表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来はナプキンに書いてある 〜一攫千金を目指す姉妹の昭和・平成奮闘記〜  作者: Tokinapo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/54

第五十二話 あのおばあさん

「姉ちゃん、推し活冥利(みょうり)、もとい、姉冥利に尽きたね……」


 泣き腫らした顔の由恵は、ドレスから普段着に着替えた、もっと泣き腫らした顔の和子に、ぽつりと言った。


「違いない……」


 そう言いながら、和子の瞳はまた潤んできた。


「クマさんが先に帰って、姉ちゃんの家でミーコを見てくれてるからね。私は()()まで、ここにいるから。姉ちゃん、ここから先は私が全面的に請け負うよ!」


 由恵が、和子の宿泊する部屋で着物から着替えた後、二人はラウンジに向かった。ライトアップされた庭園に面した大きな窓があるラウンジには、両家の祖父母を除いた招待客と明彦が集まり、談笑していた。皆一様に瞼が腫れぼったいが、明彦に至ってはまるで土偶である。

 今晩はホテルに宿泊することになっている柿が、如才なく皆に話題を振っている。「柿がいてくれてよかった」と、和子は心の底から思った。


「和子さん、少しだけ、よかかしら?」


 明彦の母が、遠慮がちに和子に声を掛けたので、由恵は会釈をして、木本家側の親族が集まっているテーブルへ移動した。和子は身構えた。明彦の母と二人で話をするのは、今回の人生では初めてだし、一回目にもそんなに話したことはなかったのだ。


「和子さん、明彦はうちの主人に似て無口で、何を考えているか分からない子だったの。数学が得意なのに、小説家になるけん、文学部に入るなんて言い出すし……」


 義母が何を言いたいのか分からず、和子は曖昧に相槌を打った。


「でもね……」


 義母はそう言うと、和子の肩に遠慮がちにそっと触れた。


「今日の結婚式では、あの子、本当に素直に感情を出してて……。表情も随分柔らかくなったわ。それに、あの子があんなに泣いてるのを見るなんて、子供の頃以来よ。なんだか、人間らしくなっちゃって……。きっと和子さんのおかげね。明彦と結婚してくれて、本当にありがとう。これからもあの子を末長くお願いね」


「そんな……こちらこそ……」なんて答えながら、和子は思った。


 お義母さん、同感です。私も一回目は何を考えてるか分からない男だと思ってました。でも、人生二回分付き合って、ようやく分かったのです。我々が思っているより、明彦はずっと単純な回路でできている人間のようです。何も言わないでじっと座っているのを見ると、何を考えているんだろうと不安になったりしていたのですが、もう一度一緒に過ごしてみてようやくわかったんです。何も言わない時は、本当に何も考えていないみたいなんです。単純化し過ぎかもしれませんが、男性脳と女性脳の違いかもしれないし、文系脳と理系脳の違いなのかもしれません。


 それに、私の見方が変わっただけじゃないんです。二回目の明彦は一回目より素直で、時々泣き虫で、なんだか愛らしいんです。燃え上がるような、情熱的な愛ではないかもしれません。でも、私は明彦のことが、一回目より少し、いや、かなり愛おしいと感じているんです。


 だから、ご安心ください。明彦さんは、人生二回目の私が、一生お守りしますから!


 一回目には義母とほぼ交流のなかった和子だが、今回はもう少し、仲良くなれそうな予感がしていた。


 和子が目を潤ませた義母と今日の写真を一緒に見ながら話していると、由恵が戻ってきて、さりげなく、和子にスマートフォンの画面を見せた。いつの間にか九時を過ぎていた。二人の記憶では地震は九時半くらいに起こるはずだった。


 午後九時半の少し前、皆のスマートフォンが同時に鳴った。和子と由恵は自分のスマートフォンの通知に目を走らせた。


『熊本で最大震度7の地震』


「姉ちゃん!」


 由恵が叫ぶと、その声にみんな一斉に由恵を見た。


「落ち着いて、聞いてください……。熊本で最大震度7の地震が起きたそうです」


 和子がスマートフォンの画面を見せると、皆が息をのんだ。皆がそれぞれ、ニュースやツイッターを見ている間にも、通知がひっきりなしに届いた。


「うちの辺りは震度7だ……」


 青い顔をした伯母の肩を抱き寄せるようにした伯父が、由恵の顔を凝視しながら、そう呟いた。伯母も由恵を見つめている。由恵は二人に小さく頷いてから、皆に向かって言った。


「すぐに帰っても状況は変わらないですし、この時間ではすぐに被害の状況は分からないと思います。明彦さんと姉ちゃんが今晩を含めて、あと二泊、取ってくれていますよね。皆さん、今晩はゆっくり休みましょう。明日情報を集めて、予定通り土曜日の夕方の便で帰るのが一番いいように思います」

「由恵さんの言う通りです。皆さん、ゆっくりお休みいただいて、また明日、今後のことを相談しましょう」


 由恵の言葉に、柿がそう応じると、皆、少しだけ落ち着いたようだった。ラウンジでの二次会はなんとなくお開きとなり、宿泊組は部屋へと引き上げて行った。和子は、電車で帰る由恵と少し話したいから駅まで送ってくる、と明彦に告げて、由恵と二人でホテルを出た。


