第六話 一人だけ召喚されし者(社員)②
――コサイン帝国。
場面は突如として中世時代を彷彿とさせる世界へと移る。
ここは緑豊かな星、サイン。
サインに住む者が、自分の星の名前がサインと言う事は誰も知らない。要は惑星の概念すらない今は剣と魔法の世界である。
そんな星の大陸の一つがここ、コサイン帝国である。
――コサイン帝国の城内にある召喚の間。
「皇子、我がコサイン帝国の召喚士達が必ずや勇者を召喚してみせますじゃ」
老人の言葉に強く頷くのは、背の高い凛とした端正な顔付きに髭を蓄えた騎士風のダンディな中年。タンジェント=コサイン皇子。
「これで漸く魔王を滅ぼせるのだな」
「それは勿論でございます。それを引き連れ魔王を討伐すれば皇子は英雄にございます」
「そんな事はどうでもいい。民が救われるのならば私の命など」
「ご立派でございます」
その言葉に皇子はマントを翻し右手を振り上げると。
「では直ちに召喚の儀を始めるがよい!」
その言葉に召喚士達が魔法陣へと魔力を注ぎ始めると部屋全体が明暗しだす。
「ところで爺」
「なんですじゃ?」
「異世界の勇者は男なのか女なのか、どっちが来るんだ?」
「それは時の運ですじゃ」
「そうか、せめて男性であればいいのだが……」
召喚魔法陣が一際輝くと――バリバリバリバリッ!部屋に稲妻が走る。
「せ、成功か!?」
煙が収まり、魔法陣の中央へと全員が注目する。
すると爺が。
「成功ですじゃ」
見れば白い羽を飾りに赤いヘルムを被り、荘厳な盾に美しい柄の剣を持つ勇者と言って間違いない者が膝立ち姿で控えていた。
「ようこそ勇者殿!さぁどうぞお立ちくだされ」
爺の言葉に反応しない勇者だったが、顔を上げると爺を睨みつける。
その勇者の顔を見て初めて分かる。
「なんと女性勇者でありましたか。ここは埃っぽい故、是非お立ちになって移動しましょう」
しかし女勇者は睨んだまま微動だにしない。
「爺、言葉が通じていないのではないか?」
皇子が言葉を発した事で勇者もまた皇子へ視線を移すと、何故か耳が赤くなり顔を赤らめだした。
そこで皇子はハッと気付く。
――ツカツカツカ。
「女勇者殿、少しここは寒いかもしれません。どうぞこれを」――ふぁっさぁ~
そう言って皇子は自分のマントを女勇者へと掛けたのだった。
そう、彼女のアーマーはあまりにも面積が少な過ぎ、それに気付いた皇子がすかさずマントを女勇者へと渡したのだ。
「あ、ありがとうなんて言わないわよ」
皇子はその言葉に一瞬胸が跳ね上がるが、ただ首を横に振る。
――――。
――。
――迫田美鈴は考え込んでいた。
山元社長の代わりにお得意様へカレンダーを配りに廻っていたはずなのに、今は小さなアーマーを身に付け、剣と盾を装備したアマゾネスの様な姿になっていたからだ。
これが世に言う異世界召喚なのは先程の状況からも察する事が出来る。これが察する事が出来ない様では会社で出世する事は無理であろう。
「あのジジイ、立て立てと私の身体をそんなに見たかったわけ?ほんと失礼しちゃう」――バフッ
椅子からベッドへ身を投げると、先ほどの見た目の良い中年男の事を思い出す。
「な、中々気の利く男じゃない……でもうちの社長程ではないわ。あんな事で私の心は動かされない……もう身も心も社長の物だもの。――社長……博樹様……もう会えないの?」
そう考えると美鈴の頬に涙が一粒。
「――涙なんて2年前の夏振りね」




