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私を殺した兄嫁様、断罪される覚悟はよろしくて?~死に戻り王女ですが、助けてくれた隣国の密偵がメロくて困る~  作者: 雨沢雫


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27.祈りを込めて手綱を握る


「はーっ! 一晩寝たらめちゃくちゃ元気になった! ありがとう、お嬢さん!」


 朝になって、レグルスは上機嫌に目を覚ました。一方のステラは、二日連続ろくに眠れておらず、調子は最悪だった。


「そう……それはよかったわ……」


 昨日の寝不足は完全にステラ自身のせいである。レグルスに口づけなどしていなければ、しっかりと眠れていただろう。


「じゃあ、朝食を取ったら早々に出発しよう。俺のせいで足止めさせちゃってごめんね」


 レグルスは昨日のことなど忘れてしまったかのように、いつも通りに話しかけてくる。そんな彼に、ステラは内心腹が立った。気にしている自分が馬鹿みたいだ。


 彼にとっては、挨拶みたいなものだったのかもしれない。そう思うと、胸がチクリと痛んだ。それがまた、無性に腹立たしかった。


「もう動いて平気なの? 馬に乗るのはつらくない?」


「うん、大丈夫。傷口もとりあえずは塞がったよ。そんなに激しく動かなければ、傷口が開くことはないと思う」


「わかったわ。少しでもつらいと思ったら隠さず言ってね。休息を多めに取りましょう。無理は禁物よ」


 腹立たしい気持ちと同じくらい、彼の復調に安堵している自分がいる。彼とこうして会話するのが、随分と久しぶりに思えた。


 それからステラとレグルスは朝食を取り、荷物をまとめて出立した。洞窟を出た先には変わらず男の亡骸が横たわっていたが、ステラはやはり怖くて、近づくことも話題に出すこともできなかった。


 その日の旅路は、レグルスの傷を気遣いながら、ゆっくりと進んだ。彼はしきりに「平気だからもう少しスピードを上げよう」と言っていたが、ステラがそれをよしとしなかった。傷口が開き悪化するようなことがあってはいけない。


 その日以降もスピードを落として進んだ結果、ヴァルデア王国までは順調に行けばあと二日という距離だったが、レグルスの怪我の影響でその倍を要した。しかしその間、彼の傷口が開いたり体調が悪化することがなかったのは幸いだった。


 そして、洞窟を出てから四日目の昼下がり。とうとうヴァルデアの国境まで目と鼻の先のところまでたどり着いた。

 

 要塞都市アイゼンフォルテを出てから山間の街道をひたすら走り続けてきたが、標高はすでに随分と低くなっている。もうすぐ平地にたどり着くだろう。


(ようやくここまで来たわ……)


 ステラは隣国に到着したら、まずはヴァルデア王家を訪ねるつもりだ。国政を任される以前から、ステラは彼らと交友関係がある。国家間の友好を深めるため、王家同士の交流が盛んに行われていたからだ。


 ヴァルデア王家が手を貸してくれるかは正直わからないが、隣国で他に頼れる者がいない以上、彼らに頼み込むしかない。それにこれ以上、レグルスに負担を強いるわけにもいかなかった。隣国に着いたら、彼を解放してやらねばならない。


(そうか……もう、彼ともお別れね……)


 ステラは前を走るレグルスの背中を見つめる。もちろん、彼にはいずれ褒美を与えるつもりだが、一旦は別れを告げることになるだろう。あと数十分後の未来を思うと、ステラの心に隙間風が吹いた。


(寂しいと思うだなんて、馬鹿ね)


 ここまでの旅路は、もちろんつらいことも多かったが、想像以上に楽しいものだった。追われる身で、しかも国政を投げ出している身で楽しいなどと思ってはいけないことくらい理解している。しかし、全ての憂いを忘れさせ、旅を楽しいものにしようとする、レグルスの心遣いが嬉しかった。不安と恐怖に押しつぶされなかったのは、全て彼のおかげなのである。


 今までの旅路を振り返りながら、ぼんやりとそんなことを考えていると、突然レグルスが大声を上げた。


「お嬢さん! 前、走って!」


 ステラは驚くと同時に、レグルスの言う通りに馬のスピードを上げた。彼の横に並んだところで、ステラは尋ねる。


「どうしたの!?」


「後ろから敵が追ってきてる!」


「え!?」

 

 頭だけで後ろを振り返ると、確かに馬に乗った男たちが数人迫ってきていた。服装からして暗部の人間だとすぐにわかる。前を走っていたのにどうして彼は気づけたのだろうと、ステラはレグルスの察知能力の高さに驚いた。


「ヴァルデアまでこのまま逃げ切ろう! お嬢さんは何も考えずにひたすら走って!」


 レグルスはそう言って剣を取ると、馬のスピードを緩め、ステラの後ろについた。


「レグルス、無茶しないで! 傷口が開いてしまうわ!」


 ステラは心配になり、再び後ろを向いた。暗部の男たちは揃って弓に矢をつがえており、矢の届く距離になるのを今か今かと待っている。


 暗部の馬の方が早く、じわりじわりと距離が縮まる。ここまでの旅路で、ステラたちの馬は疲労が溜まっていた。こちらのスピードが落ちているのも当然だった。


「俺のことは気にしないで! お嬢さんさえ国境を越えれば、俺たちの勝ちだ!」


 レグルスの言葉にステラはハッとした。


 国際法では、他国の人間であってもその国の法が適用される。暗部の人間がヴァルデア王国でステラを殺した場合、彼らはヴァルデアの法によって裁かれるのだ。グレイヴ王国にいる間に殺せばもみ消すこともできるだろうが、他国ではそれは叶わない。


「わかったわ! 絶対に追いついてきてね!」


「もちろん!」


 ステラは自分の馬に「無理させてごめんね」と謝りながら、最後の力を振り絞ってもらった。スピードを上げ、まっすぐな街道を一気に駆け抜けていく。


 後ろではとうとう矢が飛び始めたようだ。暗部たちの怒号と、レグルスが矢を剣で叩き落とす音が聞こえてきている。彼がまた怪我をするのではないかと振り返りたくなったが、ここで足を止めてはいけないと、ステラは振り返らずにひたすら走り続けた。


(早く……早く着いて……!)


 ステラは祈りを込めて手綱を握った。その時――。


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