「姉ちゃん、来ちゃったね……」

「うん……。来ないでほしいと、願ってたけど、来ちゃった……」

「私も、姉ちゃんが結婚式の準備に奔走してる間に、何もしてなかったわけじゃないから。安心はできないと思うけど、今日はしっかり寝て。ミーコのことは任せといて」


 力強くそう言うと、由恵は軽く手を上げ、地下鉄の駅の改札の奥へと消えていった。


 翌日の昼、由恵とクマさんがホテルを再び訪れて、気分転換に昼ご飯をホテルの外に食べにいくことになった。明彦の親族はホテルのラウンジで食事を取るというので、明彦と柿はそちらに残ることになった。


 木本家・渡辺家一行は、全部で十八人である。ガラス張りで店内が明るいカフェには、さすがに全員一緒に座れる席はなかったので、六人掛けのテーブル二つと、四人掛けのテーブル二つに分かれて、座ることになった。


「僕たちは、かずちゃんと由恵ちゃんと座らせてもらってよかかな?」


 四人がけのテーブルの前で、伯父と伯母がそう言うと、由恵の隣にいたクマさんは「僕は龍ちゃん達と座りますから」と席を譲り、別のテーブルに移動して行った。


「由恵ちゃん、地震、来たね……。本当に昨日の地震が前震なんかね?」

「恐らく……。拝み屋のおばあさんが言っていた、渡辺家のご先祖様のお告げが真実であれば……」


 伯母と由恵の深刻そうな会話を聞いて、和子は飛び上がりそうに驚いた。由恵は私が知らない間に、また()()『拝み屋のおばあさん』を登場させていたのか。実にプロジェクト・G以来、十七年ぶり二回目の登板である。


「由恵ちゃんが言いよった通り、貴重品は全て緑の家に移動させといたよ」


 伯父も言い、伯母は声を潜めて付け加えた。


「ああ、そうそう、地震保険には入っとるけんね。用地買収のお金の話をした時に、由恵ちゃん、言ってたでしょう? ご先祖様が『いつか熊本には大きな地震がくるけん、地震保険には入っとくように』とも言いよんなはったって。あれから、緑と由佳理にも必ず入るようにって言い聞かせてきたけん」


 由恵は十七年前からこの日のために手を打っていたのか……。和子は唖然として由恵の横顔を見つめた。


「近所の人に連絡したら、うちは瓦が落ちとるくらいで、今のところは、大きな損壊は見られんらしい。うちの隣組の人たちには、何か月か前から、『あくまでも噂だが、四月に大きな地震がくる。そして、最初の地震は前震で、もっと大きな本震が数日以内に来るから、一回目の地震がきた後は避難した方がいい』と、伝えてあるし、周りの人にも伝えるようにとお願いしておいたけん。みんな、実際に地震が来て、驚いとるけど、避難所になっとる小学校の体育館や、少し遠方の親戚の家に避難したそうだ。由恵ちゃんがうちに送ってくれた、大量のレトルト食品や水、携帯トイレ、ペットフードなんかも、みんなに分けておいたけんね」


「ありがとうございます!」


 由恵は伯父に向かって、深々と頭を下げた。


「あのほら吹きが、と僕たちが言われるとしても、何も起こらんのならそれがいい、と思いよったとけどなあ……。僕はいまだにこういう非現実的なことは信じられんけども、いつかそのおばあさんには、お会いしてみたいもんだね」


 しみじみとそう言う伯父に、由恵は引き攣った笑顔を返した。


「そのうち……聞いときます……」


 ホテルで鬱々として過ごしても仕方ないだろうということで、この後は何組かに分かれて観光や買い物に行くことになった。クマさんが、祖父母をホテルまで送ってくれると言うので、その言葉に甘えて、木本家一同はスカイツリーに行くことにした。和子と由恵に両側から腕を組まれた龍太郎は、一瞬嫌そうな顔をしたが、抵抗はしなかった。すっかり諦めた様子の龍太郎の顔を見て、父と母は笑い、母が年季の入ったデジカメで三人の写真を何枚も撮った。


 そして、4月16日土曜日の未明、熊本は再び最大震度7の地震に襲われた。熊本空港の建屋も大きなダメージを受け、土曜日の熊本発着便は全て欠航となった。木本家・渡辺家・横山家の一行は、由恵が()()取ったという、ビジネスホテルに移ることになった。


 和子だけは、由恵がポイントが最大に付くタイミングで、ホテルを『早割』予約していたことを知っていたのだった。

いつも読んでくださって、ありがとうございます。


本日7月24日に、第五十二話を投稿しました。


明日7月25日、AM 7:50頃に最終話を投稿予定です。

最後まで読んでいただけると、とても嬉しいです。


とうとうここまできたか……と感無量な気持ちです。

当初は25話くらいで終わる予定だったのですが、気が付けば倍以上になっていました……。

ここまでの長さは完全に想定外でしたが、苦しい時もありつつ、全体的には楽しんで書き進めることができました。


ここまで毎日更新を続けてこられたのも、読んでくださる皆さまのおかげです。

和子と由恵の物語を最後まで見届けていただけたら、作者としてこれ以上嬉しいことはありません。


最近、★、ブックマーク、リアクション、感想をくださった皆さま、本当にありがとうございます!


もし作品や、和子と由恵の姉妹を気に入っていただけましたら、引き続き、★やブックマークなどで応援していただけると、とても励みになります。


レビューや感想、リアクションなども、いただけたら泣いて喜びます。


これからもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