第四話 宇宙の白い機体は全部ガ〇ダム説
宇宙船らしき艦橋には現在、若返り、イケメンとなった私こと山元博樹と。
猫耳と尻尾を手に入れた並木啓介君。
金髪赤ベレー帽の女性兵士となった桜庭ともよ君に半分機械化のサイボーグ須藤叉木さん。
以上三名がここに居るわけだけど、須藤さんはなにやら既に目の前のコンソールを開いて「ふむふむ」となにやら納得している。
何に納得しているのだろう。
ともよ君は腰に下げていた銃らしきなにかを持ち上げ、うっとり顔になっており、時折構えては「じゅどーんじゅどーん」と射撃音を発している。――普通はパンパンじゃなかろうか。
並木君と言えば、ともよ君と須藤さんに交互に語り掛けては、情報交換を行っている様だ。出来た人だなぁ並木君。
そんな様子を見ながら私は艦橋から宇宙を眺める。
「(これどーするの?ねぇ、これどーなるの?)」
そんな事をボーッと考えていると、目の前の宇宙空間に白い筋が走ったのが見えた。
私はこれを知っている。
宇宙空間に走る一筋の白い光。
もうアレしかない!こんな変な世界で突然宇宙とか!もうあの白い悪魔と呼ばれたあの機体しか考えられない!
そう「(ガン〇ムだ!)」
期待に胸を躍らせ宇宙空間に向け目を細める。――――(来た!)
ときめく心を抑え、なんとか捕獲出来ないものか優秀な社員へ相談してみる。
「須藤君、あれなんとかならない?」
「では下のハッチを開けてみましょう」
言いながら彼女はなにやらパネルを操作し始めたのだった。
――――。
――
ここで突然ではあるが、私、#足柄富雄__あしがらとみお__#は62歳、初老である。
定年前に妻に離婚を叩き付けられ、独りで生きて行く術を知らない私は、残された退職金で細々と生きていた。
いや、生きて行くしかないのだ。
趣味もなく、ただ漠然とテレビを見て過ごす日々。
ある日テレビで中継されていた競馬に目が留まる。
これまでギャンブル酒タバコを一切しなかった私だが、テレビに映る名前も知らない美しい白い馬に恋をしてしまったのだ。
それから私はその馬を見る為に競馬場へと通う事になる。
私が初めて馬券を買ったのは白馬の美しい馬。名をキャサリン・キャサリン。
決して早くない馬だったが、私は彼女を応援するために馬券を買い続けた。
それから1年。
預金も少なくなり、このお金が尽きた時に私の命も尽きるのだろう。でも悔いはない。
そんな事を思っていた時に私は出会ったのだ。
天に愛された男、山元博樹と言う#博打__ばくち__#の鬼に――。
――――。
今日も少し離れた位置からパドックを見つめる。そんな時、後ろから声を掛けられた。
「綺麗ですよね」
そう言って私の横に来た男に不信感を抱きつつも、同じ馬を愛でる者同士として挨拶くらいはしないといけない。
「ええ、私もそう思います」
「失礼ですが私より年上だと思いますが……」
「ははっ、今年で62歳になります」
「なんと!いやお若い」
こんな老け込んでしまった男を前に何を言っているんだかと思いつつも、にこやかな彼の顔にこちらも少し照れてしまう。
「おや、買わないので?」
「いえ、お金が無くても買いますよ」
「やはりお若い」
歳は関係ないだろうと思いそのまま返す。
「好きになってしまったら歳は関係ありませんよ」
私の言葉に彼は目を大きく見開き。
「私もそう思います!私も好きですもの!」
こんなにも同じ思いの人が居たなんて驚いた。
同じ馬を愛し、共に語り合う。
この歳で照れくさいが、いい友達に出会えた気がした。
彼となら親友になれたかも知れない。
「どうしました?なんだか浮かない顔色ですが」
正直今日のレースで私のお金は尽きる。
要するに私の命も今日までなのだ。
「いえ、愛する者を最後に見れて幸せだなと――」
その言葉に彼は私の肩を掴む。
「諦めてどうするんですか!もし貴方さえよければ二人で!ねっ!」
彼は私に諦めるなと言う。
その瞳を見るとなんだか失われていた勇気が湧いて来た気さえする。
