第二十七話 来襲する懺光
◇◇
「デェリャァ!!」
-ガッ ガギッ ガッッ-
黄金に輝く森でライトは戦っていた。決して敵うはずのない相手と..
-ジュバッッ-
「ぐぅっ..」
この世界は強さが全てだ。力が劣る者は蹂躙されるがままだ。
-ズチャッッ-
「ぅぁぁ..」
ライトは弱かった。だから一人で未来を斬り拓くことなどできなかった。
「ライト、危ない!!」
-バチッッッ-
「馬鹿!! お前は引っ込んでろッ!!」
だから誰かと力を合わせて斬り拓いてきた。昔も今も、変わらずに..
-ビキビキビキッッ バリンッッ ドスッ-
「!! ..おい....おいっ!!」
だが圧倒的な力の前には、それもガラスのように砕け散った.. この宇宙を救いたい、もう誰も死なせたくない.. そんな理想、夢を打ち砕かれないためにライトは戦ってきた.. しかしそれはライトの瞳に映る光景によって否定された。
「..ぅ..ぅぅ......ヴォ"ォ"ォ"ォ"オ"ア"ア"ア"」
その時ライトは渇望した。力が欲しい.. 力が、力が、力、力、力、力、力、力、力、力!!!! だから手を伸ばした.. その力とやらに..
-ガシッ バリバリバリバリバリィィィィッッ-
◇◇
-ガバッッ-
「ハァハァ..ハァ....」
飛び起きたライトは額の汗を拭った。目の前に薄っすら見えるのはいつもと変わりない部屋の光景、どうやらさっきのは夢だったらしい。
だが、夢だとわかってなお、動悸はおさまらない。汗は拭えても、記憶はそう簡単に拭い去ることはできない、嫌な記憶ならばなおさらだ。
「..ハァ....」
ライトはダメ元で横になるも、やはりさっきまでの夢のイメージが強く残り、瞼を閉じることができなかった。代わりに、懐から真紅のクリスタルを取り出し、それを指でなぞりながらじっと観察していた。真っ暗な部屋の中では、真紅のクリスタルだけが妖しく輝きを放つ。空を流れる一筋の光も今のライトの目には入らない。
「....」
何もせず、ひたすらクリスタルを見つめるだけで時間はあっという間に過ぎていく。それを見つめているライトが何を思っているのか..それは分からない。だが時間は構いなしに延々と流れていく。それは決して取り戻せない..
・
・
・
「星奈、もう帰ろうぜ。 時間の無駄だろ..」
「あと半分.. あと半分だから」
「何時間かかるんだよ..」
「もうちょっと.. もうちょっとだから」
さて今日は元日、星奈とライトは行列に並んでいる。元日に行列とくれば、おそらくピンとくる人も多いだろう.. そう、初詣である。普段は神に見向きもしない人たちも、この日ばかりは神に対して手のひらを重ね合わせ、自身の繁栄と安寧を願う。
そして星奈たちも同じくその一員。波乱万丈だっだ去年に別れを告げ、心機一転、新たな年が晴れやかなものにするためにここを訪れたのだ。
だったのだが..あんまりにも待ち時間が長いものだから、ライトは新年早々この上なくイライラしている。ちっとも晴れやかでない。
「おっかしいなぁ、私の地元だとこんな並んだことないのに..」
「なんでお願い言うだけでこんな並ばなきゃいけないんだ..」
「それはほら..アレだよ “何事も苦労しなさい”って言う神様のお告げだよ」
「お前の地元は混んでね〜んだろ..」
そう言われたら星奈はもう笑うしかなかった。とはいえ、こんな不毛なやりとりをしているうちに、微々ではあるが行列は少しずつ前に進んでいる。ならばもうありったけ話そう。
「なんやかんやもう半年は経ったんだね、ライトが来てから」
「....ん??」
「聞いてないのッ??」
どこかに気をとられていたらしく、ライトは気の抜けた声を上げた。
「ライトが来てから半年経ったね..って言ったの」
「ほぉ〜、そうか.. で??」
聞いてたところで別に会話は広がらなかった。これじゃ、キャッチボールじゃなくて遠投だ。会話が一向に返ってこない。だがそれでも星奈は話し続ける。暇だから..
