12-4.ノート
UFOおじいさんの家から校庭までの道を歩くあいだ、水瀬君は寡黙でした。何か考え事をしているようです。
「さっきのさ、やっぱちょっと考えたんだけど」
「はい」
「俺が女子に、仲間外れはやめろって言うのはどう?」
「いいんですか? お願いします! って、言うとでも思ってんですか?」
そんなことをされたら、私のプライドは粉々に砕け散って、地獄の業火に焼かれて、塵すら残りません。
(彼なりに気遣ってくれているのはわかるけど、やっぱり少し無神経だ⋯⋯)
「だよなー。あ、先生は知らないのか?」
「どうですかね、多分気づいてないと思いますよ。その方が都合はいいんですけど」
「なんでだ?」
「知られて大事になって、親呼び出しにでもなったら嫌なんですよ。ウチは父が海外赴任中で、母もフルタイム正社員で忙しいんです。こんなことで迷惑をかけたくない」
「子どものことで迷惑に思う親なんて、いないだろ」
「⋯⋯君、毒親とか知らないんですか?」
「知ってるけどさ。東の親がそうってわけじゃないだろ」
「それは⋯⋯そうですけど」
私は大切にされてると思います。だってその証拠に母は忙しいのに、私のために料理を作ってくれます。
『本当に? それは何かの誤魔化しじゃなくて?』
(何を馬鹿な事を。午前様でもわざわざ料理を作ってくれるなんて、これを愛と呼ばずに、なんと呼ぶんだ)
それに、もし万が一、仮に何らかの理由で母の心が離れていたとしても、それはきっと一時的なものに過ぎないはずです。
だって血の繋がった家族です。心の奥底では、家族を一番に思ってくれているに違いありません。
どんなものにも揺らぎはあって、きっと今はそれが揺らいでるだけなのでしょう。今が冬なら、春を待てば良いのです。
(だから、それまでは、もっとちゃんと私がやればいい)
学校でのことは気にしなければいい。知られなければ、何も問題ありません。
(そうだ。もっと家での時間を工夫して、家事をちゃんとやるようにしよう。少しでも、忙しい母が、家にいる時間を安らげるように)
「東、着いたよ」
水瀬君の声に顔をあげると、そこはもう学校横の見慣れた通りでした。彼はこのあと練習するようで、ここでお別れです。
校庭へ向かって歩いていく背中を、ノエルと二人で見送ります。
クゥー、とノエルが寂しげに鳴きました。