――彼に託そう。私は胸から財布を取り出す。
「ここに5万円あります。私の分も買って来てくれませんか?」
彼は私が差し出した現金を目にし驚いた様だ。
出会って間もない他人にお金を預けて馬券を買って来いだなんて誰も思わないだろう。
だが彼は私の手ごと握り返し。
「分かりました。この山元博樹、命に代えても買って参ります。お名前を伺っても?」
「足柄、足柄富雄です」
「お任せ下さい足柄さん!あ、現金を預かるので一応名刺お渡ししておきますね、身分証も見せておきますので確認して下さい」
そう言って彼は立ち去って行った。
「なんて律儀な人だ。持ち去っても構わないのに――」
そしてレースが始まる。
単勝で100倍以上。勝てる見込みなどある筈も無い――が。
「一着はキャサリン・キャサリン!単勝万馬券の大穴中の大穴!史上初の大万馬券となりました!!」
私の瞳には涙が溢れて止まらなかった。手も足も震え身動きさえできなかった。
「足柄さん!足柄さん!」
彼が駆け寄って来る。
「いやぁダメでした」
「何を言ってるんですか山元さん!来ました来たんですよ!」
「へ?さっき立ち去って行きましたけど」
「立ち去ってなんて居ません!私達の元に天使が、キャサリン・キャサリンが舞い降りたんですよ!」
私の言葉に彼は電光掲示板を眺める。
「ほら、女神が一着です!単勝100倍の万馬券ですよ!」
彼は半ば放心状態で「そ、そうですね」と相槌を打った。
「あ、ではここで待ってて下さい。換金して来ます!ちょっと込んでるので時間掛かるかもですが、なんなら身分証おいておきますので!では行ってきます!」
動かない身体に気を使っていたのか、もしくは彼も自分の馬券を早く換金したいのかわからないが。
「あの慌てよう。ははっ、名刺二枚目ですよ」
――――。
――
え?万馬券?なんの話です?
私、不肖、山元博樹は大変焦ってます。
いやいやいや、競馬場ってお金すっちゃった女性を金で身体を買える秘密のスポットですよね?
足柄さんずっと美人のお尻見つめてたんじゃないんですか!?
私、あの美人に三人でどう?って自分の分併せて10万見せたら殴られたんですけど!?
いや、それよりも今は5万の100倍の500万円を用意しないと非常にまずいです!あの震え、あの涙!買ってませんでは済まされませんよ!
くそーっ!こんな事なら500万円で高級ソープ行けばよかったです!!
私は事務所へ500万を取りに戻り、無事足柄さんへ現金を手渡した。
――――そんな足柄さんと縁が出来、働かないのも身体に悪いと言うので、言えないげすがお詫びも兼ねてうちのビルで警備員をしてもらっている。
「しかし競馬場とかパチンコ屋さんて負けた女性をターゲットに、お金で身体が買えるなんて間違った知識を植え付けた並木君の薄い本が悪いですよ全く。なんて物を私に読ませたんでしょうか……勝手に読んだのは申し訳ないですけど」
――――。
――
「社長!前方に白い何かが近づいて来ます!」
並木君の声に私はブリッジから宇宙に視線が釘付けになる。
「(来たかガ〇ダム!―――」
――――コンコン。
ブリッジの目の前のガラス越しに、一匹の羽の生えた白い馬がコンコンしている。
――――コンコン。
須藤さんが馬に地図を見せる。
どうやら下のハッチの場所を教えた様だ。
――待つ事数分。
女性のアナウンスが入る。
――まもなくキャサリン改が艦橋に到着いたします。
キャサリン改?と首を傾げる。
エレベーターが開くと、白く長身で銀髪ロングの綺麗なお姉さんが立っていた。
いやいやいやいやい、まさか。そんなまさか。
この女性がキャサリン・キャサリン?いやキャサリン改と言ったか。
すると女性が声を発する。
「いやぁ、なんだか宇宙空間に馬の姿で放り出されて参りましたよ。はははははっ。ポリポリ、なんつって!」
その初老おっさん声は#正__ただ__#しく足柄さんの声だった。
少し美しいと思ってしまった私をいっそ殺して!と、社員一同が思ったのは言うまでもない。