「..去年はさ.. とりあえず大学行って、友達と遊んで、バイト頑張って、そんな何でもない日がずっと続くんだろうなぁ..ってなんとなく思ってたんだ.. でもさ、魔獣のせいで色々変わっちゃったじゃん」
-テクテクテク-
「なんて言うかさ..日常って分かりづらいけど..大切なんだって、崩れてから分かったんだ.. だから、元通りの日常が戻って来ればいいなぁ..って今は思ってるんだ!!」
-テクテクテクテク-
「よし、オレたちの番だ」
「よっしゃぁ!! 願うぞぉ、チクショー!!」
せっかく回ってきた順番を全く快く思わず、むしろ不平不満をぶつけるぐらいの勢いで鈴を鳴らした。神様もビックリである。
「....」
「........」
「「・・・・」」
・
・
・
「はぁぁ〜、もう懲り懲りだ」
甘酒をすすりながらライトは言った。だが意外にもその顔は晴れやかだ。面倒ごとが終わったからだろうか..
「にしては随分、拝んでたじゃん.. 熱ッ!!」
たこ焼きを手に持ち星奈は言った。こっちの顔は疲れ果ててヘトヘトだ。主にライトのせいで..
「あれは直前まで願い事を悩んでたからだ、決めてからはすぐ終わらせた」
「何願ったのさ。 旨ッ!!」
「最初は“平和になりますように”にしようと思ったんだが、やめにした。 とりあえず“もっと強くなれますように”にした」
「ふ〜ん.. なんで??」
たこ焼きを頬張りながら星奈は尋ねた。気づかぬ間に六個入りのたこ焼きは全て平らげていた。
「オレが強くなれば平和にも近づくからな、だからそうした。 それに..平和は定義が難しいからな.. 争いが無いのが平和だとしたら.. 全ての生命体を滅ぼして争いをなくしても平和だからな....」
「怖ッ.. そんな風に考える??」
もちろん星奈が言う“平和”はそんな物騒な平和じゃない。みんなが手と手を取り合って生きていく、そんな平和だ。おそらく実現度は物騒な平和以下だろうが..
「まぁ、普通そんな捻くれた考え方しないけどな.. ただ..正直オレは何が平和かよく分からなかった、だから力の方を願った.. それも正しいのか分からないけどな..」
ライトはため息をついた。思いのほか真面目な話だったので、さっきまで散々ライトに煮え湯を飲まされた星奈は話の温度差に凍りつきそうだった。
「ゴミ捨ててくるよ」
そう言うと、ライトは星奈が持つ紙パックを受け取り、辺りをキョロキョロと見渡し出した。
「ゴミ箱はあっちだよ」
「うん知ってる.. 気のせいだったか??」
訳の分からないことを呟き、なおもキョロキョロしながらライトはゴミ捨て場に手早く行って帰ってきた。
「帰ろっか」
「..そうだな..」
やることを終えた二人は神社を後にした。しかし..
「........見つけた..」
・
・
・
帰り道、星奈とライトは大通りの雑踏の中を歩いていた。正月なだけあっていつもより家族連れが多く、親は人混みで子供とはぐれないよう、しっかりとその手を握っている。
「私たちにもこんな時代があったんだよねぇ..」
その子たちを温かい目で見ながら星奈は呟いた。
「お父さんとお母さん、元気にしてるかなぁ」
思い浮かんだのは地方で暮らす両親の顔だった。最近はしょっちゅう連絡を取り合っているが、最後に直接会ったのは一年前、多少の寂しさはある。そんなことは感じさせないくらい星奈は明るいが..
