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未来はナプキンに書いてある 〜一攫千金を目指す姉妹の昭和・平成奮闘記〜  作者: Tokinapo


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第四十二話 これも推し活

 三月中旬、龍太郎への抗体薬の治療が始まった。院内審査や抗体薬の確保に要する時間を考えると、驚く程に早いスピードだった。電話越しの父は言った。


「後で聞いたとけど、龍太郎の主治医の先生には龍太郎より少し年上の息子がおんなはるらしか。だから、龍太郎のことをすごく気に掛けてくれて、僕たちが抗体薬の使用を決断する前から、書類の下準備ば進めてといてくれなはった。しかも、臨時の院内審査に掛けてくれたおかげで、かなりスムーズに院内での承認が取れた。そして、抗体薬には国内保管分があったけん、それを回してもらえるように、掛け合ってくれなはった」


 一か月間に四回行う抗体薬の投与のうち、初回は三泊の入院で行われ、翌週の投与は一泊、三回目と四回目は通院で行われた。両親によると、三回目の投与を終えた頃には明らかに効果が出てきたらしい。血液検査の結果、CK値が下がっているだけでなく、龍太郎の朝の頭痛が軽くなり、以前と比べると太ももに力が入るようになってくるという実感があった。四回目の投与は、龍太郎の中学校への入学式の直前に終わった。


 ステロイドと免疫抑制薬を使った標準治療も続けているので、一段階目の治療の評価が済むまでは、感染対策も兼ねて、登校はしないということだったが、龍太郎の経過は非常に良かったらしい。それで、短時間だけという条件で、入学式に出席できることになった。大きな白いマスクをして、袖が長めの学生服を着た龍太郎の写メを、和子と由恵は母からのメールで受け取った。小さな携帯の液晶で、見えている目だけでも分かる程に照れ臭そうな龍太郎の姿を見て、和子と由恵は目を潤ませたのだった。


 入学式の数日後、龍太郎は第一段階の治療の効果の確認のため入院した。


「先生が『顕著に効果が出ています』って! 龍太郎が何だか元気になってきた気がする、て言いよらしたけん、きっと効果はあるんだろうと思いよったとけど、先生が想像していた以上に数値が良くなってるって!薬がかなり効いているって! 今回の退院後は、短時間からのスタートだけど、登校も始めてよかて!」


 母から弾んだ声で電話があり、スピーカーにして聞いていた和子と由恵は思わずガッツポーズをしたのだった。


 第一段階の治療が功を奏していることは、木本家にとってこの上ない喜びだった。だが、それは第二段階の費用を工面する必要があるということでもあった。


「先生はうちの経済状況を心配してくれとんなはるんだろう。『第二段階の治療を行わなくても、必ずしも症状が戻るわけではない』て、言いなはったが、第二段階を行った方が、長期的な経過はずっといいらしい。再発の可能性もだいぶ小さくなる。だけん、僕は第二段階もお願いしようと思いよる」


 電話越しの父は嬉しそうだが、どこか緊張感の滲む声で言った。


「お金はどうやって工面するつもり?」


 和子が尋ねると、父は言った。


「第一段階で千二百万円程かかって、正直、すぐに動かせるお金はない。おふくろの遺産が数百万円あったが、使い切ってしまった。だから医療ローンか、家を担保にお金を借りられんかを当たってとるところだ。今回は千五百万程かかる見込みらしか。一回で全額払うわけではないみたいだけん、なんとかなるだろう……」


 和子が由恵を見ると、由恵は微笑みながら頷いた。和子は由恵にしっかりと頷き返した後、続けた。


「お父さん、ごめん、多分とんでもない娘だと思うかもしれないけど……私、また株で儲けたんだ。そして、実は、由恵も奨学金を投資して私以上に儲けてる。税金を引いて、二人合わせて大体千三百万円くらいが手元にある。これを全部、龍ちゃんの治療費に使ってほしい」


「お前達……」


 父は絶句した。


「うちには株をやってる人間なんておらんとに、なんでまた……いや、そんなことはいい……お前達にそこまではさせられんよ……」


 テーブルに置かれた携帯に顔を近づけた由恵は、あっけらかんとした様子で言った。


「お父さん、龍ちゃんが大変な時にそんなこと言ってる場合じゃないって。私は来年獣医になったら、みんなもびっくりの高給取りだよ。このくらいすぐに稼いじゃうよ。だからさ、気にしないで使ってよ」


 父との押し問答の末、父は「借りる」、和子と由恵は「あげる」という意見の相違はあるものの、和子と由恵の千三百万円を龍太郎の治療費に充てることになった。残りは借金しないでも、両親がなんとか工面できそうだという。


「嘘つき」


 父との電話を切った後、和子は言った。


「獣医の初任給なんてたかが知れてるでしょ。だから、せめて元本部分だけは取っとけって言ったのに。卒業してしばらくしたら、奨学金の返済が始まるんだよ?」

「仕方ないじゃん。それにしても、まさか更に千五百万かかるとはね……」

「あんた、苦労するよ……」


 由恵は笑った。力ない笑顔ではあったが。


「でも望むとこだよ。私たち、龍ちゃん小さい頃、『究極の推し』、『課金してえ!』なんて言ってたじゃん? とうとう推しに思いっきり課金できる日が来たんだと思うことにするさ……」

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