第九話 一人だけ召喚されし者(社員)⑤
――バンッ!!
ん?給湯室で誰か倒れた?
少し駆け足で給湯室前まで来ると聞き覚えのある声。
「いい身体してるじゃねぇか」
「嫌っ――やめっ」
給湯室を覗き込むとトンデモない事が起こっていた。
女性の片腕を壁に押し付け、動けない様にした挙句、空いた手はその女性の胸に向かっている。
なんてウラヤマ!!
「お前っ!」
私は羨ましさの余り男の腕を掴む。
「誰かと思ったら旧友じゃないか。なぁ、こないだの話でこの女がどれほど嫌らしい女かお前も知ってるだろ?」
あぁどれくらいエロイ格好をいつもして居るのか知ってるし、現に今日も超エロい!
「だから俺とお前でこの女、やっちゃわねぇか?」
私は旧友の顔を見る。
な、なんて素晴らしい提案をして来るんだこの男……なに?今この状況って旧友が女上司の弱みを何か握ったからって感じですよね。……んー私もその弱み知っておきたいんだけど?だって後でなんかあった時、旧友だけ逃げれたりズルイじゃないですか!
ん?でももし今の状況が彼女の弱みを握ったからでは無く、他の理由だとしたらどうでしょう。
単に彼の独りよがりの可能性だってあるわけですし……そもそも三人でって言うのに納得できません。
確かにここに来た理由を作ってくれた彼には感謝です。
しかし、理由はそうでも望むものは違うのです!つくづく私は嘘が苦手な様です。
「ふっ、何を言うかと思えばですね。旧友、私が今日ここに来た理由は貴方も知っているでしょ」
「プレゼンだろ?まさかお前があのデザイナーだとは知らなかっ――「違います」
私は彼の言葉を遮り、彼の手を彼女から強引に引き剥がしながら言う。
「私がここへ来た理由はプレゼンなんかではありませんよ」
「ど、どう言う事だ!」
「どうもこうもありません。私は今日、彼女に会う為にだけにここへ来たんですから」
そう、そもそも私はエロイ服装だと聞いた彼女の姿を見る為だけにプレゼンの準備をして来たのです。
プレゼンは、なんか私のが通ったみたいでラッキーですが、ここで彼女を襲えば犯罪です。
ですが見るだけでは犯罪ではないのです!
なので君との友達関係はここで終わりです――ドン!「ぐぁっ!」
――――。
――。
――迫田美鈴は思い出していた。
2年前のあの日、まさか自分に合う為だけにプレゼンへ参加してくれた有名デザイナーの山元博樹。
友情を捨て、恋を捨て、一心不乱に会社の為に尽くして来た私を。
関係の無いはずの私の事をずっと考えてくれていた居たのだろう。こんなちいさな私の存在を――ただ話を聞いていたと言う理由だけで彼は私に会いに来てくれたのだ。
そんな私が彼の会社で勤める事になるのは必然だったのだろう。
……まさか異世界転移だとは思わなかったわね……さすがの社長もここまでは――来れないわよね。
そう思うと涙が止まらない。
――「勇者殿!勇者殿はおられるか!」
突然皇子の声が響き渡る。
――バン!
無造作に空き放たれるドア。
「何事です!」
「見た事も無い箱舟が上空に現れたのだ!勇者殿はその存在をご存知ないか!」
空飛ぶ箱舟ですって?この世界は空も飛べる乗り物が在る程に科学が発達しているの?……魔法?
「兎に角一度見てはもらえないだろうか」
「ええ、勿論拝見させてもらうわ。その船はどこに」
すると皇子は指を上に向け。
「我が城の真上だ」




