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未来はナプキンに書いてある 〜一攫千金を目指す姉妹の昭和・平成奮闘記〜  作者: Tokinapo


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番外編・第四話 Kazuko-sanのお仕事

「エマさん、日本語がとてもお上手ですね」


 和子が言うと、エマは照れ臭そうに微笑んだ。


「私は日本語上手じゃないです。勉強、頑張ってるけど、日本語難しいです。リュウに和子さん、とても英語上手と聞きました。今日はよろしくお願いします」

「……?」


 怪訝な顔をしている和子を無視して、龍太郎は自室からノートパソコンを持ってくると、座卓の上に据えた。


「サプライズだから事前に言えなかったんだけど、今日エマの家族と通話アプリで繋いで、お互い家族紹介をするつもりなんだ。今七時半だから……」


 エマが龍太郎の顔を見て言った。


「アイルランドは朝の十一時半ね」

「エマのご両親には電話する旨を伝えてあるから、待機してくれてる。エマは今回の主役な訳で、通訳までするのは厳しいだろ? ということで、和ちゃん、よろしく!」


 龍太郎は和子の肩をぽんと叩いた。


「『かずちゃんには絶対来てほしい』って言ってたのは、このためか……」

「そういうこと!」

「くっ、愛じゃなかったのか……、騙された……。そもそも、英語ができるイコール通訳ができるって訳じゃないんだからね! プロの通訳者のレベルを求められても困る。だが、大事な弟とその彼女のためだから、持てる能力を全て出して頑張るけどさ。でもお手柔らかに頼むよ……」


 ハの字眉の和子を見て、龍太郎とエマは顔を見合わせて笑い、エマは和子に向かって微笑みながら言った。


「I believe in you, Kazuko-san!(頼りにしてます、和子さん!)」


 エマの瞳は美しい金緑色で、ミーコの瞳とよく似た色であることに、和子は初めて気づいた。ミーコと同じ色の瞳を持つこの子を、私はきっと好きになる――そんな予感がした。


 龍太郎とエマは座卓のパソコンの前の床に座り、後ろのソファに両親と和子と由恵が座る。カメラの画角に入るように密着気味なので、ソファの四人はかなり窮屈である。


 龍太郎が通話アプリを立ち上げて通話を開始すると、すぐに先方に繋がった。エマによく似たふっくらした優しい笑顔の女性と、座っていても彼女より頭半分ほど大きい細身のスキンヘッドの男性が手を振っている。エマも二人に手を振り返し、龍太郎は軽く会釈した。


「Hi Mam! Hi Dad!」

「Hi Honey! Hi Ryu!」


 エマ家族の挨拶に続いて、龍太郎が「Hi John! Hi Marie! It's very nice to see you again.」と言った。


 龍太郎が英語を話している!


 和子はなんだか感動した。両親と由恵も同じと思えて、龍太郎の後頭部を凝視する眼差しには驚きとちょっとした尊敬が滲んでいるようだった。


 エマが続けた。


「Mam, Dad, meet Ryu's family. This is his mam and dad, and these are his sisters, Kazuko and Yue. Kazuko speaks great English, so she's going to help translate for us.」

 

「エマがあちらのご両親にうちの家族のことを紹介してて、私が通訳をするって言ってる……」


 和子は両親に向かって囁くと、軽く咳払いして話し始めた。


「Hi, Mr. and Mrs. O'Malley. It's so nice to meet you. I'm Kazuko」


 しばらくはお互いの自己紹介や、先方からの地震に関するお見舞いといった日常会話が続いた。仕事で英語を使うことがあるとは言え、毎日話している訳ではないし、緊張気味の家族を前にして、和子も大分上がっていた。英語だけで話すのであればともかく、英語と日本語を行ったり来たりするのは、随分と骨が折れた。


 当たり障りのない会話の後、エマは姿勢を正すと、改まった様子で切り出した。


「Everyone, there's something Ryu and I would like to tell you.」


「何かみんなに言いたいことがあるって……」


 和子はそう言って、エマの視線の先の龍太郎を見た。和子に釣られて両親と由恵も龍太郎を見つめる。


「ええと、Emma and I are getting married.」


 龍太郎が緊張した面持ちでそう言うと、エマの両親は「Wow!」と笑顔になり、木本家も一瞬間を置いて、「おめでとう!」と二人を祝福した。皆が口々に祝いの言葉を言い終わった頃、エマが口を開いた。


