第二十六話 愛なき剣
クリスマス当日、星奈とライトはクリスマスパーティーを開催する、ケイケイが暮らすマンションを訪れていた。本当は外の方が良かったのだろうが、ここ最近の騒動等を考えて安全面を考慮した結果、この形となった。とはいえ星奈とケイケイはこの状況を「周りを気にしなくていいし」と割と喜んでいた。何たってどういうわけかケイケイの部屋の周りには誰も住んでいないのだから..
「「かんぱ〜い」」
「か..かんぱ〜い??」
乾杯の音頭と共に楽しいパーティはスタートした。テーブルの上にはチキン、ピザ、サラダにシチューといかにもクリスマスと言えるような定番のメニューが集結している。そして、大人なクリスマスの定番のシャンパンもあった。星奈とケイケイは今までそれを飲んだことがなかったので楽しみにしていた。
「う〜ん..なんだろう..よく分かんないね」
「まぁ、私たちの経験値じゃね〜」
「オレも分からん」
「ライトのはコーラだよ?? 多分甘いでしょ!?」
「..味分かんないんだよなぁ、全般的に」
割と本当に哀しげな感情を漂わせライトは言った。今までほぼずっと何にも食べずに生きてきたせいで、ライトの味覚は未だ未発達であった。
「まぁそのうちライトも分かるよきっと....オトナの味ってやつもね」
ニヒルな笑みを浮かべたつもりで星奈は言った。が、どう見てもただ眠そうなだけだった。そんな星奈をケイケイが笑いをこらえて見ている。彼女は知っていた、大人を自称する星奈がピーマンを食べられないことを..
ーゴクゴクッ..ー
「ふっ、シャンパンいと旨し」
「星奈ちゃん、水飲む??」
「うん飲む!!」
ちなみに、シャンパンのアルコール度数は十二度前後でビールの約二倍、さらに炭酸には酔いを早く回らせる効果があり、それでいて飲みやすいのでペースも速くなる。つまり何が言いたいのかというと、シャンパンはとても酔っ払いやすい酒なのである。
「水サイコー..オイシー..」
「....もうそれぐらいにしとこうね..」
“大人な”星奈は見事シャンパン二杯でほぼノックアウトされたのだった..
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「Zzz....」
完全に落ちた星奈はさておき、まだまだ元気なライトとケイケイは二人でずっと人生ゲームをプレイしていた。
「あっ..ライトさん破産です..」
「破産ってまずいの??」
「かなりまずいです..現実だったら....死も覚悟しますね」
「なぁんだ、いつものことじゃん」
あっけらかんといった感じでライトは言った。それに対して、取るべきリアクションが分からなかったケイケイは引きつった笑みを浮かべるだけだった。
「死ななきゃセーフだ、生きてさえいればいいんだ」
「でもこのままだとライトさん、ボロ負けですよ??」
「..それはやだな」
基本的にライトは負けず嫌いである。正確に言うと負けたら死ぬから負けるわけにはいかないという精神が心の奥底に深く根付いているのだ。
「約束手形って何??」
「借金ですね」
「..またか、大波乱だなオレの人生」
ちなみにその後も何度かやったが結果は全て同じ、ライトは延々と負け続け総借金額は国家予算レベルにまで膨らんだという。いくらなんでも弱すぎである。
そして特にとりとめのない、たわいのない会話がずっと続いた後、酔いから醒めた星奈があの話題について切り出した。
「そういえばさぁ....あれからどうなったの」
「何のこと??」
「ストーカーの件」
「あぁ、あれね!!」
忘れてたかのようにケイケイが声をあげた。その様子を見るに特に何もなかったようだ。
「警察行ってからピタリと止んだよ..スゴイよね..」
「そっか、よかったよかった!! 嫌だもんね、新年早々憂鬱な気分じゃ」
「そうだね..でもまだ..気をつけないと」
ー..ゾワッッー
その時突如ライトに背筋に悪寒が走る。言い知れぬ嫌悪感が全身を駆け巡り、冷や汗が頬を伝う。頭の中に誰のか分からない昔聞いた悲鳴がこだまする。
-リンゴーーン-
そんな時にチャイムが鳴ったのだからライトは気が気でない。星奈は思わず腕時計を見る。示された時刻は十時五十分、常識がある人ならこんな時間に人を訪ねはしないだろう。タイミングもタイミングなので三人とも動揺した。
「あのう..ライトさん一つ質問していいですか??」
来客を確認して玄関から戻ってくるなりケイケイが尋ねた。
「ライトさん..兄弟とかいます??」
「..えっ、なんで!?」
「それがドアの前にいる人..ライトさんにそっくりなんですよ..ドッペルゲンガーかなぁって思えるぐらい」
それを聞いたライトは自ら確認に向かい、ガラス穴を覗き込もうとした。だが、その必要はなくなった。
-ズバンズバンズバンッ ドンッッ-
相手の方がわざわざ鉄の扉をバラバラに切り裂き、オレンジ色の玄関灯の下にその姿をさらけ出したから。確かにその顔はライトに酷似していた。が、瞳は本人の蒼とは違い黒、髪も中途半端に金に染まりプリンのよう。そして何より違うのは手に持つ剣、ライトの〈光剣フォトロン〉とは異なり、銀色の鋭いロングソードであった。その剣身にはここに来るまでに誰か切り捨ててきたのか血がべっとりと付着している。
「ずいぶん乱暴なお出ましだな、サンタさんみたいにそっと来いよ」
ライトも剣を手に持ち、二人の剣士は互いに牽制し合う。
「ケイケイ..一旦さっきの部屋にいってくれ」
決して敵から目線は外さず、指示を出す。その指示通りにケイケイは部屋に引き返す。
「お前、シャドウの差し金だな」
その問いには答えず、男は一歩、また一歩と進み、それに合わせてライトは後退する。そしてちょうどドアのところまで後退した時..
