第四十四話 時空をかける滅光(後編)
〈前回のあらすじ〉
シャドウが倒れ、束の間の平和を満喫していたライト。だがそんな時、突如時空間ゲートが開かれ、別の宇宙からの危機が迫ろうとしていた。さらにそれに引き寄せられたかのように魔獣が現れ、事態は悪化の一途を辿る。そしてライトが魔獣と死闘を繰り広げていたその最中、ついに凶々しき異空の戦士が舞い降りたのだった。
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ライトと魔獣の戦いはライトの優勢に進んでいたが、それももう分からなくなってしまった。異空の戦士の乱入によって生み出された緊張が場を完全に支配し、ライトは迂闊に動くことが出来ない。幸いなのは乱入者がライトに背を向けているせいで、まだ彼はライトに気づいていない。だから猶予があった。
「・・(さて..どうしたものか..)」
その隙に、ライトが額に汗を流して思案にくれていた。その時だった。
「グォオオッッ!!!!」
ライトと共に吹っ飛ばされていた魔獣、マバグズンが、蒸気機関のようなけたたましい咆哮と、鋼を打ち付けるような足音を立てながら、真正面から乱入者に襲いかかったのだ。
対して乱入者は、極めて静かにその手に持つ剣を腰に構えた。
-キュビンッッ...... ズガッンッッッ!!!!-
次の瞬間、爆弾でも落ちたような低音が鳴り響いたかと思うと、それに続いて火柱が上がった。魔獣は全くなすすべなく、脆くも一瞬で爆散した。今まで数多くの星々を圧倒的な力で制圧してきた彼らが、それを上回る圧倒的な力によって蹴散らされたのだった。まさに因果応報だ。
「....嘘だろ..」
始終の光景を目に焼き付けられたライトは、心底驚いていた。よもやあの魔獣が、ましてや装甲に絶対の信頼を持つ個体が、その装甲を真正面から突き破られる光景など、ライトはこれまで見たことがなかった。そのあまりのショックで、その場で金縛りにあったように動けなかった。
「コイツ......ヤバイな..」
できればこのままお引き取り願いたい、可能ならば穏便に事を済ませられないものかと、ライトはそう願っていた。
そもそも目の前にいる存在がまだ敵と決まった訳ではない。魔獣を倒してくれたのだから、味方の可能性もある、大いにある。しかしそれらの願いが希望的観測であることも重々理解していた。
だからソレが振り向いた時に見せた、真紅に染まった目を見ても大して驚きはしない。その代わり全てを察した。オレを殺す気だ....と。
「....」
-ザッ....ザッ....ザッ....-
ソレはゆったり忍び寄る。首の座っていない赤子のように頭をグラグラ揺らしながら、その口元を引きつらせ、ひたすら無感情で..引きずり込まれるような目を浮かべ。
「随分と..余裕ぶってるじゃねぇか!?」
-ザッ....ザッ....ザッ....-
「・・(話は通じそうもないな、これじゃ..)」
ひたすらその歩みを止めない敵に、ライトは戦闘がもはや避けられないことであると理解し、仕方なく光剣を構えた。
「・・(コイツはもう狂ってるとかそんなじゃない....壊れてる..)」
無表情で嬉しそうに、双剣を拍手するように乱暴に叩き合わせるソレの姿が、ライトにより一層そのことを確信させた。
他にもまだ言い知れない嫌悪感はあるが、既に猶予は失われていた。だから下らない雑念は捨て去り、戦うために心を研ぎ澄ました。
「・・(とりあえず..出方を伺うか..)」
いささか消極的だが、相手の手の内が全く分からない現状、そう出るのは仕方なかった。何しろ相手は一撃で魔獣を葬れるほどの力があるのだから下手はこけない。こいたらほぼ間違いなく死に至る、まともならば慎重に動かざるを得ない。
そしてお互いが間合いを取った時、敵の目は爛々と輝いた。
「・・(来る..!!)」
ライトは身構えた。果たしてどんな攻撃を仕掛けてくるのか?? ありとあらゆる可能性を考え、その双剣の動作を注視した。
-スゥッ.... ズトッッ-
敵は一瞬で剣を逆手に持ち替えると、そのまま地面に突き刺した。
「・・(一体何を......!!!?)」
一瞬呆気にとられるも、すぐに何かを察したライトは目線を足元へ向けた。
-....ピシッ..ピシピシピシピシッゥ..!!-
「!!!!」
その足元からはマゼンタ色の刺々しい結晶が、次々と地面から突き出てくる。
「くっ....そっ..!!」
ライトはバク転にバク転を継ぎ、迫り来る結晶を紙一重でかわす。
「・・(追いつかれる!!)」
が、結晶の生える速度はなかなか速い。追い立てられたライトは天高く跳躍!! だが結晶は連鎖的に、生えた結晶そのものからも突き出てくる!!
