第五話 一人だけ召喚されし者(社員)①
2年前の真夏。蝉の声で眩暈がするお盆前、彼女は山元博樹に出会ってしまう。
――#迫田美鈴__さこたみれい__#29歳独身は、我が社で経営は勿論、マーケティング企画から営業戦略まで一手に引き受ける我が印刷会社の専務取締役である。
――――。
――。
――2年前の夏。とある大手企業の事務所で、キャリアウーマン風の女が、背中を丸めた中年男性を叱責していた。
「あなた何年うちの会社にいるの。未だにこんな数字を出していたら秋には実家に帰ってる事になるわよ?」
迫田美鈴は目の前の中年男性係長をあまり好ましく思っていない。
彼女は人並みならぬ努力と、たまに女としての武器を使い27歳と言う若さで、大手企業の部長補佐と言う役職にまで登って来たのだ。
そんな彼女からすればこのうだつの上がらない男性社員を見ているとイライラしてしまうのも仕方の無い事だったのかもしれない。
そんな彼女は、全力で働き、終業後にエステやジムで身体をほぐし、自宅に帰れば全てを脱ぎ捨てビールを煽る。
「ぷっはぁ~。風呂上がりのこの一ぱいの為に生きているって感じが最高!」
ただこれだけで幸せとは彼女も思っていない。
お酒が良い感じに身体を温める頃、彼女は徐に箪笥から電池でウネウネ動く大人のおもちゃを取り出す。
――数分後。
「ぁああああ~ん、逞しい腕に抱かれたいー!イクーっ」
彼女は今日も最高のひと時を感じつつ一日を終えた。
――とある企業の廊下にて。
タイトスカートにエナメルのヒール。少し波打つ長い髪を背中に回し、美鈴は歩きながら中年係長から資料を受け取る。
「この資料に今日のプレゼンで見た事のない新しい会社名があるのだけど、あなた知ってる?」
「あ、はい。私の昔の友人でして、山元と言います」
「ふ~ん、あなたの友達ねぇ」
うだつの上がらないこの係長の紹介?帰ってもらってもいいのだけど……そう言うわけにもいかないか。
今日は専務もプレゼンに顔を出すと言っていたし、あまり目立った動きはしない方が得策ね……しかしこの男、凶を狙って自分の友人をねじ込むなんて。やはり注意はしておくべきね。
――――数日前。
「山本君!聞いてくれよ!俺は本当に辛いんだ!」
とある居酒屋で私の前で泣き崩れている居るのは、大手企業に勤める旧友。
彼曰く。今の上司が若い女上司であり、来る日も来る日もいびられるわなじられるはで、精神的に参っているらしい。
こんな話を2時間程聞かされているが、正直言えば彼の言葉は私に何も響いて来ない。
だって彼の奥さんは私の初恋の人なんだから。彼はどれだけ会社でイビられようが、家に帰ればあの人が待っていてくれるのだ。
そんな彼の泣き言が私に響く訳がない。
「あの女、ちょっと自分の身体に自信があるからってあんな短いタイトスカート履きやがって」
――んん?
「それに暑いからって胸のボタン外しすぎなんだよ!会社には社外の人間も入って来るんだぞ?あんなスケスケのブラウスなんて相手の社員さんに失礼だろ!なぁ、そう思うよな!」
「…………」
「?、どうした山元。そんなに手をプルプル震わせて」
「その女性、そんなにミニなの?」
「あぁ、いい歳して馬鹿なくらいだ。ちょっと他じゃ見ないな」
他で見れないミニのタイトスカート、だ、と!?
「そ、そんなに透けてるの?」
「あれな。ちょっと常識を疑うほど透けてるな。どんな育ち方すればあーなるのやら」
常にブラ見放題!なにそれ!なんの毎日ご褒美!?
うちなんて性癖こじらせた童貞オタクの青年が一人だけなのに!羨ましい!
なんなんだこの人は。私の初恋の人を嫁にして、しかも昔は大会社へ就職が決まった!って散々自慢して来たくせに。この人ほんと嫌いだ――。
「あ、そうそう。今度うちの新商品のパッケージ選定のプレゼンあるけど、山元も来る?」
は?なんで私がこの男に協力しなければならないんだ。
「でも選定員がその馬鹿女だから来ない方がいいか。すまん忘れ――「行くから」




