雨固まり雪となる。
俺はいつもの場所に座っていた。誰もいない。このままここにいたら俺は風邪をひいてしまうだろう。
雨はまだ降っていた。
傘を持ってくればよかった。今さらそんなことを考えても仕方がない。俺は立ち上がらなかった。
「アキ!なんでいるの……?」
俺の前に彼女が現れた。
「……そっちこそ」
「いや、なんかアキがいる気がして……」
「俺はここでずっと誰かを待ってた。」
「え?それ私以外いなくない?」
「うん。いない」
「何よ急に……どうしたの?」
「……好きな人ってカズヤ?」
彼女は驚いた表情をみせた。その後、少し顔を赤くした。前のとは違う。初恋の何かを醸し出していた。
「……うん。やっぱアキに隠し事はできないか……。」
やっぱり、そうだ。[彼]の話を聞いたときから無意識のうちにカズヤの姿が浮かんでいた。これが第六感というのだろうか……。なんて迷惑な感覚なんだろうか。
「やっぱり、カズヤなんだな」
「うん。……そんなに分かりやすかった?」
「まぁ、昔から一緒にいるからな」
違う。そんなんじゃない。俺は君が好きだから。誰よりも君を見ているから。これを言ったらどうなるだろう。困るだろうな。そのあと、優しく振られるんだろうな。
「そっか……」
彼女は少しだけ俯いたあと、また顔を上げた。
「ねぇ、アキ。私、どうしたらいいと思う?」
「……どうしたらって?」
「カズヤと、もっと仲良くなりたいんだけど……どうしたらいいのかなって」
彼女は照れくさそうに笑った。
その顔を見て、胸の奥が嫌な音を立てた気がした。
どうしたらいいか。そんなの、俺に聞かないでくれ。
お前が誰を好きなのか、俺は知っている。お前がそいつのどこを好きなのかだって、嫌になるほど聞いた。
それでも、俺はお前の隣にいる。なにか大切なものが折れた。俺の信念という名の大黒柱が、チョークが折れるときのような乾いた音で、ポキっと。
「……別に、今のままでいいんじゃないか」
「え?」
「カズヤって、誰にでも同じように接するんだろ?お前だけ特別ってわけじゃないんじゃないか」
この言葉は言ってはいけない言葉。知ってる。知った上で言った。でも、それは自発的なものだった。矛盾していることは百も承知だけど、でも、でも——。
彼女の好きなところを否定したいわけじゃない。カズヤが悪い奴だと言いたいわけでもない。
ただ、そうであってほしかった。
彼女が好きになった相手が、俺より特別な人間じゃなければいいと思ってしまった。
「……アキ?」
「……悪い」
「……ううん。たしかに私一人で盛り上がってバカみたいだよね。私もう行くね。」
彼女はそう言って立ち上がった。
「待っ……」
引き止めようとした声は、雨音に消えた。
彼女は振り返らなかった。
俺は、何もできなかった。自分の周りのもの全てが凍りついた。彼女との関係も、カズヤへの罪悪感も何もかもが俺に重くのしかかる。
俺はいつもの場所に一人。忘れていた。俺が願っていたのは俺と彼女の明るい未来なんじゃない。彼女がただただ笑っている。そんな世界だ。なんで傷つけたんだろうか。彼女の恋の話を聞いていた。少しばかりは自分のことかな、と勘違いしていた。
俺は、背中を押すべきだった。たとえ実らないとしても。そうすることが、彼女のためだったはずなのに……。彼女の幸せを邪魔してしまう俺はなんだ?もう完全に無くなった。俺が彼女の隣にいる理由。俺が彼女といる理由。
降り続く雨は雪のように冷たかった。でも、どこが優しく温かい気もした。