-ピシピシピシピシピシィッッ!!!!-
・
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「ウッ....危ねぇ..」
済んでのところでエネルギーの射程外に外れたライトは串刺しにされることは回避した。しかし頰から滴り落ちる血が紙一重だったことを物語っている。
「・・(それにしても、すごいエネルギーだ..)」
生成された、天を貫くようにそびえ立つ結晶の塔を眼前に、ライトは改めてその脅威の大きさを知る。
-バギィィィンッッ-
「!!!?」
そしてダイヤモンドよりも硬い塔を造作もなく破壊する斬撃が飛ばされ、ソレが秘めた破壊力にライトは戦慄した。しつつも、爆風に煽られながらもなんとか回避。背後のビルに剣を突き立て壁に張り付き、一帯を見下ろしたが..
「・・(いない!? どこ行った!?)」
敵の姿が見えない。しかし背筋の震えが位置を感じ取らせた。
「!!!!」
上空から迫っていた。結晶の翼を生やし、空をはためき、双剣を研ぎ澄ませていた。
-ズダンッッ!!-
放たれた斬撃を、空中で巧みなバランス感覚を発揮してライトはかわす。
が、敵もビルの壁に張り付き、両者は天と地を背に相対する。
-タッッ-
敵の振り向きざまにライトが仕掛けた。落下の勢いも加えて突きを繰り出す。が、首を傾けられかわされるた。そのまま横に振った薙ぎ払いも、ブリッジするような動きでかわされた。
-ゴッッ-
ライトは地面に蹴り落とそうとするも、脛を足で抑えられ始動を封じられる。さらに顔を狙ったカウンター斬りが左から来た。
-ヒュオッ-
重力に囚われないバク宙によって、剣は肉を斬り刻むことはなかった。皮は持ってかれたが..
「チッ....吹っ飛ばしてやる!!」
ライトは剣にエネルギーを収束させた。
「ブレードショット!!」
それを光の刃として飛ばす。が、いとも簡単に砕かれてしまう。
「やっぱなぁ!!」
それを読んでいたライト、もう一発光の刃を飛ばした。しかし今度のは少し違う、それを追って自身も駆ける。そして刃をキックで加速させ、さらにドリルのように回転しながら突っ込む!!
「落ちろッ!!」
「・・・・」
敵は双剣をクロスさせガードの態勢をとった。
-ドボォォムッッ・・・・・・-
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「......クッ、やっぱダメか..」
ライトは纏わりつく瓦礫を背筋を伸ばして落とした。同じことを敵もしていた。大技を食らってなお、余裕が見える。
「・・・・」
「・・・・」
-ダダッッ-
両者にらみ合った後、全く同じタイミングで走り出した。
-ダンッ バッ....-
-ガキィィィィッッ-
右回り、左回り、お互いの剣がぶつかり合い甲高い音を響かせた。
-ピキッ..-
「!!」
だがその中に混じった不協和音が、ライトの顔を歪ませた。
-ピキッ..ピキピキッ....バキィィィッッ!!-
ライトの所有する剣、光剣フォトロン、その剣身が無残に砕け散った。
そして武器を失ったライトは一旦跳びのいて安全圏を確保した。
「・・(随分と、綺麗に折られたな..)」
折られた断面を指でなぞり、ライトは舌打ちした。そして使い物にならなくなった剣は、止むを得ずクリスタルに引っ込めた。
「・・・÷」
目の前にいる圧倒的な強敵、今までなら剣と一緒に心も折れていた。だが、今は違う!! その心が折れることは決してない。なぜなら....
