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未来はナプキンに書いてある 〜一攫千金を目指す姉妹の昭和・平成奮闘記〜  作者: Tokinapo


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番外編・第六話 初孫

 由恵はインゴットを桐の箱に戻し、手紙と共に巾着に収めて、和子に渡した。和子は巾着を仏壇の前に慎重にお供えした。真ん中に置かないと仏壇が傾いてしまうのではないかと心配だったのだ。


「ばあばも『投資家』だったんだね……」


 由恵は仏壇の隣に飾られた祖母の遺影に向かって呟いた。


「由恵、前に『株のリターンが一番高いのは死者』だって言ったの、覚えてる?」


 和子は仏壇の蝋燭に火をつけながら言った。


「もしもばあばが2008年にあのタイミングで亡くなっていなかったら、きっと龍ちゃんの治療費にこの金《きん》を使うようにって言っただろうね。その時にいくらだったかは分からないけど……」


 由恵は素早くスマートフォンを操作した。


「2008年の初めは三千数百円だったみたい」


「ということはこの金の価値は三百数十万円くらいだったのか……。あの時にこの分のお金があったら、すごく助かっただろうけど、あの時使わなかったからこそ、今や二千数百万円。これはものすごく助かるな……」


 龍太郎の病気の治療のために両親は全ての貯金を吐き出し、その後も龍太郎の学費と家のローンがあったので、貯金をするのは困難だった。父の退職時に支給された退職金は、家のローンの繰上返済に使ったので、思った程は残らなかった。父は七十歳まで嘱託の職員として働き、母もパートをしていたが、現在では年金と龍太郎が毎月定額入れている生活費が木本家の収入の全てだった。生活は成り立つが、余裕のある生活とは言えない。ましてや龍太郎は結婚して、家を出ることになるのだ。


 和子と由恵は何度か両親に仕送りを申し出たことがあるが、両親は決して首を縦には振らなかった。二人は龍太郎の医療費で多額の援助をしているし、和子に至っては由恵の学費も出している。父も母もこれ以上は受け取れないときっぱり言った。二人は両親に今後何かあった時にはお金を出す心づもりはしているが、両親が自由にできるお金が手元にできるのが、一番いいに決まっている。


 由恵は三本の線香に火をつけて、線香立ての灰に刺した。そして仏壇を見上げて手を合わせた。


「ばあば、素晴らしいサプライズをありがとう。龍ちゃんのサプライズとは熟成度が違い過ぎたよ。ばあばは、掃除が苦手な木本家一同が、当分ばあばの部屋の整理をしないことまで予見してたのかな。そうだとしたらすごすぎる……。今まで寝かせたからこそ、あの金《きん》はお父さんとお母さんの立派な老後資金になるよ。みんなで分けようとか言い出すかもしれないけど、そこは私たちが説得するから。それに、税務的なことも調べないとなあ……」


 和子も手を合わせた。


「昨日龍ちゃんが紹介したと思うけど、龍ちゃんはアイルランド人のエマさんと結婚するよ。エマさんは今妊娠三か月ってことだから、来年には、ばあばは『ひいばあば』になるね。お父さんとお母さんの念願の初孫だよ。これでお母さんからプレッシャーを受けなくなると思うと、正直ホッとする……。私なんてもう四十五歳なのに、『まだ間に合う!』とか言われてきたからね……。どうぞ、どうぞ、無事に生まれてくるようお守りください」


 由恵は和子をちらりと見て、仏壇の方に目線を戻した。そして手を合わせたまま目を瞑って、言った。


「ばあば……、龍ちゃんの子は初孫ではないかもしれません……」

 

「どういうこと……?!」


 和子は怪訝そうに顔を上げ、由恵の横顔を見つめた。


「なぜなら……」


 由恵は和子を見ないようにしながら、仏壇に向かって続けた。


「ここに、妊娠五か月がいるから……」


 由恵がお腹に手をやるのを見て、和子は声にならない叫びを上げた。


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