「地球が滅んだら.. みんな居なくなっちゃうんだよね..」
哀愁漂わせながら星奈は言った。もう明日の地球がある、その保証がないのだから、やっぱりどこかのタイミングで帰省すればよかった....と少々後悔している。
「ライト、こんなこと言うのもなんだけど.... 絶対勝ってね、私も..頑張るからさ」
北風が髪をなびかせる。ライトは何も言わなかったが、その言葉はしっかり届いていた。ただ聞こえなかったふりをして感情を誤魔化していた。
そしてちょっと経った頃に、それとは全く関係のないことでライトは口を開いた。
「....なぁ、ここら辺で人が来ない、広いところってあるか??」
「えぇっ!! え〜と..どうだろ?? 確か..ちょっと遠くに行けば..廃工場があったような....」
急な質問に面食らいつつも、持てる知識を総動員して一番ベストであろう場所を星奈は答えた。
「よし..背中に乗れ!! 次の角曲がったら走る!!」
「え!?」
突然のことに全く理解が追いつかず、困惑しつつも星奈はライトに半ば強制的に背負われた。一方、ライトは曲がる直前につま先で地面をトントンと叩いた。いつでも走れるらしい。
「......よし、行くぞ!!」
「初めはゆっくり.. うーわー!!」
-ダッ シュタタタタッッ-
ライトは見事なスタートを決めて走り出した。中々器用に人混みもすり抜け、ほぼ全力に近い速さで走り続ける。それによって星奈の目に映る景色もめまぐるしく変わっていくが、あまりにも速過ぎて色ぐらいしか判別できない。
「道はどっちだ!?」
「..ヒダリ」
「よっしゃ」
-ビューーン-
「あぁぁれぇぇ!!」
まるでジェットコースターに乗っているかの絶叫が町中に響き渡る。乗り心地もほぼジェットコースターで快適さは微塵もない。なのに走行距離はやたらと長い。控えめに言って罰ゲーム、悪く言えば拷問。だから回したその手は絶対に離さない、離せない。なぜなら落ちたらヤバイから..
「おぉぉっほっほぉぉおお....」
・
・
・
〈工場跡地〉
「..大丈夫か??」
「あ"??」
星奈からライトへ凄まじい剣幕が向けられた。背後に炎すら見えそうな、その凄みに流石にライトもタジタジであった。
「ナンデコンナコトシタノカナァ??」
よく聞こえるようにと、真顔でライトの耳を引き寄せ囁く。
「痛ててて、話す、話すから」
反動でバランスを崩してライトは二歩下がる。そして引っ張られた耳をさすりながら星奈の横を通り、門のところに向けて叫んだ。
「出てこいよ、つけてただろ!!」
すると真っ赤なローブを着た謎の人物が現れた。顔はフードでよく見えないが、口元は一直線に結んでいる。
「えっ、いつから!?」
思わず星奈は驚きの声を漏らした。よもや自分たちがストーカーされてるとは思いもしなかった。
「お前は....誰だ..」
一言ずつゆっくりとライトは喉の奥から絞り出した。その問いにローブの人は声では答えなかった。その代わりに一歩、また一歩とライトの方へ歩みを進める。そして、口元に笑みを浮かべ、わざとらしく顔を覆うフードに両手をかけた。
-バサッ....-
そしてゆっくりゆっくりとフードを外した。その奥にあった顔は思いのほか端正だった。地球基準であっても“可愛い”に分類される顔だ。目は綺麗な翡翠色、耳は俗に言うエルフ耳..と好きな人が見たらたまらない属性もてんこ盛りだ。
しかし、その女の顔を見てからライトの様子がおかしい。目は泳ぎ、唇を舐め、右手で左手首を意味もなく揉む。脈拍の上昇、発汗、体の震えに加え、顔も今までにないほど青ざめている。
女の方はただ黙り、瞬きもせずにライトを見つめるのみ。ただその様子からただならぬ威圧感を感じられる。一般人の星奈にすら分かるほど強烈に..
「....」
「....」
二人は何も喋らない。全く事情の分からない星奈は凄まじい緊張感に気圧され喋ることすら許されず、ただ女とライトの顔を交互にひっきりなしに見ることしかできない。だが、永遠に感じられるほど長かった沈黙を破り、ついに女が話を切り出した。
「どうやらアタシのことは忘れてないようだな」
何も言わずライトは目を閉じ、そして天を仰いだ。
「あぁ..」
ただそれだけ答えた。荒い呼吸に合わせて白い息が吐き出される。
「じゃあ、なぜアタシが来たか.. 分かるな..」
「....復讐..か..」
蚊の鳴くような声でライトは言った。だが静寂溢れる廃工場内では、それもその場にいた三人の耳にしっかりと届いた。女は目を釣り上げ、怒りと憎悪を込めた声色で言い放つ。
「そうだ!! アタシは..お前に復讐を果たすためにこの星に来た!! そしてお前を.... お前を殺すためだけに生きてきたッ!!」
凄まじい気迫だ.. 無関係の星奈まで、無意識のうちに後退していた。
その気迫の矛先を向けられるライトは俯いた。そのせいで顔がはっきりと見えない。
そして......女は宣言する!!
「....今日が......お前の最期だ..........魔人ライト!!」




