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未来はナプキンに書いてある 〜一攫千金を目指す姉妹の昭和・平成奮闘記〜  作者: Tokinapo


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第三十六話 笑いが止まらん

 2007(平成19)年、和子は社会人五年目、由恵は大学五年生となっていた。二人は中野駅と東中野駅のどちらからも徒歩十五分程のアパートの二階に住んでいる。和子も由恵も乗り換えなしで職場と大学に行けるので、少し高いがこの場所を選んだのだ。四十平米程で六畳二間にダイニングキッチンの付いた部屋で、脱衣所に憧れの独立洗面台があるのが、二人のお気に入りだった。和子が大学時代から住んでいたアパートでの窮屈な二人暮らしを一年間我慢した二人は、由恵の大学一年の終わりの春休みに、晴れて引っ越したのだった。


 和子は五年目の社員として、少し責任ある仕事も任せられるようになり、楽しく働いていた。担当しているアメリカメーカーに納期問題を取り合ってもらえなかったり、嫌なこともないわけではないが、上司や先輩が支えてくれて、給湯室で愚痴を聞いてくれる仲の良い同僚がいる。相変わらず残業は嫌いだが、残業が多い時も残業代がもらえると思うと、少しは慰められた。

 最近は会社の同期に紹介してもらった男性と二人で遊びに行ったりしている。付き合い始めるのも時間の問題かもしれない。


 由恵は五年生になり、忙しい毎日を送っていた。本格的な臨床の実習が始まっていて、昼間は実習、夜はそのレポートをまとめる日々である。動物医療センターでの実習では検査や保定等の補助を行ったり、手術の第二助手に入ることもあった。研究室での卒論のための実験や調査もあり、休む暇はないのだった。

 今や白衣はくたびれ、入学の時に感じた白衣へのときめきはどこかに行ってしまった。でもそれと共に、あれ程由恵を悩ませたあがり症も消え去ってしまったのだった。学生とは言え、動物の生き死にという修羅場を近くで見てきて、それどころではなくなったのかもしれない。


 由恵は今や、毎日夕食を作るには忙しすぎた。和子と由恵の夕食は、作り置きのカレー、納豆、卵、お惣菜、和子が気が向いた時に大量に作る謎の煮物で回っているといっても過言ではなかった。

 

 和子は働き始めて以来、最初の二年間は月一万円と年二回のボーナス時に十万円ずつを、その後は月二万円とボーナス時に二十万円ずつを、こつこつと貯金してきた。そして五十万円貯まる度に、由恵のナプキンに書いてあった順番で株を買っていくことにしていた。つまり、「アップル」、「エヌビディア」、「マイクロソフト」、「アマゾン」、「マイクロン」の順に購入していくという、ローラー作戦である。まだ毎月の株の積立設定はできず、購入の際の手数料も高かったので、この方法を採用したのだ。


 由恵は2004年9月に二十歳になった。そして、和子と同様、二十歳を迎えると同時にネット証券に口座を開設した。由恵は無利子の奨学金を借りることができたが、和子に倣って家庭教師のバイトで日々の生活を賄い、月々の奨学金は使わずに貯金していた。10月に貯まっていた約百万円で「アップル」と「エヌビディア」を五十万円ずつを買い、その後も五十万円貯まる度にナプキンの順番で株を購入していった。


 そして、2007年8月時点で和子の約二百万円の元本は約五百万円に、由恵の約三百万円は約九百万円になっていた。二人は完全に浮かれモードだった。


「姉ちゃん、私、五百万円返そうか?」


 そう言う由恵に和子は手を振りながら言った。


「あー、いい、いい。五百万円なんて、うちらにとっては、近々はした金になるよ。これで龍ちゃんの学費も、お父さんとお母さんの老後費用も楽勝だね!」


 由恵が年表を指差す。


「次にくるのは2008年のリーマンショックでしょ。年表じゃ月までは分からないから、年末を目途にいったん売っちゃって、リーマンショックが来て底を打った頃に買い戻そうか」

「こりゃ、笑いが止まらんね!」


 そんな浮かれた二人に冷や水を浴びせるようなニュースが2007年8月に聞こえてきた。「サブプライム問題」である。


 アメリカで住宅価格が上がり、信用が低めの人達用の「サブプライムローン」と呼ばれるローンが増えてきた。だが住宅価格が下がり始めて、家を売ったとしてもローンの残額を返済できない人達が増えてきた。それがきっかけに世界の金融市場が不安定となり、2008年のリーマン・ブラザーズというアメリカの大手証券会社の破綻につながり、その後株式市場の暴落や、不景気が世界中に波及した。和子と由恵のリーマンショックのざっくりとした理解はこの程度だったが、「サブプライム」という言葉だけ妙に頭に残っていたのである。


 つまりリーマンショックのきっかけはもう始まっている。そう思ったら二人は急に怖くなった。


「もう十分上がってるし、一旦利確しようか……リーマンショックが来たらまた買い戻せばいいわけだし……」

 

 怖気づいた和子と由恵は持っていた株を全部売ってしまった。だがその後も9月、10月と株は上がり続け、二人は歯噛みしながら株式市場を見ていた。


 そして、12月。年末年始を実家で過ごすため、二人は一緒に熊本に帰省した。


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