41.断罪劇(1)
「お久しぶりね。キャロライナ様」
夜会の会場に突如ステラが現れたことで、ダンスの音楽は鳴りやみ、貴族たちの談笑が一斉に消えた。周囲に控えていたジェイルズ侯爵側の衛兵たち含め、皆驚いた視線をステラに向けたまま、声を出せないでいる。
ステラは沈黙の中を進んだ。貴族たちは顔を青ざめさせながら、自分に余計な火の粉がかからないよう、サッと道を空ける。
ステラが参加者を見回すと、前情報通り、ジェイルズ侯爵派の貴族ばかりだった。しかし、イーサンの姿は見当たらない。
「アウトッド伯爵にバドリー子爵。ウォーレン侯爵まで。へえ……皆さまお揃いで。私が不在の時にこんな大規模に夜会を開くだなんて、随分とお暇なのね」
わざとらしく嫌味を言うと、皆揃って視線を逸らし、焦った顔をしていた。ジェイルズ侯爵はというと、冷や汗を流しながらも余裕のあるように振る舞っている。
会場の奥にいるキャロライナは、「聞いてないわよ」という非難の視線を隣のエドウィンに向けていた。エドウィンはキャロライナの視線を受け止めることなく、ステラを見つめ好戦的な笑みを浮かべている。
何も発言しようとしないエドウィンにしびれを切らしたのか、キャロライナは一歩前に出て口を開いた。
「わたくしはとても心を痛めております、ステラ様。だってこれから、あなた様を裁かなければならないのですもの。玉璽の窃盗と、わたくしを殺そうとした罪。当然ながら極刑に値しますわ。このままご帰還なさらなければ、ステラ様の命をお取りするようなこと、せずに済んだのに」
キャロライナはウルウルと目を潤ませ、可愛らしい声でそう言った。どうやら彼女は、味方の貴族にはまだ本性を見せていないらしい。
キャロライナの言動はジェイルズ侯爵派の貴族たちの同情を誘い、彼らはそうだそうだと小声で同意し始めた。涙混じりの演技にコロリと騙されている彼らも、自分が裁く側だと思っているキャロライナも、ステラの目にはなんとも愚かしく映り、自然と嘲笑が浮かんだ。
「随分と我が物顔ね。まるで、自分がこの国の主になったと勘違いしているようで、実に滑稽だわ」
キャロライナの表情がピクリと動いた。庇護欲をそそるような困り眉が、ぴくぴくと動いて止まらない。彼女なんとか怒りを抑えているようだった。
「いくらステラ様とはいえ、今のご発言は見過ごせません。次期国王は、継承権第一位のエドウィン殿下なのですから」
「誰が、次期国王ですって?」
いい会話の流れを作ってくれたキャロライナに、ステラは敵ながら感謝した。彼女の元につかつかと歩み寄ると、「これを見なさい」と言って、三つの書状を手渡す。もちろん本物ではなく移しだ。
「書状が……三つ……?」
キャロライナは顔を白くしながら、慌てた様子で書状の内容を確認した。
一番上の書状は、「エドウィンを王太子の位から解き、ステラに国政の代行を委ねる」という、皆がよく知るもの。二つ目は「国王の性別は問わない」という新たな法を定めるもの。そして最後は、「ステラをこの国の女王とする」というもの。
キャロライナは自分でも気づかぬうちに書状の内容を声に出しており、それを聞いた貴族たちは、驚きと焦りの色を浮かべていた。最も顔色が悪くなったのはジェイルズ侯爵だ。
ステラは一度大きく息を吸うと、ざわめきに負けないよう、よく通る声を出した。
「皆、わかったかしら? 次期国王はこの私、ステラ・グレイヴよ。そして、今この時をもって、この書状の効力を発揮し、私がこの国の女王となるわ!」
ステラが高らかに宣言すると、会場は再びシンと静まり返った。ジェイルズ侯爵派の貴族たちは、しばらくその場で立ち尽くし、呆然としていた。
「こんな大罪人を国王にするだなんて、他の貴族が黙ってはいないわ!」
真っ先に声を上げたのはキャロライナだった。彼女はステラをきつく睨みつけており、本性があらわになりかけている。
キャロライナの言葉に続き、ジェイルズ侯爵を含む貴族たちが口々に言う。
「娘を殺されかけて、黙っているわけにはまいりません! ステラ王女が国王になるなど、断固として反対いたします!」
「そうですぞ、ステラ殿下! キャロライナ様暗殺未遂の件は、なかったことにされるおつもりか!」
「玉璽は国王陛下のみがその使用を許されるもの! ステラ殿下が持っていてよいものではございません! 即刻お返しを!」
わあわあと好き勝手に発言する貴族たちは、ステラを名指しで批判し、自分たちが正しいと声高に主張している。その声に追い風を感じたのか、キャロライナの顔には勝ち誇ったような歪んだ笑みが浮かんでいた。忘れもしない、一度目の人生の地下牢で見た、あの嫌な笑み。
しかしキャロライナの表情は、エドウィンの一言で凍り付いた。
「玉璽を国王が所持していて、何が問題なのだ?」
エドウィンの声は大広間によく通った。貴族たちのざわめきが一瞬で消え去り、皆一斉にエドウィンの方へ視線を向ける。誰も彼もが、信じられない、聞き間違いかと言わんばかりに、目を見開いている。
「エドウィン殿下……何を……?」
隣のキャロライナは、声を震わせながらエドウィンを見上げた。彼女の顔からは既に笑みが失われており、恐怖の念が垣間見える。そんなキャロライナを見下ろしながら、エドウィンはフッと口角を上げた。
「玉璽は国王の物だ。それを国王が所持していて、何が問題なのだと聞いている」
キャロライナ含め、ジェイルズ侯爵派の貴族の全員が息をのんだ。今の発言は、「ステラを次期国王として認める」と言っているに他ならなかったからだ。
キャロライナは全てを悟ったのか、顔を真っ青にして声を絞り出した。
「エドウィン殿下……まさか……初めからステラ様を国王にするつもりで……!」
キャロライナの推測は正しい。エドウィンはこれまでに、国王になりたいと思ったことなどない。生まれてこのかた一度も、だ。
ステラがそのことを知ったのは、レオナルドから届いた報告書の内容をアークライト公爵家で聞いたとき。報告書には、次のように書かれていた。




