雫がこぼれ落ち、背筋を震えさせた。

 が、二人はこの状況に妙なデジャヴを覚えていた。それがどこから来るのかは、お互いまだ分からないようだが..



 

































「......ワタシ、キレイ..」


 突如意識の外から放たれた異物の声、二人に冷や汗をかかせるには十分な威力だった。


「......ネェ..キレイ」


 女はなおも尋ね続ける。星奈とライトは目配せした。


「はい..綺麗です」


 星奈が答えた。すると、女の手は顔の半分を覆うマスクに伸びていった。


「....コレデモォ..」


 女はマスクを取った。マスクの下に隠されていた素顔は、口が耳まで裂けている、あの“口裂け女”そのものだった。


「見つけたぞォッ!!」


 女が尋ねるや否や、ライトは駆けて行って飛び回し蹴りを首筋に叩き込み、その体を吹っ飛ばした。


「えぇっ..問答無用!?」


 容赦なさすぎるライトの行動に、星奈は若干困惑した。

 が、口裂け女は当然のように立ち上がった。歯をむき出しにして、今にも飛びかかれる態勢だ。


「ア"ァァァア"ッッ!!」


-ドゴッ-


「単調だな」


 リプレイのように吹っ飛んだ女を見てライトは呟いた。

 何度倒れようと、女は立ち上がり襲いかかる。だが、その度にライトは軽々と跳ね除けてみせる。


「うわぁ....口裂け女ボコボコしてるよ.. 可哀想..」


 影から見守る星奈がドン引きするほどに優劣は決していた。


-ガッッ-


 ハイキックをくらい、女は宙を回転しながら吹っ飛んだ。


「・・(なんだろう.. やっぱりこの感覚..どこかで)」


「ライト!? 危ない!?」


「!? オリャッ」


 気を抜いていたところを女が強襲するも、ライトは何事もなかったかのようにパンチをかわし、背負い投げの要領で投げ飛ばした。

 が、女はすぐさま跳ね起き、そして足で地面を鳴らした。


-ダッッ シュッッ-


「!?」


 女は2005年の某特撮を彷彿とさせる高速移動でライトに反撃する。


-バッッ ザンッ ザンッ シュッッ-


 翻弄されるライト、だがこの程度で押し切られるのならば、彼は今この場にいない。


「・・(見えない.. でも、見える!!)」


 クリスタルを砕き、光の剣〈光剣フォトロン〉を召喚、そしてそのまま振り向きざまに剣を振り切った。


-ジャシュッ-


 斬撃音が天高く響く。そして、女のスピードが緩んだのを見逃さない。勝負を一気に決めにいった、


「ハッ」


-ズバ-


「デヤッ」


-ズバズバッ-


「オァァアッッ」


-ズバババババババッッ-


 目にも止まらぬ斬撃が、女の体を的確に捉える。


「光剣連斬!!!!」


 女は青い炎に包まれてその場に倒れこんだ。その様子を一瞥すると、ライトは剣をクリスタルに収容し、ホッとため息をついた。


「....終わった??」


 物陰からヒョコヒョコと出てきた星奈が尋ねた。


「..まぁ、これで一件落着..かな。もうこれ以上犠牲者が増えることもないだろう..」


「そう..良かった.. それにしては..随分浮かない顔をしているね」


「あぁ..なんか違和感が拭えないっていうか.. それがどうにも気になってな」


「私も....なんか全然スッキリしないんだよね」


 なんとか口裂け女を見つけ出し、無事に退治した。これ以上ないくらいことは進んだ。にもかかわらず、二人の表情はこの空のように曇っているのだ。


「まぁ、でも..元凶を潰したんだ。違和感は後で考えれば良い。とりあえず帰ろうぜ、疲れたよ」


「......うん..」


 どうにも釈然としないまま、二人は無理やり自分自身を納得させた。

 足取りは鉛のように重く、髪を引っ張られるよう。何かが告げている、このままではいけないと..


-ザザザザザッッ-


 一陣の風が強く吹いた。だからではないが、なんとなく後ろが気になったライトは、ふと振り向いた。



-ブシャァァッッ!!!!-



 左腕を襲う劇痛、噴き出す血液、一瞬のうちにライトは組み伏せられた。


「ヴッ....(口裂け女(コイツ)、さっき確かに....!!)」


 振り解こうとするも、片手ではうまくできない。が、この土壇場でライトはようやく気がついた、デシャヴの正体に。



「・・(そうか、分かったぞ!! 違和感の正体が!! オレたちは口裂け女(コイツ)と同じ事例に遭遇してる!! 

 だからだ、だから星奈(アイツ)は空想の存在がいないと言い切れなかったんだ。オレが戦闘中に感じた違和感も一緒だ。()()()もそうだった.. オレは確かに勝った。勝ったのに、倒せていなかった。

 間違いない!! 口裂け女(コイツ)は..あの鬼神と同じ....人が産んだ化物.... 具現化だ!!!!)」


「シャァアアッッ!!」


 女は、ライトの首を握る力を強めた..







「クリスマス事件」に関しては25話、26話


「鬼神」に関しては10話、11話を参照ください。

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