第三十六話 魔人狂想曲
〈惑星ゴッド・帝の間〉
帰還命令を受けたシャドウが、はるばる地球から帰ってきてまず訪れたのは、彼の上司である〈魔帝アノウ〉の元だった。
しかしその道中、足取りはなかなか重かった。何しろ、こう言う呼び出しは大抵良くないことが多い。前に呼ばれた時は仲間の尻拭い、その前の時はブラックホールに吸い込まれかけた仲間の救援という無茶振りを要求されていた。なので今回もそうだろうと、そして、もしそうならタイミングから考えて、あのことについてだろうと、シャドウは予測していた。
そして、魔帝を垣間見しただけで、その予測が正しかったことをシャドウは確信した。
「何の用でしょうか??」
「シャドウ....キサマ、これはどう言うことだ..」
威厳のある声で、魔帝アノウは問いかける。彼の身長は地球の寸法で言うと、四十メートルを優に超える程の巨体であるため、その声も重く響きわたる。デカイだけあって威圧感も凄まじい。その上、今は憤怒しているので尚更のことだった。
「別に..どうもこうもありませんよ」
そんな者と対峙するシャドウであったが、表向きはいつも通りの平静を取り繕っていた。しかし、心中は穏やかでない。自分の主君なのだから、どんな性格をしているかはシャドウは熟知している。
「ほう?? 最強魔獣を投入しておいて、キサマはなんの成果もあげられなかった、これがどういうことか、分からない訳ではあるまい??」
決して慈悲を見せるような奴ではないと....
「いえ、成果はあります。 何も勝つことだけが成果ではありません.. 今回手に入れた戦闘データは、必ず後の勝利に繋がり..」
「シャドウ.. キサマは何度負けた??」
怒ると言うよりか、むしろ哀れむように魔帝は言った。だが口調はともかく、言葉の針は確実に痛いところを突いている。
「..ボクは負けてません、負けたのは魔獣どもです」
負けというのは不服らしく、不敵にもシャドウはムスッとしながら呟いた。
「詭弁だな..」
アノウは眉をひそめ、纏っているマントをはためかせた。それだけで間には台風クラスの風が吹く。
「シャドウよ..時間切れだ、もう待てぬ。 お前には地球の担当を外れてもらう」
「お待ちください!!」
「待てぬ、と言ったはずだが?? それとも余に逆らうのか、シャドウよ」
「違います.. ただ、貴方は少々誤解をしている」
「誤解だと..」
「はい。 貴方は少々ライト《あいつ》のことを侮り過ぎている」
シャドウはハッキリと強い口調でそう言い切った。さらに反論は許さないと言わんばかりに、さらにその調子で続ける。
「あいつの成長速度は、こちらの想定を遥かに超えています。 今やアノウ様の望みを叶えるための最大の障壁と言っていい.. だが、あいつの手にあの魔双剣がある以上、排除もそう簡単にはいきません。 現に最強魔獣すら容易く片付けられた.. 単純な力押しでは絶対に勝てない!! 力だけで勝てるほど、あいつはもう弱くない!! だから勝つためには、プラスアルファが必要なんです」
「して、それはなんだ..」
勿体つけるシャドウに対して、魔帝は声色をさらに低くさせ、問いかけた。
「あいつのことをどれだけ熟知しているか、です..」
簡潔にシャドウがそう言い切った。が、まだ魔帝は納得のいく表情を見せていない。なので、シャドウはまだ話し続ける。
「確かにあいつは、魔双剣の所有者だ.. だg」
「へえぇ、ライトの奴、パンドラを持ってるのか!?」
その声を聞いた時、シャドウの背筋には汗が伝い、反射的に振り返った。
「ストロンッ!? なぜここに!?」
声の主の名はストロン、彼もまた、ライトやシャドウたちと同じく魔人である。ただし、地力は拮抗していない、彼の方が数段上である。
「余が呼んだのだ、何故かは分かるな??」
魔帝はみなまで言わないが、勘のいいシャドウはその意図を十分に理解した。
「..ボクの後任ってわけか..」
「そういうこと」
「・・・」
場には一瞬沈黙が流れた。
「アノウ様.. 考え直していただけないでしょうか」
「その必要はない」
シャドウの嘆願は一蹴された。しかし、食い下がった。
「もし、あいつを倒せるとしたら、それはボクしかいない!! それ以外のやつを送り込んでも、返り討ちにされるだけだ」
「..シャドウよ、別にライトを倒す必要はない、知性生命体を抹殺すればそれで良いのだ」
「あいつはそんなことを許さない。 遅かれ早かれ、ぶつかることになる。 だったら早めに処理したほうがいい、そう思いませんか??」
「シャドウ、何故余はキサマに“影の中に潜り込む”という能力を与えたと思っている..」
「・・・」
「そう、暗躍させるためだ。 キサマに真正面から敵にぶつかることなど、求めていない.. 小賢しく、狡猾に動いてもらうことを期待しているのだ。 では実際はどうだ??」
ギョロリと魔帝はシャドウを睨みつけた。
「キサマはライトを倒すことだけに躍起になり、本来の任務を忘れ、戦力の無駄遣いを続けた」
「ですが、ライ..」
-ピシャッッン-
怒れる雷にシャドウは撃ち抜かれた。
「そのくだらぬ妄執こそが悪であると、まだ気づかぬのか!? 悪いがキサマには失望した。 しばらく頭をよく冷やすのだな、ええい不愉快だ!!」
魔帝の怒りは頂点に達した。ここまでくると説得はもはや不可能である。仕方なく、シャドウはその場から身を引かざるを得なかった。
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シャドウとストロンは星の戦闘街を歩いていた。不満で心が満たされているシャドウは、歯ぎしりしながら、さも機嫌悪げに歩いていた。対照的にストロンは気分らんらんで非常に機嫌が良かった。
「いやぁ、まさかパンドラ使いとやりあえるとは、しかもライトか、これは楽しくなるな」
「・・・」
「ところでシャドウ、あいつどのくらい強くなったんだ??」
「..最強魔獣を瞬殺するくらいだ」
「そうかそうか、どうやら久々に大暴れできそうだな.. 最近は骨のない奴ばっかりで退屈してたんだ」
「・・・(戦闘狂め!!)」
内心見下しながらも、その単純さを羨ましくも思っていた。これぐらい単純なら、もっと生きやすかっただろう。
「いやぁ楽しみだ。 腕がなるぜ」
アホみたいにストロンは腕をぐるぐる回していた。それにシャドウは呆れながら言った。
「..一つ忠告しておく。 もし生き残りたいのなら、あいつが魔双剣を手に取る前に決着をつけるんだ」
「やだね!! 強い奴と戦いたいもん、その方が気持ちいいし」
「..下手しなくても死ぬぞ」
「別にオレはお前と違って死ぬの怖くないし」
「そう言うんなら、ボクはもう何も言わない」
二人は顔も合わせずに、会話しながら並走していたが、しばらく経ち分岐路に立つと別々の道が行き先であった。
「じゃあ、ここまでだな。 お前はどうすんだ」
「ボクは修行する。 やらなきゃいけないことがあるんでな」
こうして二人は別れ、少しすると青い光の玉が飛び立っていった。
『行ったか..』
シャドウはまた一人になってしまった。一人で誰もいない街を歩き続ける。
『ボクも、そろそろ決断すべきだな』




