表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来はナプキンに書いてある 〜一攫千金を目指す姉妹の昭和・平成奮闘記〜  作者: Tokinapo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/54

第四十九話 私のハッピーラッキーボーイ

 2016(平成28)年4月13日水曜日、熊本から親戚が続々と到着した。和子側の熊本からの招待客は、木本家から両親と龍太郎の三人、渡辺家から祖父母と伯母夫婦の四人、緑ちゃんと由佳理ちゃんの一家が、夫妻とそれぞれ中学生から小学生のの子供を二人ずつ連れてきて、四人ずつ。合計十五人だ。明彦側は、明彦の実家である横山家の両親、明彦の母方の祖母、そして祖母と同居している母の弟一家の合計七人である。そして、今日の夜は由恵とクマさんがホテルCに泊まることになっていた。


「結婚式の前日はゆっくり過ごしたいだろうし、みんなのお世話は任せて。キナコはクマさんの友達が泊まりに来て、面倒見てくれる手はずになってるから。結婚式当日の夜は姉ちゃんと明彦さんがホテルに泊まりなよ。私かクマさんが姉ちゃんの家に泊まって、ミーコの面倒を見るからさ」


 和子は由恵の言葉にありがたく甘えることにしたのだ。


 結婚式には高校や大学の時の友人は招待しなかった。和子の親友である万由里には幼稚園に行っている男の子がいる。実家に預けて来てくれるかもしれないが、地震がきてしまえば、子供と離れ離れの間、生きた心地がしないだろう。万由里を含む、お祝いをくれた熊本の友人には、箱入りのペットボトルの水、防災グッズセット、レンジで温めたり、お湯を注いだりするだけで食べられる大量のレトルト食品という、ものすごく場所を取る内祝いを送りつけた。戸惑った様子のお礼の電話やラインに対して、和子は「東日本大震災を当てたっていう有名なツイッターのアカウントが、今度は熊本で4月中旬に地震がくるって警告してるって、話題になってるんだ。だから、心配になっちゃってさ。何もないとは思うけど、念のためね」と言った。このアカウントの主は、無論、和子と由恵である。


 友人として出席するのは、和子と明彦のチャット仲間である柿のみだ。二人の出会いから今に至るまでをよく知る柿は、結婚を報告すると、どうしても結婚式に出席したいと言ってくれた。家族と親族だけの式でも構わないと言うのだから、陽キャのコミュ力というのは恐ろしいものだと和子は思った。しかも、柿は明彦側の招待客の案内をして、夕食まで一緒に取ってくれることになっていた。なんとも力強く、ありがたい友人なのであった。


 和子は家でソファに寝転がって、由恵から次々に届く招待客についてのラインの報告を見ていた。腹の横には丸まったミーコが寝ていて、ほんのりと温かい。台所では、明彦がいそいそと料理を作っており、和子は出来上がりを待っているのだ。


 和子と明彦は先月、新しいマンションに引っ越したばかりだった。結婚するのだから新居を考えようと、花婿ドリームの炸裂が止まらない明彦が言い出し、いくつか見学に行く中でこのマンションを見つけたのだ。住んでいた賃貸マンションに近いので、つまり由恵の動物病院にも近い。都心近くにしては大き目の公園が目の前にあり、大きな窓から、春は桜、夏は新緑、秋は黄色く色付いた銀杏が楽しめて、冬に木々が葉を落とすとスカイツリーが見える。窓際にキャットタワーを置けば、ミーコも四季折々の景色が楽しめるのだ。

 二人にとって、多少背伸びをしなければならない値段ではあったが、和子はこれから東京のマンションが高騰していくことを知っている。住宅ローン金利もまだ低いし、これは買いだと思った。かくして、和子のこの一年間は、結婚、結婚式、ミーコのお迎えに加えて、新居の購入、そしてそのために2015年中の入籍という、イベント尽くしのものになったのだった。


