表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙をかけた戦士の戦い  作者: イシハラブルー
39/56

第三十九話 シャドウメモリーズ



「あんたがライトを・・・・育てた!!!?」


 予想外の言葉に星奈は目を見開いた。その驚きに呼応して、手首に繋がれた鎖はジャラジャラと音を立てた。

 一方でシャドウは淡々と、平然に、至って落ち着いた様子で続けた。


「そうだ.. と言っても、人間の子育(それ)とは違う。ボクがアイツにやったのは、魔人として必要な知識と、戦闘術を植え付けただけ.. 要はお前たちの星で言うところの師匠役をやってたと言うわけさ..」


「そ..そんな関係だったんだ..」


 しかし言葉のランクが下がっても、未だに星奈の驚きは衰えない。ライトとシャドウ、この二人が同族であることは、彼女にもなんとなく推察できていた。しかし、その関係まで推察するのは流石に不可能であった。


「じゃあ拘ってるのも、ライトがあんたの弟子だから??」


「それもあるがそれだけじゃない.. 聞きたいか??」


「はい..」


 好奇心に忠実に、星奈は肯定した。そしてシャドウも躊躇することなく、すんなりと昔話を始め出した。


「・・・・もう何百年も前の話だ、アイツと初めて会ったのは.. まだボクの両眼が輝いていた頃だ.. アイツが造られた、少しばかり前の時期は戦線が最も激化してた頃で、魔獣だけでなくボクら魔人からも犠牲が相次いだ。その時までは魔人は全員で十一人いたんだが、その戦線が収まる頃にはボク含めて三人まで数を減らしてしまったんだ。で、流石に指揮できる要員が三人だと流石に運用するのに少な過ぎるから、補充要員として、新たに十二番目の魔人として造られたのがアイツってわけだ。

 これで運用の円滑化を図ったわけだが、魔獣と違って、魔人は造られて即座に戦闘ができるわけじゃない。一応生まれたての時でも力は強い、そんじょそこらの一般宇宙人なんかとは比べ物にならない。ただその力を使うための知識と技量は、後からインプットする必要があった。だからいち早く実践で使えるようにするためには指導役が必要になるんだが、その指導役を任されたのがボクだった。

 状況が状況だし、なるべく早く実戦で使えるようにしてくれ、って要望があったせいで訓練は相当厳しかった。多分間違いなくアイツは大変だったろうが、ボクとしても指導役をするのは初めてのことだったから、どうやって何を教えたらいいかよく分かんなくて大変だった。とりあえず安易に武器を手放さないことと、なるべく背後を取ることだけは手厳しく叩き込ませた。あと....回避優先の思考も植え付けさせた。

 ..アイツの頑張りとタフさのおかげで、早い段階でなんとか実戦運用できるレベルには到達した。そうしてすぐに、アイツには任務が与えられた。とはいえまだ準備不足感は否めないし、不安もあったから、アイツの最初の任務にはボクも同行した..」


「その任務っていうのは..今あんたがやってるのと同じ..??」


 星奈の問いに対し、シャドウは軽くうなづくにとどめた。


「ほぼ一緒だ。まぁ任務の中身は別に問題じゃないから割愛するとして.. 不測の事態の連続で、ボクもアイツも死に目にさえあったが、なんとか予定外の形ではあるがボクたちは最初の任務を無事達成した。それからはお互い別の任務についたせいで、あんまり会うことは無くなったが、それでもボクは可能な限りアイツのことを気にかけてた、可愛い弟子だったからな。

 だがある日、アイツはボクたちの前から忽然と姿を消した.. アノウが言うには、任務中突然連絡が取れなくなったそうで、おそらく死んだのだろうとのことだった。

 ・・ボクなりに..結構悲しかったんだぜ?? もちろんいつ死ぬかわからないことくらいは重々分かってはいたが、いざ自分がその立場に置かれてみたら、思いのほか悲しかった....泣けないけど..

 それからボクはしばらく任務に没頭していた。アイツがいなくなったせいで負担が増したのもそうだが、そうしている時は無心になれたから.. 傀儡にでもなったつもりで星々を巡っていた。 おかげでアイツのことも頭の片隅にまで追いやれた頃、アノウから“惑星グラシア”の調査を命じられた。 別にそんな大層なものじゃない、簡単なものだった。 

 でも、そこでボクは見た....アイツの姿をな.. 最初は他人の空似かと思った.. でもどっからどう見ても本人にしか見えなかったから、ボクは


『ライトッ!!!?』


 って、叫んだんだ。そしたら、そいつは明らかにボクの声に反応したからそれでボクは確信した。こいつは間違いなくライトだと..