-バチバチッ ズドォォム-
ライトは部屋に飛び込んだ。さらに剣から放ったエネルギー弾が壁に大穴を開けた。それが繋がった先は隣の空き部屋だ。
「その穴から脱出しろ!!」
ライトが男を食い止めている間に、星奈とケイケイはその穴を通って、隣の部屋の扉から外へ出た。
-キンッ ガギン ガッッ-
部屋の中では激しく二本の剣がぶつかり合い、衝撃であたりには写真やら本やら色んな物が散乱する。
「あはははは、あぁ〜なんだか力が溢れてくる〜.. もっともっと切らせろぉ〜、イッヒッヒッヒー」
理性のタガが外れた男は欲望の赴くままにデタラメに剣を振り回す。そして発作でも起こしたかのように、突然戦闘を放棄して外へ飛び出していった。慌ててライトも後を追うが外にはもう影も形もなかった。
「最悪だ.. 最悪すぎる」
だが嘆いていてもしょうがない、ライトは翼を装着して夜の空へ飛び立った。
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一方その頃、星奈とケイケイはマンションからそう遠くない公園の穴が空いたドーム的な遊具の中に身を潜めていた。靴を履いていればもっと遠くまで逃げられたかもしれないが、それがない今の二人ではここが逃げられる限界だった。
「うぅ〜、アレも魔獣なのかなぁぁ..」
「せめて..スマホがあれば連絡が..とりあえずほとぼりが冷めるまで待とうね....」
すでに十一時を超え、ドーム内はほぼ真っ暗、その上に高まっていた緊張も収まり、二人は今疲労からくる猛烈な睡魔に耐えていた。
-ガンッッ-
衝突音がドーム内に響き渡り、二人の睡魔を吹っ飛ばした。
-ガンッガンッガンッガンッ-
音は規則正しく等間隔で発せられる。おそらくこのドームの上を誰かが歩いているのだろう。そしてその誰かがドームの中をヌッと覗き込んだ。
「「きゃぁぁぁあああ!!」」
耳をつんざくような断末魔がドーム内を駆け巡る。そして覗き込んだ顔はそれを聞いて嬉しそうな顔をした。
「よかった!! 二人とも生きていたか!?」
「な..なぁんだ..ライトかぁぁ....あぁびっくりした」
「一瞬..終わったかと思いました」
文句こそ言いつつも二人とも胸をなでおろした。
「それで..倒したの??」
「いや逃げられた..今から追う、二人も来い」
そう言ってライトは玄関から持ってきた二人の靴を地面に並べた。
「え!? 私たちが!? 邪魔じゃない??」
「アイツの居場所が分からない以上、別行動は危険だ、固まって動いた方がいい.. 見つけ出すまでは一緒にいろ」
こうして合流した三人によって謎の男の捜索が始まった。当初、三人は探し出すのに時間がかかると思っていた。しかし意外にも早くその足取りをつかむことに成功した。
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「ダメだ..心臓を一突き..多分即死だ」
「足跡..」
その側に血でできた足跡がはっきりと残っている。まだ乾ききっていない..男はまだ近くにいる.. その足跡は大通りの方に続いていた。
そして、意を決した三人は、大通りに面した道に進み出た。そしてそこには想像を絶する惨状、地獄のような凄惨な光景が広がっていた。あまりにも見るに耐えず、星奈は吐き気を催し、ケイケイは立っていられなかった。
-ズギッッ-
ライトは頭痛に見舞われていた。呼吸は荒く、拳を血が出るほど強く握りしめていた。
「ふざけんなよ..ふざけるなふざけるなふざけるな、ふざけるなッッ!!」
心にしまっていたはずのドス黒い感情が沸々と沸き上がる。目の前が朱に染まり、もう周りのことなど眼中に入らなかった。
「ライト!!」
「!!」
星奈の呼び声にライトはハッと我に帰った。氷点下にもかかわらず、その額には気づけば汗が吹き出ていた。
「あ......悪い..」
「大丈夫??」
「あぁ.. オレは負けない、オレは..変わったんだ!!」
果たして誰に向けて言ったのか.. それだけ言うとライトは走り出した。その背中を、不安に駆られながらも星奈が見送っていた。
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・