「And......, I'm pregnant.」


「My Gosh!(まあ!)」


 訳すより先に和子の口から洩れたその言葉は、エマの両親と完全にシンクロしていた。「pregnant」という単語を知っている由恵は口を開けて龍太郎を見た。首を傾げる両親に和子は素早く言った。


「エマさん、妊娠してるって!」


 それを聞いた両親は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。


「正直、そういうこともあるんじゃなかかなと思ってたのよ」


 そう母が言うと、


「なにしろ、結婚するから彼女を連れて来るって言いだしたとが、突然だったけんなあ……」


 と、父も頷いている。三十一年間も龍太郎と暮らしてきた両親はすっかりお見通しだったのである。二人の顔を見て、龍太郎は照れ臭そうに頭を掻いた。


「その、でも一つだけ言いたくて、かずちゃん、訳してくれるかな?」


 皆の興奮が収まった頃、龍太郎がパソコンに向かって言った。


「エマが妊娠して二人の子供ができたこと、すごく嬉しくて幸せなんですけど、それで結婚を決めた訳ではないんです。7月に地震が来た時、お互い職場にいたので、すぐに会えなくて、不安で。今回は幸い怪我はありませんでしたが、今後どちらかが怪我をしたり、病気をした時に、お互いのところに連絡が来ないと思ったら、それは嫌だなって思って……」


 龍太郎は和子が訳し終わったのを確認して、続けた。


「エマが困った時も、そうでないときも近くで支えられるように、家族になりたくて、エマと結婚したいなと強く思ったんです。エマはほとんど日本語が喋れない状態でうちの市に来て、ALT仲間だけじゃなくて地元の人とたくさん交流して、毎日一生懸命日本語を勉強する努力家です。太陽のように明るくて、愛情深くて、それに強い。僕の人生で、こんな風に好きになれる女性は他に現れないと思ったし、その女性が僕のことを好きでいてくれるのは本当に奇跡みたいなことだと思ってます」


 エマは薄っすらと涙を浮かべながら、パソコンに向かって話す龍太郎を見つめた。龍太郎はエマの方に向き直って続けた。


「だから地震からしばらくしてプロポーズして、エマは受け入れてくれました。それからしばらくして妊娠が分かったんです。僕はエマが妊娠したから結婚するわけじゃない。エマのことが好きで、これからの人生をずっと一緒に過ごしたいから結婚するんです。そして大好きな人が僕との子供を妊娠してくれていることを、とても幸せに思ってます」


 エマは龍太郎にぎゅっとしがみつき、龍太郎の肩に頭を預けた。龍太郎は片方の手をエマの背中に回し、もう一方の手でエマの柔らかそうな髪を優しく撫でている。


 和子が訳し終えると、エマの両親も涙を拭った。木本家の両親と由恵はどこか所在なさげに、天井を見たり、お茶を飲んだりと、抱き合ったままの龍太郎とエマを直視しないようにしているようだった。保守的な熊本の片田舎で生まれ育った木本家の面々にとって、身内とその彼女の熱い抱擁をこの至近距離で見るのは、人生初の機会なので、無理もない。ただ、龍太郎が愛する人と出会い、結婚を決めて、彼女が龍太郎の子供を身籠っている――その事実を幸せだと思っていることは、口にしなくとも、お互いに伝わってくるのだった。


 そうして両家の祝福の中、オンライン通話は終わった。もちろん和子は強く感動していたが、普段の仕事では使用しないボキャブラリーを用いた重めの通訳——しかも自身の弟の熱い愛の告白を含む——を終えて、泥のように疲れていたのだった。


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― 新着の感想 ―
番外編、ありがとうございます! 本編同様、泣いちゃいます。 読んでいて思ったのは英語の部分。わたしは英語は得意ではないんですけど、アルファベットは全角より、半角にしたほうが読みやすいんじゃないかなあ…
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