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【完結】ペーパームーンニューライト  作者: 一七


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13-2.巡る季節


 夕日が差し込む職員室で、私は美月先生に声をかけました。室内には他の先生の姿はなく、静かな空気が流れています。


 パーテーション横の応接スペースに移動しようか、と先生は言いましたが、私はここで大丈夫だと告げました。


 先生は開いていたノートをそっと閉じます。それから、少しだけ震える指を握り込むようにして、私の方を見ました。


「悠也⋯⋯水瀬君とは親戚でね。その⋯⋯あの子、明るいでしょう? だから、転校してきた貴方のことも、気にかけてあげてほしいってお願いしていたの」


 一度言葉を切って、先生は視線を落とします。


「⋯⋯失礼な話だけど、少し、浮いているように見えたから」


 先生は言葉を選ぶように、ゆっくり話します。


「「でもね、あの子が私に話してくれたのは⋯⋯貴方は、自分を持っているしっかりした子で⋯⋯話していて楽しいって、そういうことだったの」

 


『確かにさ、東がクラスに馴染んでるかって言われたら、そうじゃないかもしれない。でも東が悪いワケじゃないよ』


『⋯⋯』


『そりゃちょっと高飛車なところがあるかもしれないけど、俺達だって最初から色眼鏡で見てたし、お互い様だろ』


『でも、一人ぼっちはまずいでしょう?』


『どうかな。俺、前はさ、皆と仲良くするのが正解だって思ってたし、一人でいるやつは本当は寂しいんだろって思ってたけど⋯⋯ 東と話し、ああいうのは、ただの決めつけかもなって思った』


『悠也がそんなこと言うなんて、珍しいわね』


『そうか? でもさ、皆それぞれ考えてること違うじゃん。当たり前だけど⋯⋯俺ちゃんと分かってなかったなって。まあでも東は意外とカッコつけだから、困った事があっても自分から言わないかもな』


『それが困るのよね、何かあったら』


『じゃあ俺が見とくよ。様子っていうか、⋯⋯面倒見る感じ?』


『ありがたいけど、教師としてそこまで貴方に頼るわけにはいかないわ』


『梓⋯⋯じゃない、美月先生に頼まれたからじゃないよ。⋯⋯東は、俺の大切な友達だから』

 

「大切な友達だなんてクサイ台詞、恥ずかしいから絶対他で言うなって言われたんだけど⋯⋯貴方は知る権利があるものね? 言っちゃった」


 美月先生は、イタズラっぽく笑いました。その笑顔は人好きする水瀬君に少し似ています。


「東さん、もう本当に今は大丈夫なの?」



 色素の薄い目が、まっすぐこちらを見ていました。


「はい。前よりは、過ごしやすいです」


「そう。何かあったら、いつでも言ってね。私じゃ頼りないかもしれないけど」


 その言い方があまりに柔らかくて、喉の奥が詰まるような感覚がしました。


 先生は、最初から少しも私の事を責めません。それどころか、私を気遣ってそれ以上は聞かないのです。


(人前で、あんな失礼なこと言ったのに)


 恥をかかせた。あまつさえ生徒の前で。

 先生は教師としての仕事を全うしただけなのに。


 あの日のあと、大きな騒ぎにはなりませんでした。

 どうして収まったのか、詳しくはわかりません。ですが、多分先生の方で多少なりとも取りなしてくれたのでしょう。もしかしたら、他の先生からも何か言われたかもしれません。


 私は、ずいぶんと高飛車で傲慢で、先生は最初からずっと大人でした。


 本当は謝りたかったのに、出来ませんでした。私は意気地なしです。

 みっともない自分を、自分の中では認められても、人前でそれを晒すことが出来ないのです。


 それでも、何か言わなければいけない気がしました。


「今、過ごしやすいのは、先生のおかげもあります。だから、その⋯⋯」



 ありがとうございました、と勢いよく頭を下げて、そのまま振り返らずに職員室を出ました。何を言われるのか、聞く勇気がなかったのです。

 廊下を、逃げるような足取りで靴箱へ向かいます。


「気をつけて帰ってね!」


 先生の声が背中越しに聞こえました。


 あの時、先生は、きっと本当に私を思って怒ってくれたのでしょう。それは見せかけのポーズなんかじゃなくて、もっと高潔な教師としてのポリシーだったのだと思います。


 きっと先生は、初めからそういう先生だったんでしょう。


 私が、わかろうとしなかっただけで。


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