 でも頭の中はグチャグチャしていて嬉しいんだかどうか、よく分からなかった。それに本人なら、色々聞かなきゃならないこともあったから、ボクは話をするためにアイツの前に立ってやった。


『ライト....生きていたんだな..』


『....まぁ一応』


『一応ってなんだ、一応って。 しかしこんなところで何をしている?? そもそもなんで消息を絶ったんだ??』


 今思えば、あの時ほど心がざわついたことはないな。 自分でも分かるくらい早口だったし、気づいてないだけで、やっぱり色々思うところがあったんだろうな。


『どうした?? 早く答えろよ』


『そ..それはその』


『・・いいからさっさと答えろよッ!!!?』


 歯切れの悪いアイツに、ボクは柄にもなく怒鳴っちまった。そしたらやっと、アイツは口を開いた。


『もう.. あなたたちと一緒には.......戦えない..』


 声はか細かったが、その目は真っ直ぐだった。ボクは確信した、アイツの決意は固いと..


『・・ボクたちを......裏切ると言うのか!?』


『スミマセン....でも、あなたたちがやっていることが

正しいことだとは..オレはもう思えない..

 オレは....この宇宙にある生命を守るため戦うと決めたんです.. もうこれ以上..涙と悲鳴を生み出すのは嫌なんです..』


『ざけんなっ!! 何考えてやがる!!』


 ボクはアイツの胸ぐらを掴んでやった。


『お前一人で何ができる、お前一人の力で、守れるとでも言うのか!? そんな甘いもんじゃない、お前がやっていることは、ただ自己満足で気持ちよくなってるだけだ!! 

 ・・悪いことは言わない....帰ってこいライト..まだ間に合う..その方がお前の身のためだ..』


『自分の身なんて....どうでもいいんです..オレは宇宙の平和のために戦うと決めたんです.. この決意は変わらない!!』


『なんだよそれ..ふざけんなよ.. ・・・・・・そうか..そうか..じゃあもうボクとお前は敵同士だな』


 そのままボクは胸ぐらを掴んだまま力任せにアイツをブン投げて、アイツの脳天に向けて弓を構えてやった。そしていよいよ矢を放とうとした時だった.. ボクは突然左手首に痛みを覚えて、見れば尖ったガラスが刺さってるじゃないか。驚いたボクは、それを放った奴がいるであろう方向を脇目でチラリと見た。そしたら案の定それを放ったであろう女がいた。星の人間らしく、肌も髪もガラスのように透き通っていた。そいつはボクのことを睨みつけた。おそらくボクがライトを殺すつもりだと感づいたんだろう.. 何度も何度もそのガラスを投げつけてボクが弓を射るのを妨害しやがるから、そいつから片付けようとボクは弓を射った。

 だが、その矢はそいつに届く前にライトが叩き落とした。アイツはその女の前に立ちふさがって


『彼女に手を出すな.. もし手を出すなら..容赦はしない!!』


 と言った。構わずボクは矢を射ようとしたんだが、ふと視線を感じてそれをやめた。いつのまにかボクは数十人は下らない集団に囲まれてた。全員アイツの味方だ。多勢に無勢、分の悪さを察したボクは、屈辱だがその場から逃げ去るしかなかった。背後でアイツと連中の声を聞きながら....ボクは一人でなんとか逃げ延びた..」


 と、ここまで話したところでシャドウはふうっと、一つため息をついた。


「こんなに喋るのは久しぶりだ..」


 そう零すと、シャドウは地面に腰かけ、そしてもう一つため息をついた。


「じゃあ続きに入るとするか..

 ボクは逃げ延びた後も、グラシアに密かに留まっていた。実はこの時、ボクに与えられていた指令は二つあった。一つは経過観察、もう一つは..この宇宙に伝わる最強の剣、〈魔双剣パンドラ〉の捜索だ。この剣は特別だ.. この宇宙に存在するどんな矛も盾も、この剣には決して敵わない、絶対に.. そしてソレが、その星にあるという情報が入っていたから、もし本当にあるなら何としても手に入れようと、未練がましくも残っていたと言うわけだ。

 さて、結論から言ってしまえば、確かにソレはあった。だが、ソレが発端となって....ボクとアイツの関係は......決定的に切り裂かれた....」


 そう言うと、シャドウは口を真一文字に結び、態とらしく左手で髪を梳き上げた。


「最強の剣を求めていたのはボクだけじゃない、アイツも同じだった。だがソレを手に入れるのは容易ではなかった。何しろその剣を持てるのは選ばれし強者だけ、ボクもアイツも持つことができなかった。

 だからアイツはより強くなるために修行を積み始めたんだが、ボクは全く別のアプローチを取った。

 自分で取れないなら、誰か取れる奴に代わりにとってもらえばいい。そう考えたボクは回収するためと、ついでにアイツに目に物見せるために強大なエネルギーを秘めた最強魔獣を呼び寄せ.. そして、最強の剣を賭けた戦いがソレを祀る祭壇前で勃発した。

 だが勝負にならなかった。アイツが何をしようと最強魔獣には一切通じず、アイツはただただ一方的に蹂躙されるがままだった。

 自分が決して敵わないと悟った時のアイツの顔はそれはそれは気持ちが良かった。

 全てはボクの掌の上で動いている、そう確信した。実際間違いなく、その時までは全部目論見通りだった。だが、結局最後までそうならなかった..

