君にかけられたくもり
「[彼]はね、とても優しいんだ」
「[彼]はね、とても面白いんだ」
「[彼]はね、周りを見てるんだ」
「[彼]はね、笑顔がとってもよく似合うんだ」
「[彼]はね、包容力があるんだ」
「[彼]はね、清潔感があるんだ」
「[彼]はね、誰にでも同じ対応なんだ……。」
「[彼]といると落ち着くんだ。」
彼女から[彼]の好きなところをたくさん聞いた。[彼]の話をしている彼女は楽しそうにもなるし不安そうにもなる。それでも最後はやっぱり楽しそうだ。
「それ、俺でもよくない?」
そんなことが言えたら楽だったのかもしれない……。本当に[彼]の好きな所は俺にもある気がする。でも、そんなことは言えない。勇気もないしなにより彼女の笑顔が俺の手で崩されることも嫌だ。
俺は、彼女の恋愛を応援したいと思っている自分はたしかにいる。でも、思った。もし彼女が[彼]と結ばれてしまったら彼女のために俺は何ができる?
答えはあまりにも簡単すぎる。何もできない。
「アキ、今日は相談乗ってくれてありがと!やっぱアキが一番頼りになるよ」
「……そっか。困ったときはお互い様だから気にすんな。」
「うん!アキも困ったら私を頼ってね」
「……うん。」
そう言って俺たちは解散した。帰り道が別々でよかった。こんなことは初めて思った。今までの自分がまるで嘘のようだ。
「俺は今、困ってるんだけどな……」
帰り道。ふと思い出した。
中学の頃、俺は彼女に救われたことがある。当時、部活の大会で、決勝戦で負けた。絶対に勝てると言われていた試合だった。周りは意外にも冷たい。
「油断してたね。」
「ちゃんと練習来てないからだよ。」
「大丈夫?次があるから頑張って!」
「大丈夫?」この言葉を何回聞いただろうか。わからない。別に「大丈夫」という言葉自体を否定したいわけじゃなかった。何に対しての「大丈夫」なのな教えて欲しかった。根拠のない慰めは人を不安に、不幸にするだけだ。満身創痍な俺にとって当時は本当に苦しかった。
その時だった。
「私はアキめっちゃ上手いしカッコよかったと思うけどなぁ。大丈夫。アキがどんな失敗してもどんなにカッコ悪くても私は側にいると思うから。」
彼女は俺にそう言ってくれた。彼女は言ったことすら覚えていないかもしれないがこの言葉が俺を救ってくれた。全てを優しく受け止めてくれた。
きっとその日から。俺から君への想いは。
あの時の彼女がいないなら今の俺はいない。だから、彼女の幸せのためを思って生きてきた。自分のことよりも大事に……。でも、そんな大義名分のメッキはもうすでに剥がれ落ちている。分かっているのに……。なんでなんだよ……。
俺を夜から迎え出した太陽が今度は再び夜へと誘う。
夜は感傷的になりやすいと誰かが言っていたのをよく覚えている。今、自分ごとになって痛いほどに痛感している。
彼女には幸せになってほしい。
それは、今でも変わらない。あの日、彼女が俺にしてくれたことを、俺は忘れたことなんてない。
だから、彼女が笑ってくれるなら。それでいいはずなんだ。
……本当に?
彼女が[彼]と並んで笑っている姿を想像する。
きっと、幸せなんだろう。俺といるときとは違う笑顔で、俺には知らない彼女を見せるのだろう。
それでも、彼女が幸せなら——。
「……それで、いいんだよ」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
本当は分かっていたのかもしれない。でも、分からないふりをした。
自分にモヤがかかった気がした。心は透ける綺麗な色とは程遠い。今の季節に似合うくらい分厚い入道雲が俺を覆っている。