「和子、できたよー」


 テーブルの上には既にサラダ、スープ、ステーキが並べられていた。エプロンを外した明彦はいそいそとグラスとミニボトルのシャンパンとノンアルコールシャンパンを持ってきて、和子の対面に座り、和子の前に置いたグラスに、ノンアルコールシャンパンを注いだ。和子が明彦のグラスにシャンパンを注ぎ、二人はお互いのグラスを軽く当てた。


「乾杯!」


 一口シャンパンを飲んだ明彦は、しばらく目を瞑ってから、ゆっくりと目を開けた。


「なんだか不思議な気持ちだよ」

「なにが?」

「明日、和子と結婚式をしようとしてること」

「そうだね……」


 和子も全く同感だった。進路を変えてまで出会わないようにしようと思った明彦に、違う形で出会ってしまったこと。長い間付き合って、一緒に暮らし始めたこと。そして今回は一回目のように入籍だけでなく、家族や親族を呼んだ華やかな結婚式をしようとしていること。たとえ、その主目的が、親族――中でも特にじいちゃん――を避難させることだとしても。


 二人が食事を始めて、和子がちょうどステーキにナイフを入れた時、明彦が言った。


「俺、この前実家に帰った時、高校の時の友達何人かと居酒屋で飲んだんだ。その時、佐藤君って子も来ててさ。別にさして仲良くなかったけど、三年の時、たまたま一緒の夏期講習に行ったんだ。その佐藤君が言ったんだよね、『横山君と一緒に行った夏期講習で再会した幼馴染に、つい最近、街で会ったんだよ。そっくりな子供連れてた』って。」

「うん?」


 明彦が何を言いたいのかイマイチ分からず、和子は曖昧な相槌を打って、ステーキを口に入れた。


「夏期講習で、クラスメイトの幼馴染と一緒にいた友達に言われた言葉が、俺が東京に来るきっかけの一つだったって言ったの、覚えてる? 佐藤君の幼馴染、M高だったって言うんだ。だから、一緒にいた子もM高だったはず。その子、T外語大の赤本を持ってたんだ。」

「うん……」

「和子、M高だったじゃない? M高からT外語大を目指す人ってそうはいないだろ? だから、あれは和子だったんじゃないかなって、俺、思うんだ。」


 そう言うと、明彦はナイフとフォークを皿に置き、和子の右手を両手で包み込むように握った。


「ほんの一瞬しゃべっただけだから、きっと和子は覚えてないと思うけど、チャットだけじゃなくて、夏期講習の時も、和子は俺の背中を押してくれたんだ。きっと俺たちが出会ったのは運命だと思う。俺、和子と結婚できて、心底『ハッピーラッキーボーイ』だと思うよ……」


 心なしか目が潤んで見える明彦を見ながら、和子は思った。一回目の時も明彦はこんなに素直で、ロマンティストで、ちょっとおバカで、そして私のことをこんなにも大好きだっただろうかと。明彦が変わったのか、それとも明彦は変わっていなくて、明彦を見る自分の感じ方が違うだけなのか、はたまた両方なのか、それは分からない。でも、一つだけ確実なのは、私自身も明彦のことを前回よりも愛おしいと思っていること……


 明彦がそのまま動かないので、和子は手を握られたまま、冷めていく料理と炭酸が抜けていくシャンパンを、横目で見ていた。

いつも読んでくださって、ありがとうございます。


現在、第五十一話まで書き進んでいるのですが、まだ終わっていません。

毎度、終わる終わる詐欺で申し訳ありません……。

もう少しだけ伸びそうです。


とはいえ、本当にあと数話で終わる……はずです。


もはや、書き終わるまで何も言わない方がいいのではないかとすら思いますが(笑)、もうしばらく、和子と由恵たちにお付き合いいただけると、とても嬉しいです。


最近、★、ブックマーク、リアクション、それにレビューや感想をくださった皆さま、本当にありがとうございます!


もし作品や、和子と由恵の姉妹を気に入っていただけましたら、★やブックマークなどで応援していただけると、とても励みになります。


レビューや感想なども、いただけたら泣いて喜びます。


これからもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