24.絶対に生き残る
その日の晩、レグルスはステラと共に、山道から森に入ってしばらく進んだところにある、洞窟の中で休んでいた。
すうすうと可愛らしい寝息を立てるステラを見つめながら、レグルスは微笑む。レグルスの手は、いつものように彼女の手に重ねられていた。
城を出てからしばらくの間、ステラは悪夢にうなされていたようだった。そのせいで睡眠不足となり、結果的に体調を崩してしまったのだ。
要塞都市アイゼンフォルテの宿で、うなされる彼女の手をレグルスが握ると、彼女の表情がスッと穏やかなものになった。無意識ながらも、人肌に触れて安心したのだろう。
それ以来、ステラの夢見が悪そうな時だけ、レグルスは彼女の手を握ってやるようになった。もちろん本人には教えていない。言えばきっと怒るだろうから。
(……ようやくここまで来たな)
彼女の寝顔を眺めながら、レグルスはこれまでの旅路を思い出す。決して楽ではなかったが、憧れの女性と旅ができて、レグルスにとってはほんの一瞬の、夢のようなひと時だった。
ヴァルデア王国まで、あと一歩のところまで来た。アイゼンフォルテを出てから、騎士団の足止めはあったものの、そのほかは順調だ。あと二日もあれば到着できるだろう。
(流石に俺も少し寝るかな)
レグルスは旅の間、うたた寝程度の睡眠しかとっていない。たとえ夜中であっても、追手を警戒しなければならないからだ。こういうことには慣れているので苦ではないのだが、疲労が溜まっているのも事実だった。
ステラの様子が落ち着いていることを今一度確認してから、レグルスは洞窟の岩肌にもたれかかり、目を閉じた。
しかし、五分も経たないうちに、レグルスは再び目を開く羽目になった。
――誰か近づいてきている。
敏感に人の気配を察知したレグルスは、剣を持ち、急いで洞窟を出た。
雲一つない夜空には、欠けた月が浮かんでいる。ぼんやりとした月明かりでは、常人には潜む人影を認識することはできないだろう。
しかし、レグルスは違った。特別夜目が利く体質のおかげで、木の裏に人が隠れているとすぐにわかった。
「出てこいよ。見えてるぜ」
レグルスが挑発すると、すぐに影が正体を現した。
黒装束に、トレードマークの不気味な白い仮面。「死神の使者」と呼ばれる、裏社会では有名な民間の殺し屋だ。おそらく、この国で最も腕が立つ暗殺者――。
「まじかよ……ここにきてそれはキツイって……」
レグルスは思わず愚痴をこぼした。おおよそ、暗部ではダメだと判断したキャロライナが送り込んできた刺客だろう。
「ねえ、ダメ元で聞くけど、金で解決しない?」
「…………」
男は押し黙ったまま、ぴくりとも動かない。まるで彼の周りだけ時間が止まっているかのようだ。
その沈黙が拒絶を表しているのは明らかだった。
「まあ、そりゃそうだよね……」
レグルスは諦めて剣を抜いた。それでも男は動かない。武器を取る素振りもない。様子を伺っているのか、単純になめられているのか。
(相討ちなんて考えるな。あと少しとはいえ、お嬢さん一人で国境を越えられるとは思えない)
背に冷や汗が流れる。この旅の中で初めて、レグルスは焦りを感じた。
だが、絶対に生き残る。
レグルスは強く、己とステラに誓った。




