最後の天気くらい、
俺は彼女と距離を取った。もう彼女の近くにいられない。これ以上余計なことをしたくない。気持ちを握りつぶすことだけには慣れっ子だ。カズヤとさ何もしてないのに気まずい。カズヤが俺と話す時の困惑した表情がより俺の自己嫌悪を促進する。
するとなぜだろう。カズヤとも距離ができた。
でももういい。俺には関係ない。二人が話していても、喧嘩をしていても、手を繋いでいても。
友達から聞いた話だと二人は付き合った。
俺は、嬉しかった。心の底から祝福をした。嘘はない。……多分。
それから、季節がいくつか過ぎた。
彼女と話すことは減った。カズヤとも、以前のようには話せなくなった。
それでも、学校はいつも通りだった。友達とくだらない話をして、授業を受けて、帰り道を歩く。昨日までと変わらない日々が、何事もなかったかのように続いていく。
彼女が笑っているところを見かけることもあった。隣には、カズヤがいた。
俺はもう、そこに近づかなかった。近づけなかったのかもしれないが今はもう分からない。
忘れたわけじゃない。諦めきれたわけでもない。
ただ、あの日のように彼女を傷つけることだけは、もうしたくなかった。する資格もなかった。
そうしているうちに、気づけば卒業の日を迎えていた。時間は思いの外早い。何もないからだろう。守りたいものも、欲しいものも、何もないから。少なくとも今はそう思うことにしている。
俺は卒業式が終わるとすぐに学校を出た。思い残すこともないし長居する必要はない。それ以上に思い出を感じに行きたかった。そして、1年ぶり……いや、最後に行ったのはもっと前だろう。「いつもの場所」だったところに向かった。
すると見覚えのある人がいた。
「……なんで?」
「……やっと来てくれた。私、毎日待ってたのに……」
彼女が泣いている。昔、一番大切だった人。今も大切な人。絶対に傷つけたくない人。俺はまた何かしたのだろうか、俺が泣かせてしまったのだろうか。
「……だからなんでここに?」
「覚えてないか……。中学の頃約束したじゃん。私はずっと側にいるって。忘れるなんてひどいよ……。」
そのとき初めて知った。覚えていたのは俺だけじゃなかったんだ。その一言を俺は彼女の側にいる言い訳にしていた。その大義名分がなくなったから距離をおいた。
なのに……なのに……。
彼女にとってあの約束はは特別だったんだ。
「……ミク、俺はその約束忘れたことないよ。でも、俺じゃダメなんだ。ミクを幸せにできるのは俺じゃない。」
彼女は目に涙を浮かべながら笑った。
「やっと名前呼んでくれた。」
ハッとした。たしかにそうだ。高校に入って名前を呼ぶのは初めてだ。なんで呼ばなかったんだろう。いや、きっと呼ばなかったんだ。理由は今やもう、分からない。
「それに幸せがどうかは私が決めるよ。だから……だから勝手にどっか行かないで欲しかった……。」
「ごめ——」
俺の謝罪はかき消された。
「……アキ、ごめんね」
聞き覚えのある言葉。忘れもしない、好きな人に好きな人ができた日の初夜。夢で見た。あの時の俺とは違う。もう、躊躇はしていられない。俺は彼女の……ミクの涙を優しく拭った。本当は抱きしめたかったけどそれはカズヤに申し訳ないと思った。
「ミク、謝らなくていいんだ。お前は何も悪くないから。俺はもう、勝手にいなくなったりしない。」
なんでキザなセリフだろうか。でも、今日はどこか似合ってる気がした。でも、彼女は泣きやまない。
「……それは無理なんだ。私、隣の県の大学に行くから。もうここにはそんなにいれない。」
「それがどうした?ミクはこの場所で俺をずっと待っててくれたんだろ?次は俺の番だよ。」
雨が降ってきた。始まりも終わりも、別れも全部雨らしい。それは綺麗じゃないかもしれない。でも、俺たちらしい気もする。
「……アキ、……仲直りってこんな簡単なんだね。」
「……そうだな。」
簡単じゃない。お互いがこんなに我慢して、苦しんで、その結果今がある。
小学校の頃同級生とは思えないほど大人びたミクは高校生の今、小学生みたいに泣きながら笑っている。
「好き」とは、また言えなかった。でも、いつか言える気がした。
彼女の幸せを願うからこそ言ってもいいと思った。いや、いつか言うべきなんだと。




