第四十話 戦友との死闘
絶海の孤島の空は飽きることもなく厚い雲で覆われていた。晴れ間はなく、大地には霜が降り、空気までもが凍りつきそうなほどに冷え切っていた。
そんな島の中で、二つの想いだけは燃えたぎるように熱く、互いを焼き尽くさんとばかりだ。
ライトとシャドウ、かつては同じ方向を向いて戦った二人が、今向き合い決着をつけようとしていた。
そしてそれを、囚われの姫となった星奈が悲痛な表情で見守っている。この決戦の果てに待ち受けるものは果たして何なのか、希望か、絶望か、光か、影か、あるいは....
相対する二人は距離を一定に保ちながら円を描くように歩を進める。この距離はお互いにとって不利な距離なのだ。ライトの剣の間合いには遠く、かといってシャドウの弓の射程では近過ぎる、そんな距離を、二人はまるで時計のように規則的に回り続ける。
戦っているとは思えないほど静かだが、それはいわゆる嵐の前の静けさ。事実、二人の間に流れる張り詰めた刻は、いつ切れてもおかしくないのだから。そして一度切れれば、戦局は目まぐるしく動き出す..
果たしてそれを切るのはライトか、シャドウか....
「・・・・・・ッッ!!」
ライトだ!! 遅々として進展のない膠着状態に痺れを切らし、ついに円環から外れ、剣を片手に風の如くシャドウに迫り、惜しむことなく力一杯剣を振るう。
-ビュンヒュオッシュッ ヒュンヒュンッ-
流れるように繰り出される剣撃。
だがそれを受けてなおシャドウは冷静、待っていたと言わんばかりの表情で、弓をバトンのように手の中で踊らせ、そして自身もライトの剣撃を、演目が定められた舞を踊るように回避する。それもそのはず..
「次は突き.. それがかわされたら上段回し蹴り..」
「クソッ!!」
「で、追い込まれると振り下ろす、と..」
シャドウはライトが次にとる攻撃をズバズバと言い当てる。そう、分かっているのだ。ライトの行動が手に取るように。だから当たらない。突きも、薙ぎ払いも、蹴りも。
ライトもある程度手の内がシャドウにバレているであろうことは分かっていたはずだった。しかし、よもや行動の先読みまでされるとは、夢にも思っていなかった。
「だったら....コイツはどうだ!!!?」
逆襲を図るライトは腕を大きく引き、虚空を剣で突く、突く、突く、突く突く突く突く!! そして斬撃がマシンガンのように飛び、シャドウを襲う。その名も“マシンガンスラスト”、この技はライトが地球で習得した、シャドウが知り得ない技である。だからこそ、この状況でライトはこの技を選択した。
だが斬撃は、先読みしてシャドウが射った矢が変化したバリアに阻まれ、無残に散った。
「..読んだのか!?」
と、驚き止まない顔でライトが叫んだ。
「もちろん..」
口元に手を当て、シャドウは答えた。顔にはありありと余裕が滲み出ている。
「バカな!? なんで知りもしないのに読める!!!?」
「そんなに驚くことか?? お前の基礎を作ったのはボクだぞ、お前がどんな方向に伸びていくかなんて大体想像がつく。だからお前の実力さえ把握してれば、お前に何ができるかぐらい、お見通しだ」
そう言いながら、シャドウは足元の影へと潜っていった。
「やばい..逃した..」
「ハハハ、今日ここらは終日曇りでそこら中が影だらけ。つまり、ボクの独壇場さ」
「!!!!」
-ヂッッ-
背後から射たれた矢はわずかにライトの頰をかすめた。だが、振り返るもそこにシャドウの姿はない。辺りを見渡せど、やはり姿はない。すでにまた潜っている。
「どこだ!! どこにいるッ!!!!」
「さぁ、どこかな!! 探してみよう!!」
シャドウの煽りが全方位から聞こえる。しきりに首と眼球を動かすも、神出鬼没の姿は捉えられない。
そして、姿は見せずとも攻撃は止まない。本人は矢が射たれる場所にいるはずだが、影の中を泳ぐかのように移動し、さらに先読みまでするシャドウにはライトも追いつかない。
「なんのために今までボクがお前に魔獣をぶつけてきたと思っている」
突然シャドウの声が響き渡る。
「お前の実力と、癖を把握しておくためだ」
話が続く間も、矢はライトに向けて射たれ続ける。背後から、右から、左から、縦横無尽に動き回るシャドウに合わせて、矢も自由自在、思うままに飛び出してくる。ライトはそれらを剣でギリギリ、なんとか弾くも反撃の狼煙は全く立つ気配がない。
