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未来はナプキンに書いてある 〜一攫千金を目指す姉妹の昭和・平成奮闘記〜  作者: Tokinapo


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番外編・第五話 ばあばの秘密

「昨日の龍ちゃん、いい顔をしてたね」

「エマさんがいい子で、本当によかった」


 和子と由恵は、祖母の部屋の箪笥の引き出しの中身を出しながら話していた。昨日の掃除で勢いがついて、引き続き祖母の部屋の整理をしているのだ。祖母が亡くなってから実に二十年弱経つが、祖母の部屋はそのままだった。一回目の人生よりは小さくなったとは言っても十分に広い家に、祖母亡き後に住んでいるのは両親と龍太郎のたった三人である。祖母の亡くなった直後に龍太郎の病気が発覚してそれどころではなくなってしまったこともあり、祖母の部屋は生前のまま放置されていた。


 今や両親は七十代、父に至っては七十代後半である。幸い二人とも元気だが、二階の寝室に上がるのがきつくなる日もいつかはやってくると思うと、祖母の和室を使えるようにしておいた方が良い。エマの来訪により掃除のスイッチが入ったのは良いきっかけだった。


 埃だらけの部屋で、由恵が持ってきてくれたマスクを着けながら、和子が呟いた。


「それにしても、弟の愛の言葉を通訳する日がくるとは思わなんだ……。幸せな通訳だったとは思うが、疲労感は強い……」

「それな、姉ちゃん、本当にお疲れ! それにしても龍ちゃんとエマの抱擁が目の前で繰り広げられるのは……、なんとも照れ臭かった……」


 由恵の言葉に、和子は昨日の龍太郎の様子を思い浮かべて赤面しながら言った。


「龍ちゃんが持って生まれた明るさと、我々の愛が育んだ揺るぎ無い自己肯定感が化学変化を起こして、九州男児としては珍しい欧米風味に仕上がったなあ」

「欧米! それだわ! そして将来の奥様は本場の欧米の方という……。これ以上ない相手を見つけたのかもなあ……!」


 二人はマスク越しに大笑いしたのだった。


 エマの家族とのオンライン通話の後、龍太郎はエマと一緒に仏壇に手を合わせた。その後、エマを家に送って行くと言って出て行った。そのままエマの家に泊まると言う。両親も和子も由恵も、三十一歳の成人男性が金曜の夜に婚約者の家に泊まることに何ら異存はなかった。午後になっても龍太郎は帰ってきていないし、両親は朝からバドミントンサークルに出掛けており、和子と由恵は木本家に二人きりだった。


 祖母の部屋の奥には納戸があり、こちらにも箪笥だの長持だの、箱状の収納家具がたくさんある。これを全て開けて中身を確認して、要、不要を仕分けていくのはかなりの手間である。裁縫や編み物が好きだった祖母はたくさんの布や端切れ、毛糸等を保管していたが、これらは洋服と共に、ごみ袋へ入れていった。アルバムや手紙、筆まめだった祖母の日記帳や手帳は箱にまとめて取っておいた。


 納戸にある二竿目の箪笥の一番下の引き出しを開けると、そこは祖母の作った巾着やスカーフ等の布物が詰まっていた。軽い物が中心なので、少し腰を傷めているという由恵に任せ、和子は祖母の部屋で重量のある紙類と格闘していた。


「姉ちゃん……!」


 唐突に由恵が和子を呼んだ。


「えー、何?」

「来て!」

「何? 言えばいいじゃん」

「いいから!」


 和子は渋々腰を上げて由恵のもとに向かった。布と服とごみ袋で覆われた納戸の床にべったりと座った由恵は、和子に紫色のゴブラン織りのような厚ぼったい布で作られた巾着袋を両手で差し出した。巾着は和子の手の平に納まりそうな大きさで、袋の中には厚みのある物は入っていないらしく、あまり膨れてもいない。和子が片手で受け取ろうとすると、由恵が鋭い声で言った。


「だめ、姉ちゃん、しっかり両手で受け取って」


 和子が渋々両手を差し出すと、由恵が慎重に巾着をそこに乗せた。


「え!」


 思わず和子は大きな声を出した。巾着袋はこの大きさからは想像も付かない程に重かった。


「姉ちゃん、開けてみてよ」


 由恵に促されて和子は巾着袋を開けた。そこには桐の箱が入っており、この重さの犯人はその箱の中身のようだった。箱の蓋を持ち上げると、そこにあったのはビニールに包まれた黄金色の物体であった。片手の平にすっぽりと納まるような、スマートフォンよりひと回り小さくて薄い黄金の四角く平たい板には「999.9 1,000G」と刻印されている。


「これ、まさか……」


 和子の手は小刻みに震え出した。


「そう、そのまさか……」


 そう言うと、由恵は和子の目の前に紙を広げた。それは金を買った際の計算書で、平成15年4月の日付と税込百四十万円弱の購入金額、そして購入者である祖母の名前が記されていた。


「ばあば……、金を買っていたのか……」


 和子が呟くと、由恵は和子がまだ両手で捧げ持っていたインゴットを取り上げて、別の折り畳まれた紙を乗せた。


「見てみて」


 和子が震える手で丁寧にその紙を開くと、そこには几帳面な懐かしいばあばの字が並んでいた。


 ***


 お父さん、お母さん、

 和子ちゃん、由恵ちゃん、龍太郎くん、


 由恵ちゃんの学費のうちかなりの部分は、和子ちゃんが株で増やしたお金で賄ったと聞きました。和子ちゃんは子供の頃から賢かったけど、とても立派になって、ばあばはとても誇らしいです。「お母さんは由恵ちゃんのために学資保険を掛けてくれていたのだから、それ以上出してくれなくて大丈夫」とお父さんとお母さんが言ってくれました。それなら、ばあばも和子ちゃんを見習って、その分を投資してみようと思い立ちました。


 ばあばには株は分からないので、金の延べ棒を買うことにしました。


 この手紙を誰かが読んでいるということは、ばあばが生きている間にはこの金が必要な時は来なかったのかもしれませんね。これから、進学、結婚、老後など、木本家でお金が必要になった時に、これが役に立ちますよう。


 子供たちは、みんな立派な大人になって、お父さんとお母さんに親孝行してくださいね。


 平成十五年四月

 ばあばより


 ***


「まじか……、ばあば金を買ってたなんて……」


 手紙から顔を上げた和子が思わずそう漏らすと、由恵は和子にスマートフォンの画面を向けた。


「姉ちゃん、今金の価格は一グラム 二万円台半ばだ。つまり、一キロのインゴットは……」


 二人は生唾を飲み込んだ後、同時に言った。


「二千数百万……」

 

 手紙を捧げ持つ和子の手の震えは益々激しくなった。 


いつも読んでくださって、ありがとうございます。


全五話の予定で始めた番外編ですが、すでに第五話。

……なのに、(またもや)まだ終わってません……!


ただ、先は見えていて、第六話か第七話で完結予定です。

予定より少し長くなってしまいますが、あともう少しだけお付き合いいただけましたら嬉しいです。


本編完結後も、評価、感想、ブックマーク、リアクションをくださった皆さま、本当にありがとうございます。


本編完結後も読んでいただけていること、とても幸せな気持ちです。


もし作品や、和子と由恵の姉妹を気に入っていただけましたら、引き続き評価やブックマークなどで応援していただけると、とても励みになります。


レビューや感想、リアクションなども、いただけたら泣いて喜びます!

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