14-1.戻らないもの
あれから、私は水瀬くんに頭を下げました。
「あの時は酷いこと言ってすみませんでした」
部活前、彼がやっと一人になった所を見計らって、呼び止めました。
「もういいよ。俺も悪かったし」
そんなに頭下げないでよ、と彼が苦笑いします。
笑ってはいるけど、それは今まで見たことのない、どこか他所行きの、他人向きの、よそよそしい笑顔でした。
なにか言わなればと思って口を開きますが、何を言葉が出てきません。
だって、もういいと言ってくれているのに、これ以上、彼に何を望むと言うのでしょうか。
そうしているうちに、誰かが水瀬君を呼びに来ます。
「じゃ、俺行くから」
彼はそのまま、振り返ることなく去っていきます。
その時、彼は私にもう二度と友達の話をしないだろうと思いました。
彼なら謝ったら絶対許してくれて、前みたいに戻れると思い込んでいました。
でも謝られたら、許さなければいけないなんて、そんな考え傲慢の他ありません。
私は、またしても思い上がってたのです。
(⋯⋯仕方がない)
痛みなくして得るものなし。
だから、あれは仕方ないのです。
やれるだけのことはやりました。それで許されないなら、それまでです。
(本当に?)
そもそも、あの日々は偽物だったのです。友情なんていう言葉を使うのも、烏滸がましくて痛々しい。
彼との縁が切れたところで、私の人生がプラスからマイナスになったわけではありません。
彼と出会う前のゼロに戻っただけなのです。
だから、この痛みや思いも、きっと気のせいです。
「あ」
ハンカチを取り出そうとして、カバンのポケットを探った時でした。
入れた覚えのない物がハンカチと一緒に引っ張り出されて、地面に落ちました。
それは溶けかけた飴でした。
水瀬君が、非常食だとかなんだと勝手に入れたやつです。そういえば、すっかり忘れていました。
目の前が、にじんで揺らいでいきます。
ーーー気のせいなわけがない。なかったことになんて到底できない。
水瀬君と過ごした校庭が、UFOだと追いかけた夜が、一緒に食べたお菓子が。
記憶の隅で、絶え間なく、しつこく輝いていて、忘れられない。
(でも、もうどうすることも出来ない)
こんな時、どうしたらいいか、話を聞いてくれる人はもういない。
本当は大声をあげて泣きたかった。でも、今更そんな行為になんの意味もないし、何よりみっともなくて、そんなことは出来なくて。
その場からしばらく動けなかった。