「....来い、魔双剣パンドラッ!! オレに....オレに大切な人を守らせてくれ!!!!」
そう、大切な人がいるから。その人を守りたいと言う思いがある限り、その心は折れない。そして、その剣は思いに応えてくれる。
「ソード・ア・ロット!! 散開!!」
号令と共に生成されたエネルギーの剣群が敵を取り囲む。
「逃げ場はない、行け.. デッドエンドソードッ!!」
-ガガガガガゴゴガッッッ-
剣は四方八方から抜け目なく、夜空の流星群のように降り注いだ。
「やったか?? ....!!!?」
キラキラと粒子がこれまた星のように輝いていた。そしえその中に敵はいた、全くの無傷で。
「?? あぁ、そうか..結晶で防御したのか..」
動揺するも、地面に突き刺さる敵の剣を見て、ライトはカラクリを悟った。
「でもそれじゃ、隙だらけだ!!」
すぐさまテレポートで敵の背後に回ったライトは剣を振り下ろした。
-ガッッ-
しかし敵は素晴らしい反応で剣を取りガード、ライトの攻撃は弾かれる。
「ハァァァッッ!!」
弾かれたライトは叫び、回りながらクロス状の斬撃を飛ばす。
-バシュゥッッ-
「まだだ..」
一帯は爆煙に包まれるも敵が倒れていないことを感じ取っていたライトは、さらなる追撃を加えるために駆けていった。
-ガガガガッッ-
-ギギギィィンッッ..-
-ボォォォオムッッ!!-
ホワイトアウトした視界で、幾度となく甲高い音が響き、時折火花も散る。見えなくとも激戦であることは容易に想像できる。
-ガギンッッ..ガチッ..ガチィッ-
二人の鍔迫り合いに圧され煙が消し飛んだ。そして互いのテンションが、ボルテージが、上がっていく。その体が、オーラを、輝きを放つ!!
「オレは......オレは負けないッ!! 大切な人を......守り抜くんだァァァッッ!!」
ライトは翼を装着、敵もそれに対応するように翼を生やす。
「さぁ、行くぜッ!!」
両者飛び立った。空気を置き去りにして、空を駆け抜ける。空には二人の衝突による白い輪が何度も作られ、その度に空気が重々しく揺れる。
「ミリオンソードッ!!」
無数の剣が敵に迫る。一直線、追尾、先読み、それぞれが思い思いの軌道を描いて。
しかし、敵はそれをかわす、かわしてしまう。身を翻し、翼をたたみ、剣で弾き、荒々しくも美しい身さばきでかわしてしまう。
激しい空中戦を繰り広げる両者は分厚い雲の中に突っ込んだ。
-ガガッッッ バチッッ-
-ギィンッ ギンッッッ-
ぶつかり合う、ぶつかり合う、雷鳴のように激しく何度もぶつかり合う!!
そしてついに、両者は奥の手を斬り出した!!
「ソード..アルティメイタムゥゥゥッッ!!!!」
ライトは双剣に全てのエネルギーを結集させると、そのまま敵に一直線に突き進んだ。敵も同じく、双剣に持てるエネルギーを結集させ、ライトを迎え撃つ。
「デェェェリャァァアアッッ!!!!!!」
-バヂヂヂヂヂヂヂッッッッ-
雷電が舞い踊る!!
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-ズドンッッッ!!!!-
両者は光の軌跡を描いて、地に落ちた。
「・・・・」
「・・・・」
-ピシッ........バリンッッ-
双剣が、敵の双剣が砕け散った。そして、地に伏した..その胸には、十字が刻まれていた。
活動を停止した異空の戦士は、招かれるように再び時空間ゲートに吸い寄せられていった。
「..終わったんだな、一つの物語が..」
その光景を見ていたライトは、なんとなくそう呟いた。
「..オレの物語は........ハッピーエンドで終わればいいな..」
誰に言うでもなく、自分に言い聞かせるようにそう言うと、ライトは帰るべき、帰れる場所に帰って行った。
その後ゲートも閉じ、この騒動はライトの心に一抹の虚しさを残して終幕したのだった。