「あと....魔双剣パンドラでの戦闘データを知っておくためだ」
シャドウが外の世界へ戻った。が、その瞬間空へエネルギー弾を射ち出すと、それは上空で無数の矢となり、雨のようになって降り注いだ。
「そしてそれも手に入れた今、ボクはお前にだけは決して負けない!!」
「くっ..光剣連斬!!」
-ズガガガガガガガガッッッ-
降り注ぐ矢を、目にも留まらぬ速さで放たれる剣撃でライトは防ぐ。しかし、そうしてその場から動けぬライトにシャドウは弓を構えた。
「..スピニングアロー」
回転により貫通力が強化された矢がライトに迫る。だが横目でチラリと降り注ぐ矢と、その矢の位置関係を把握したライトは、アクロバティックな動きで致命傷だけは避けた。
これにはシャドウも思わず感嘆の声を上げる。
「よく、かわすな....」
「ハァ..ハァ.. さっきのお前のセリフ、お前にそっくり返してやるよ..」
服に血を滲ませながらも、ライトは剣先をシャドウに向け強がってみせる。
「ほぉ、じゃあこれも予測済みかな??」
シャドウは口元に邪悪な笑みを浮かべた。そして、弓道でもしているかのようにゆっくりと、じっくりとライトに向けて狙いを定めた。
その時、強烈な風が吹き甲高い音を奏で、鳥は一斉に飛び立った。
灰色の空を、さらに黒く染め上げる力が、弓に集束を始めたのだ。
「な..なんだ、この巨大なエネルギーは....」
その力にライトも戦慄した。
「さぁ食らうがいい.... お前を倒すためだけに編み出したこの極技.......」
力は収束し、巨大な漆黒の弓矢となった。
「グリムジャッジ!!!!」
強大な力を秘めた巨大な弓矢が、射たれた!! 矢は地を這い削り、裂きながら一直線、ライト目掛けて飛ぶ!!
「!!!! 受けたらヤバ.. ウグゥァッッ.......」
回避を試みたものの、その速度と体積の大きさに完全回避はできなかった。矢はライトの脇腹を抉り取り、背後の木々をなぎ倒しながら、遥か後方に着弾した。その威力に着弾箇所は、まるで隕石でも落ちたかのように窪んでいる。
「どうだ、すごいだろ!?」
その威力にシャドウも満足気で勝ち誇る。
「でもな、すごいのはここからだ、なんとこの技.......連射可だ..」
再び、グリムジャッジの構えをシャドウは取る。息の荒いライトは、焦りと苛立ちが顔に浮かぶも、体がついてこない。さっきの一撃のダメージが想像以上に大きく、体が言うことを聞かないのだ。
「さぁ、思い知れ」
今度は直接ライトを狙うのでなく、その足元を狙った。その威力から、爆風だけで十分だとシャドウは判断したのだ。
一瞬あたりは白く輝いた。そして暗く戻った時には、ライトは地面に倒れ伏していた。だが、辛うじてまだ息はある。
「翼と剣でガードしたな.. でも、次でトドメだ」
三度、シャドウはグリムジャッジを構える。
『クソッ..なんて..威力....なん..だ..』
心の中でライトは呟く。ここまでシャドウが強かなってるとは、思ってもいなかっのだ。かつてはその隣にいたというのに..
『もう..ダメだ....アレを使わなきゃ、死ぬ..』
何が何でも死ぬわけにはいかない。死んだら全てが終わることをライトは知っている。だから、追い込まれたライトがあの力に手を伸ばすのは間違いではない。本人は容認できないが..
『う......情けない....こんな力に..まだ頼らなきゃなんて....』
しかし心ではそう思いつつも、手は迷うことなく懐に伸びていた。そして、その手は真紅のクリスタルを掴む。
『・・・・チクショウ....チクショウォォオオオッ!!』
-ビシビシッ........バリン..-
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「・・・・チッ.. 一手遅かったな」
何も見ずにシャドウは察した。そしてその通りに、爆煙の中にはシルエットが浮かび上がり、その両目は爛々と紅く光る。
それが微かに動くと、煙は逃げるかのように散り、両手には、銀色の双剣が握り締められていた。
「ヴヴヴゥゥ......ヴァァア"ア"ア"ア"」
ライトは唸り声と、咆哮を轟かせた。まるで獣、さっきまでとはまるで違う..
「・・・・さて、こっからが......本当に死闘だな..」
シャドウは唇を舐めた。その前に立つのは、憎悪の仮面を被ったかつての戦友だ。




