第二十八話 亡星の怨嗟
◇◇←内はセリフです。「」で囲むとあまりにも長いのでこの形式をとりました。
読みにくかったら申し訳ありません。
「....今日が......お前の最期だ..........魔人ライト!!」
女は氷のように冷たい目をライトに向けて言った。その言葉は氷柱のように鋭く、ライトの心に容赦なく突き刺さる。女の憎悪を一身に受けるライトはその場に立っているだけで言葉を発しようとすらしない。
「え〜と.. どちら様で??」
腑抜けているライトに代わり、星奈が恐る恐る話しかける。女はそのままの目で向き直り、星奈をも戦慄させた。
「君には関係ないのことだ」
ただ一言、女はそう言って冷たく突き放した。だったのだが、意外にも舌戦に関しては星奈の方が一枚上手.. いや、正確には女の方が二、三枚下手だった。
「私は広川星奈、人間です.. あなたの名前は??」
「なっ..ズルいぞそれは!! アイカだ.. アタシの名はアイカ.. インサレ星出身だ」
「へぇ〜、可愛い名前ですね」
「ふふ、ありがとう ..て、そうじゃないそうじゃない!!」
アイカは頰を赤らめながら顔の前で手をブンブンと振る。一応“可愛い”は彼女の星でも褒め言葉だったようだ。
しかし、綻んだ彼女の顔はすぐにさっきまでの険しいものに戻った。
「いいか、アタシはッ..コイツを殺しに来たんだ!!」
改めてライトを指差して叫んだ。彼女の口からは、普通なら口に出すのを躊躇うような物騒な言葉がポンポンと次から次へと飛び出てくる。それも決してこけおどしではなく、純度一〇〇パーセントの憎しみで満たされている。
「..なんで..ですか..」
しかし星奈にはアイカがここまでライトを憎む理由が分からない。それも当然、彼女はライトの過去を何一つ知らないのだ。だから彼女が知るライトは宇宙の平和を脅かす敵を打ち倒す、いわば“ヒーロー”のような存在なのだ。
だが、アイカの知るライトの姿はそれとは違う。むしろその正反対なのだ..
「..コイツはな....アタシの故郷を......滅ぼした..」
風もなく、辺りは一瞬完全なる静寂に包まれた。ようやくライトも顔を上げ、アイカの目を見つめる。その目はうっすらと滲んでいるように見える。
星奈はというと目を見開き、思わずライトの方を見やった。信じられないという顔だ。
「どうやら信じてないようだな.. いいだろう.. 君に教えてあげるよ.. コイツの本性をッ!!」
そう言ってアイカは話し出した。彼女が暮らしていた星、〈インサレ星〉、その最期を..
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アタシは元々単なる一般人だった。故郷インサレで家族と一緒に暮らす本当になんの変哲も無い一般人だった。あんまり豊かな星ではなかったし、生活も平穏からはちょっぴり遠かった。だけどアタシは決してヘコタレやしなかった。だって一人じゃなかったから、いつも側にアタシを思ってくれてる人がいたから、だからどんなに辛くても、苦しくても、アタシは頑張れた.. あの頃は分からなかったけど今なら分かる.. あの生活も、アタシにとっては幸せだったんだって.. お父さんがいてお母さんがいてアタシがいる.. それ以上の幸せなんて思いもつかない!! ..でもそれはもう全部..奪われた..
..アタシはあの日、水を汲むために早朝から村から離れた湖にいた。あの日はやけに暑かった.. インサレには太陽が二つあるから元々暑かったけど、多分アタシが生きてきた中であの日より暑い日はなかった。正直、外に出るのも危険だったけど、井戸の水は村の上層がガメてるから使えない.. だからアタシは危険を承知で家族のために水を汲みに行ったんだ..
想像つくと思うだろうがもちろん大変だった。村から湖に行くためには山を越えないといけないし、道だってこの星みたいに整っていない。普通に往復したって半日近くかかるんだ、重い水を担げば一日近くはかかる。それにあの日の気温は尋常じゃなかった、太陽が増えたんじゃないかって思うぐらいにね..
だけど家族が待ってるからアタシは頑張った。家族が待ってるから頑張れた。アタシの帰りを待ってるから..なるべく急いで帰らなきゃって。 けどアタシを待ってたのは家族じゃなかったんだ..
村に着いてすぐアタシは思わず目を疑ったよ。けど何度目をこすっても目に映る光景は変わらなかった。せっかく汲んできた水もかなぐり捨てて、アタシは村中を走り回った。でももうアタシに声をかけてくれる人なんていなかった..
『ウドゥ!! ヘズィ!! しっかり、何があった!!』
二人はアタシの友達だった。それだけじゃない..外にはアタシがよく知る人たちが倒れていた。医学に詳しくないアタシでも分かった。みんなは何者かに斬り殺された..それともう手遅れだって..
『お父さん..お母さん..』
アタシは怖かった。けど外にはアタシの両親の姿はなかった。だからアタシは家の中に飛び込んだ。もしかしたらやり過ごせたのかもしれないって、微かだけど期待して.. けどダメだった。アタシを待ってたのは..変わり果てた....両親だった.. 調べるまでもない..外の人と同じでもう手遅れなのは明らかだった。
『う..嘘だ..嘘だぁぁあああ...ァァァア!!』
アタシは泣いた。血の海で枯れるほど泣いた。泣かずにはいられなかった。
けどどれだけ経ったか分からない頃にふと気づいた。アタシの隣に誰かいるって..
『あ....あなたは..』
驚いたよ、何しろ全身血だらけの男が横に立ってるんだ、驚かないわけがない。けど....アタシは恐る恐る聞いた。なんでかは分かんないけど聞かなきゃダメな気がしたんだ。
『あ....あなたが..殺ったんですか』
『....そう....だ..』
それを聞いた時、アタシは目の前が真っ暗になった。けどすぐにアタシの中の悲しみは憎悪に変わったんだ。コイツを殺してやる、絶対に!! でもその男はアタシなんか相手にしないで逃げてった!!