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-ズバスバズバ-
「イーヒッヒッヒッ」
完全に狂った男はひたすら剣を振り回し続け、その度に血飛沫が散る。もう自分からは止まれない。理性はとうの昔に崩壊している。
「もうっともうっと切らせろぉ〜」
「もうやめろッ!! これ以上..罪のない人たちを傷つけるなッ!!」
「あぁ〜、ま〜た、お前かぁ〜、まぁいいやぁ〜、とっておきをみせてやるぅ〜」
男は焦点の合わない目でライトを睨みつけ、握った剣を自身の影に突き刺した。
-ズキンッッ-
それと同時にライトの背中には激痛が走った。見ると腰から腹部にかけて銀色の剣が突き抜けている。そして男が影から剣を引き抜くと、刺さった剣も背後の影へと戻っていった。
「まさか..その剣」
ライトの脳内にはある剣の名が浮かび上がった、〈暗剣ブラッド・シャドー〉 その能力はいたって単純、だがトリッキーだ。
-ザンザンザンッ-
男が影に剣を突き刺すたびにライトの足元の影からはその剣身が突き出る。これこそがこの剣の特異な能力“自身の影と任意の影を繋ぎ、そこに剣身を飛ばす”
よってこの剣のリーチは時と場所によって大きく左右される。だが今は夜、よってこの男の視界ほぼ全てがリーチである。
「コイツ..影からコソコソとッ!!」
ライトは街灯が照らす光の中に退避、形勢を一旦リセットする。
-ガジャンッ-
だが男は街灯を切断し、再びライトを影の中に引きずり込む。銀色の剣が容赦なくライトの足元から襲い来る。だが、その時ライトにある光明が差し込む。男の動きを封じる作戦を思いついたのだ。
-ドスッッ-
剣がわき腹に突き刺さった。いや、刺させた!! そして剣身をガッチリ掴んで男を釘付けに。剣が諸刃なため指から血が流れるが関係ない。
「ブレードショット!!」
光の刃を男に向け放つ、そして見事に直撃!! 剣から手を離せば攻撃はかわせたが、男は一度手にした力を手放すことはできなかった。
「トドメだ!!」
ライトは男を蹴り上げ、天高く舞い上がらせた。男の自由は完全に失われた。
-ズバンズバンッ-
-ズババババババッッッ!!-
怒りに身を任せ、がむしゃらに剣を振るうライト。その攻撃を受け続ける男は踊っているかのように宙を舞い続ける。
-ゴッッ ..ドゴォォォ-
ライトのかかと落としを受け、男は地に叩きつけられた。ライトも回転しながら地面に着地した。
そして、男が落とした暗剣を回収しようと手を伸ばした。
-バンッッ-
それを遮るように、手を伸ばそうとした先に矢が突き刺さった。それを放った相手の顔を見ることも、声を聞くこともせず、それを射った者の名をライトは叫んだ。
「シャドウ!!」
「よおライト..メリークリスマァス」
夜の影の中からシャドウは姿を現し、冷徹な右目で地面にめり込んだ男を足蹴りにする。
「せっかく..ボクがプレゼントをやったのにすぐダメにしやがって.. 使えない....人間だ!!」
「人間!?」
「なんだ、気づいてなかったのか コイツは元人間だ」
開いた口が塞がらないライトに対し、シャドウは淡々と話し続ける。
「ボクが力を与えたんだ お前を倒せるだけの力を」
「なんで..そんなことを」
「思いの力ってのは意外と侮れないからな.. コイツはお前のことを憎んでいた、その力があればお前に本気を出させるぐらいはできる、そう期待してた。 結局、雑魚狩りしかしなかったけどな、コイツ」
「じゃあこの惨状はお前のせいじゃないか!!」
屍累々の町の中心でライトは激しくシャドウを紛糾する。だがシャドウは意に介さない。
「ボクは力を与えただけだ、その力をどう使うかなんてソイツ自身の問題だ.. 違うか??」
「..弱い奴に過ぎた力を与えたら....どうなるかぐらい分かるだろッ!!」
「お前はな..」
その言葉にライトの中の何かが切れた。そして後の先も考えずにシャドウに襲いかかった。だが、冷静さを欠いた剣は届かず、反対にシャドウの目にも止まらぬ蹴りを胸と腹に喰らった。
「じゃあなライト.. 次会う時は..お前を絶望の底に叩き落す」
ようやく、多大なる犠牲を出した聖夜の惨劇は終焉を迎えた。だが、この時ライトは知らなかった。自分が真の絶望を迎える時がそれほど遠くないことを.. 脅威はすぐそこまで迫っていた..




