表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】ペーパームーンニューライト  作者: 一七


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/45

11-2.彼の友達の相談


「あいつとは幼馴染だし。簡単には諦めたくないっていうかさ。何か原因があるなら、やっぱ向き合いたいだろ」


 水瀬君は、はっきりと言い切ります。


 そこには湿っぽさも、いじけた様子もなく、それでいて、誰のせいにもしない強さがありました。

 少しだけ強がりが混じっているように思えたのは、どこか一つでも自分と同じものを、彼の中に見つけたいという、私の願望なのかもしれません。


 ――君はバカだ。

 そんな相手、見限ってしまえばいいのに。わざわざ向き合おうとするなんて。友達を数人なくしたところで、君ならまたすぐに作れるでしょうに。

 この田舎の人間が全員君を嫌ったとしても、君はきっと一人にはならない。


(水瀬君の、性善説過信野郎。いい人ぶりっこ。偽善者)


 百年かかっても私には向けられないような言葉を、心の中で彼に投げつけます。


(⋯⋯本当に私とは違う人間ですね)


 でも、その違いは寂しいけど、どうしたって嫌いにはなれませんでした。


 ……と、なれば。私が彼に伝える事は決まってました。


「君は、今のままで良いと思いますよ。その上でその親友とやらとわだかまりなく仲良くやりたいのなら、君も変に態度を変えるべきじゃないと思います」


「今さら気づかないふりをするってことか?」


「ちょっと違います。親友の方も気まずそうなら、恐らく、うっかり口が滑って、後悔してる可能性が高いんじゃないでしょうか。よほど許せない暴言じゃないなら、見逃してあげたらどうですか?」


「⋯⋯見逃すって、具体的にどういうことだ?」


「色々ありますけど。相手のことを、そういうところも含めて嫌いにはなれないと——遠回しでもいいので伝えてあげるとか、態度で示すとか、ですかね。できれば第三者のいないところで。お互い、変に肩肘張らずに済むと思うので」


 正直に言えば、“見逃す”という行為は単純なようでいて、塩梅の難しいものです。

 何をされても気にしないような態度を取れば、「こいつは何も言えないのだ」と舐められる可能性もある。器が大きいと取られるか、侮られるかは、その人の振る舞い次第です。


「でも君なら大丈夫でしょう?」


 私がそう言うと、水瀬君は一瞬ポカンとしました。


「⋯⋯そっか。そうだな!」


 と、力強く頷きました。


 先ほどから、相談者=水瀬君として話していることに、彼は気づいてません。


(まったく、隠す気があるんだかないんだか)


「長々と言いましたけど、どうしても腹が収まらないなら、怒ってみるのも一つの手だとは思いますよ。たまにあるじゃないですか、拳で語り合う、みたいな」


「殴り合いかー。俺には不向きなやつだな。東は意外に得意なのか?」


「まさか。生まれてこの方殴った事も殴られた事もありませんよ。ワンパンで地に伏す自信がありますね。ですが、もし殴られたら末代まで祟る気概はあります」


「こえーよ!」


「まあ、色々言いましたけど、君の好きなようにしたらいいと思いますよ」


「えー、結局それかよー」


「相談の八割は意見を求めないと言いますしね」


「まあなー。それでも聞いちゃうのが人ってもんだよなー」


「そうですねえ」


 私が答えたると、水瀬君は不意に黙り込みました。そして、何かに気づいたようにこちらを見ました。


「⋯⋯そういやさ。東、さっき“俺の好きなようにしたらいい”って言わなかった?」


「⋯⋯ 間違えました。君の“友達”の好きなようにしたらいいと、お伝えください」


「⋯⋯伝えとく」


 ぎこちなくそう返してから、水瀬君はそれ以上何も言いませんでした。


 夜の校庭に、静かな沈黙が落ちます。


 私は初めて校庭に来た日の事を思い出していました。

 あの日もこうして、水瀬君の隣で、黙って満点の星空を見上げていたのです。

 手を空にかざして、星々の横に並べてみます。見上げます。

 まさか彼と、こんなふうに話すようになるなんて、不思議なこともあるものだと思いました。

 けれど、人間が星屑の一部であるという事実のほうが、やはり、よほど不思議で。そう思えば、こんな出会いも一度きりの奇跡なんかじゃなくて、これから先にも何度だって起こり得るものなのかもしれません。


「東」


「はい?」


 空を見上げたまま返事をします。


 視界の端では、水瀬君が前を向いたまま座っていて、その足元ではノエルが彼の膝に顎を乗せていました。


「⋯⋯俺、嘘ついた。これ友達の話じゃない」


「そうでしたか」


「なあ、最初から気づいてた?」


 私は一拍置いて、密かに胸を張って答えます。


「気づいてましたとも」


「⋯⋯そっか」


「そうですよ」


 だって、君の友達ですから。


 その言葉は、さすがに胸の内に留めておきました。代わりに、私は大きく息を吸い込みます。


 夜の匂いは、昼間よりも少しだけ冷たくて、どこか刹那的で。


 いつかこの時間も終わってしまうのだと、ふと予感させるようで⋯⋯私はなんだか泣きたくなりました。

 いえ、絶対に泣かないんですけど。


「東は本当に面白いな」


「またそれですか。君もしつこいですねー」


「なんだよ、褒めてんじゃん! 深読みすんなってー!」


 水瀬君が私の肩をバシバシと勢いよく叩きます。


「いーじゃん、俺面白いやつって一番好きなんだよ」


「君は言葉が軽いんですよ」


 ⋯⋯そんな風に、浮かれて話していたからでしょうか。


 まさかこの時、校庭に他の生徒がいて、しかもそれが、水瀬君の熱心なファンだったなんて。

 その時の私は、想像すらしていなかったのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