第三十四話 破滅か絶望か
ライトにトドメを刺すべく、最強魔獣が放った回避不能の超威力の光球、すでに満身創痍で立ち上がれないライトは爆炎に包まれ、ついに息絶えた....かに思われた....が!!
-ビュオンッッ..-
まだ結着はついていなかった。たとえ立ち上がれなくても、ライトにはまだ“翼”があった。それを装着して光球の着弾の寸前にライトは飛び立ち、舞い上がる爆炎を突き破って暗雲立ち込める空の下に躍り出た。
「ハァ..ハァ..ハァ..」
空を舞うライトは息を切らしながら眼下を見渡す。その手には何も握られておらず、ライトはさっきまで握っていた剣〈光剣フォトロン〉を見つけ出そうと、躍起になってしきりに首を動かす。
「!! あった!!」
発見すると同時にライトは小さく声を上げた。そして地面に刺さったそれを回収するために、降下しようとした、その瞬間!!
-ドォォンッ-
砲撃音が轟き、気づけばライトには光球が迫っていた。
『避けれない!!』
そう判断したライトはなんとか直撃だけは免れようと翼を盾代わりにした。しかしそのせいで翼は焼け落ち、対空手段を喪失したライトは、そのまま発生した爆風のなすがままにどこかへ飛ばされてしまった。
そして最強魔獣は、今度こそライトにトドメを刺すために、その飛ばされた方に向けて進撃を開始した。決して狙った獲物を逃そうとはしない、ただひたすらシャドウの命令通りにライトを付け狙う。
「よっ..と」
その死闘を傍観していたシャドウはビル影の中から地上に飛び出した。嬉しそうな顔で腕組みをして
「ここまでは計算通り.. さて、ここからはどうなるかな??」
そう独り言を言うと彼もまた、ライトと魔獣の後を追いかけた。
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暗雲が立ち込める街の路地裏は、不気味な静けさに包まれていた。そこにあるゴミ捨て場に落下したライトはそのままそこに身を潜め、二つの朧な光の瞳を輝かせていた。その体はゴミ捨て場にあるにふさわしいほどボロボロに傷ついており、とてもこれ以上戦える状態ではなかった。
「刃が....立たねぇ」
事実上敗走したライトは恨めしくそう呟いた。結局何をやっても最強魔獣を倒すどころか、傷をつけることすらできなかったのだ。そんな己の弱さに憎しみを覚え、ライトは地面を殴りつけた。
『なんで勝てない』
『なんで弱い』
『なんで守れない』
『“宇宙を平和にしてみせる”、そう約束したのに......なんでオレは何も変わってない!!!?』
『どうしたら....どうしたら最強魔獣を倒せる!!!?』
『力が....オレにもっと..力があればッッ!!!!』
そう思ううちにライトの手は、本人すら無意識に懐に伸び、真紅のクリスタルを掴んでいた。それが放つ妖しい光は、果たして希望か、はたまた絶望か、しかしライトはその光にすっかり見入っていた。
『..コイツだけは二度と使わない....そう決めてた.. だけど..』
ライトは握りつぶせるほどの力で真紅のクリスタルを握りしめた。
『最強魔獣を倒すには....もう使うしかない』
もう手元に使える武器はこれしかない。フォトロンが奪われ、翼も失われた以上、生き残るためにはこれを使うしかない。これを使って魔獣を倒さなければ、自身はもちろん地球も破滅する、そんな危機的な状況なのだ。そんな状況にもかかわらず、ライトはまだ決めかねていた。
『使えば倒せる..まず間違いなく。 でも、その後はどうなる!!!? この力を使って....もし、地球が滅びたら..オレはどうすればいい、誰に謝ればいい!!!? いやそもそも後のことを考えてるのがおかしいのか?? 勝たなきゃ始まらないんだし、そのためにも使うべきなのか?? でも、オレは明日なき戦いをしているんじゃない、明日を掴み取るために戦ってるんだ!! ただ、勝てばいいんじゃない!!!!』
終わることのない自問自答。思考はぐるぐると同じところを回り続け、このまま無限に続くようにも思われた。
『どうすればいい!!!? どうす..』
逡巡を止め、ライトはすぐさま立ち上がると、ボロボロの体に鞭打って路地裏から大通りに跳び出した。
-ズガガガガンッッ-
その直後、隣接していた建物二棟が半壊し、路地裏を押しつぶすように崩れ落ちた。
そして倒壊により発生した砂埃の中から、蒼いモノアイが浮かび上がり、それが近づくに連れてシルエットが現れてくる。
「もう....見つかったか..」
シアン色のボディに砂塵を纏いつつ、最強魔獣が再びライトの前に姿を現した。そしてすぐさま、なんの躊躇もなく左腕の砲塔をライトに向け、正確に照準を定めた。砲塔にはエネルギーがチャージされていき、電子音が鳴り響く。
「くッ!!」
もはや一刻の猶予もない。決断は今!! 下さなければならない!!
「....」
ライトは、チラリと握りしめている真紅のクリスタルを見やった。
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「やるしかねぇッ!!!!」
カッと目を見開きライトは叫び、クリスタルを両手で持つと顔の正面に構えた。
「来いッ!! 魔双剣....ぐっ.. う..ウォォオオオオ!!」
クリスタルにヒビが入るたび、万象を超えた黒いオーラが堪らなく溢れ出る。そしてオーラは雷雲のように稲妻をほとばしらせながら、ライトを覆い尽くした。
-ドォォオオンッ-
だが最強魔獣の砲撃が命中し、オーラは飛び散り、代わりに黒煙が上がった。だが..
-ピシピシピシ....パァァァンッッ-
突如、黒煙の上がったところから見て、ちょうど両脇にあったビルが木っ端微塵に吹っ飛び、その周囲にはガラスやら鉄筋やらが雨となって降り注いだ。
そして..
「・・・・ヴゥゥ..」
絶望が始まる..
「ヴォォォオオオア"ア"ア"ア"ッッッ!!!!」