 いよいよトドメを刺そうという時、アイツと魔獣の間にあのガラス女が割り込んだんだ.. その女が誰なのかはボクは知らない.. だがおそらく、アイツにとっては..何にも代えられない大切な人だったんだろう..

 その女はガラスの盾で魔獣の進行を食い止め、アイツにパンドラを取るよう叫んだ!! 選択肢なんてなかったアイツは促されるままに剣に手をかけ、一縷の望みに賭けた。掴まなければ女が死ぬのは明白、だからアイツは剣から走る黒い雷に震えながら、その手を離さまいと歯を食いしばって耐えていた。

 だが、あまりのエネルギーに力尽きて、無情にもアイツの手は剣から弾かれ、その体は地面に転がり込んだ。そして女は.....魔獣の手により砕け散り......息絶えた..

 ・・あの時の....女が死んだのを見た時のアイツの顔は、今まで見たことなかった。目の前の事実を事実と認められない、そんな哀しい顔だった。

 でも、さっきまで女だった破片に手を触れると、アイツはだんだんとその顔を歪ませた。

 怒り..憎悪..殺意.... そんな黒い感情が溢れ出るのをボクはひしひしと感じていた。

 だからと言って容赦はしない、それにアイツはもう瀕死だった。どう思われようが、問題なんてないはずだった.. はずだった....

 その時、ボクは嫌なオーラを感じ取った。そう思うと同時に、アイツはもう一度パンドラに手を伸ばした。

 するとどうだろう!! アイツの感情に呼応して、あろうことかパンドラはアイツを所有者として認めた!! そして気づけばボクの眼前にはアイツがいて、気づけばボクは他に伏せていた。

 瞬間、ボクの左目には激痛と、熱が走った!! 微かだが..水の跳ねる音も聞こえた..

 そこからのことは・・あんまり覚えていない.. 辛うじて覚えているのは、薄れ行く意識の中で星から脱出したこと、そしてその星が....吹っ飛んだことだった.....

 そこからのことは知っての通り、ボクたちはこの星で再会し、今に至るというわけだ..

 これで分かったろう?? ボクたちがどういう関係で、なんで拘っているのか..」


 シャドウの話を、星奈は許される限り身を乗り出して聞き入っていた。手首の痛みなどすっかり忘れていたのだ。一種の人生談に、ひどく興味をそそられたようだった。そしてしばらくは二人とも口をきかず、時折冷たい風の音が聞こえるだけだった。しばらくそれが続いた後、星奈が口を開いた。


「一つだけ..聞かせてほしいことがある。 多分だけど、きっとあなただと思うから.... 

 前にライトが言ってた.. “命より大切なものなんてない”って、あれを教えたのは..あなた....じゃないのかな??」


「.........そうだ」


 沈黙の後に、シャドウは小さく返事をした。


「じゃあなんで!! あなたはその命を..」


 対象的に星奈の声は大きかった。非難していたのだ、命を踏みにじるシャドウを。


「..根底にある思想は同じでも、ボクとアイツの信念は全く違う。だからボクたちは別離した。

 アイツは、だからこそより多くの命を救える道を選んだ。でもボクは、だからこそより自分が生き残る確率の高い道を選んだ。そしてボクが生き残るためには、誰かを踏み台にするしか方法がなかった。」


 シャドウの言い草に、星奈は何か言いたげな様子だった。しかし発言は、シャドウによって封じられた。


「・・異議は認めない.... ボクだって..心がある生命だ。逆らえば死ぬと分かっていて逆らうなんて、ボクにはとても出来ない....」


 星奈は言葉を発するのを諦め、黙り込んでしまった。言いたい事がないわけではない。だが、シャドウの僅かな表情の変化と、心情を察し、簡単には口を開く事が出来なくなったのである。


「....長話はここまでにしよう..やっと、お出ましだ」


 絵に描いたようなヤレヤレといった風にシャドウは立ち上がった。そして手元のクリスタルから弓を召喚する。

 すると空から大きな影が迫り来て、それは派手に地面に着地した。


「シャドウ、テメェよくも!!」


 姿を見せるなりすぐさま、ライトはシャドウに対して怒りを露わにする。その手に持つ剣も震えている。

 一方シャドウからはさっきまで見せていた様々な表情は消え、影のある笑みが浮かび上がる。


「よく来たなライト.. この女を助けたければ、ボクを倒してみろォ」


 やや興奮気味にシャドウはライトを挑発、


「これ以上、お前の思い通りにはさせない!!」


 それにライトも乗った。そして二人の魔人の戦いが始まる。今度は己の信念を賭けた決戦が..


「さぁ決着をつけよう、ライトッ!!」


「望むところだッ、シャドウ!!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