アタシは一人になった.. みんながいなくなった星でアタシだけ一人生き続けた!! 死ぬまで一人だと思うと辛かった。殺したいほど憎い奴がいるのにそいつに憎悪をぶつけられないって思うと胸が張り裂けそうだった!!
でも、奇跡が起きたんだ.. たまたま通りかかった宇宙船がアタシを拾ってくれた。おまけにそれに乗ってた人はそういう事情にやけに詳しくて、色々教えてくれた。“宇宙の星々を滅してる連中がいること”、“そいつらが魔人と呼ばれていること”、“魔獣と呼ばれる生物兵器のこと”、“アタシの星を滅ぼした奴の正体が....ライトだって言うこと”も....
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「..アタシは片時も忘れはしなかった....あの日の光景を....味わった悲しみをッ!! ..お前の顔も....」
感情を抑え切れなくなったアイカの目から涙が零れ落ちる。呼吸も肩でするほど荒い。もしこれが演技だとしたら、とんでもない名優だろう。
「ねぇ..ほんとなの..ライト..」
星奈はライトの顔を見ずに言った。怖くてとても顔なんか見れない。今、どんな顔をライトがしているのか.. 今、自身がどんな顔でライトを見ているのか.. そんなの知りたくなかった。
「....」
「黙ってないで..答えてよ..」
その必死の懇願は心に届いた。ようやくライトが、固く固く閉ざした口を、開いた..
「..本当だ.. オレは....この娘が住んでいた星を....滅ぼした..」
体を揺らしながら、なんとか喉の奥から声を絞り出した。そして..
「それだけじゃない.. オレは..いくつもの星々を巡り.. その星の知性生命体を..根絶やしにしてきた..」
上げた目線を、再びライトは地面に落とす。厚い雲が染み渡り、町にも影が落とされる。陽の光は全く遮られた。
「ライト..」
何故だろうか、星奈の目にはライトは悪辣には映らなかった。ただひたすらに“哀れ”に映った。
「アタシはお前を許さない!! 報いを受けてもらう!!」
声を荒らげ、アイカは着ていたローブを天高く放った。彼女がその下に纏っていたのは、彼女自身が研究し、作り出した戦闘用スーツ。それは手首と足首に研ぎ澄まされた鋭利な刃がついているだけ、さらに肌の露出もかなり大きく、かなりの軽装備だ。だが、動きやすさではこれがベスト。むしろ重武装にしたところでライトの攻撃は防げないのだから英断と言える。あくまでもこのスーツは“対ライト”に特化させたものなのだ。
「覚悟しろ!! 魔人ライト!!」
いよいよアイカは刃を向け、構えを取った。だがライトは剣すら手に持たない。ただ、彼女に向けこう言った。
「....オレが死ねば....この星は..地球は滅ぶ.. だから..お前の思い通りになるわけにはいかない.. オレは死ぬわけにはいかないんだ..」
「だからなんだ!? アタシに見逃せと言うのか!?」
その問いにライトは答えない。ただ、口元を震わせるだけ.. 肯定も否定もしない。
「ふざけるなよ!! アタシから家族を、故郷を、思い出を奪っておいて.. そんなお前を..のうのうと!!」
「そんなこと分かってる!! オレ一人の命だったら差し出してもいいッ!! でもそうじゃない.. オレが死ねば..この星に住む、罪のない大勢の命も道連れになるんだよ!!」
そのライトの叫びに、アイカは一瞬その場にいる星奈の顔を見やった。その視線に星奈も気づいたが、目が合うとすぐにアイカは目をそらし、ライトの方を向いてしまった。ライトの叫びは続く。
「それにオレは!! オレはなんとしてもこの星を..この宇宙を守りたいんだ!! 守らなくちゃ駄目なんだッ!! だから..」
「だから....なに??」
もはや怒りを通り越して、アイカは笑いながら言った。
「オレを憎む気持ちは分かる、分からないわけがない!! 大切な人を失う悲しみも..今のオレには分かる!! 分かるけど!! だからこそ..今ここで死ぬわけにはいかないんだ!! オレの力が必要な人たちのためにオレは戦わなきゃならないんだ、だから!! ..だから」
「だからだからって.... もういい分かったッ!!」
これ以上の話を聞くのに耐えかねて、アイカは発言を切った。
「理由はともかく..お前は死にたくないんだろう??」
底なし沼のような瞳を覗かせて彼女は言う。そしてこの場に来て初めて、ライトは彼女に肯定の意を示した。
「でもアタシはお前を殺したい..殺したくてたまらない.. だったらもう....結局答えは一つしかない..」
その言葉の真意を汲んだライトは、懐のクリスタルから自身の所有する剣、光剣フォトロンを手に取った。
「殺し合おう..それで勝った方は..願いを叶えられる.. アタシたちに残された手段はそれしかない..」
お互い薄々気づいていた。これは話し合いで解決するような問題ではないと.. だからこうなることは驚くことではなかった。それは悲しいが星奈も同じ、彼女には到底受け入れられることではないが..
「アタシはッ!!」
「オレは..」
「「絶対に勝つ」」
曇天の下、万感の思いを胸に抱く二人は、己の過去と星の運命をかけて、真っ向から向かい合った!!
今回のお話を読んでからだと十三話の“あるセリフ”の意味が全く違ってくると思います。
一応その他にもライトの過去と素性に関して、いくつかの伏線を張ったつもりです。バレバレかもしれませんが・・・
ここ伏線じゃね??って思う箇所があったら、是非ご指摘ください。




