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私を殺した兄嫁様、断罪される覚悟はよろしくて?~死に戻り王女ですが、助けてくれた隣国の密偵がメロくて困る~  作者: 雨沢雫


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12.第二王子ノエル


 エドウィンがキャロライナに共闘の話を持ち掛けていたその頃、第二王子ノエルは、自室でひとり、地図と睨み合っていた。


 姉のステラに「キャロライナ毒殺未遂」と「玉璽窃盗」の二つの容疑がかけられている。しかしノエルは、ステラがそんなことをする人間ではないと、彼女を心の底から信じていた。


 百歩譲って、玉璽の窃盗は何か事情があって仕方なくやったのかもしれない。だが、キャロライナを毒殺するような真似は絶対にしないはずだ。


 ノエルは、逆にキャロライナ側にステラがはめられたのではないかと睨んでいた。現に、毒を飲まされたというキャロライナはピンピンしている。


「キャロライナ様より先に、お姉様を見つけないと……」


 ノエルは地図を俯瞰しながら、ステラならどこへ行くだろうかと考えた。


 ステラの捜索は今も騎士団主導により行われているが、まだ見つかる気配はない。今のところ得られているのは、王都を出たという情報だけだ。


 ステラが城を出て今日で三日。日が経つごとに、彼女を追うのが難しくなるのは理解していた。


「……お姉様、一体どこにいらっしゃるのですか」


 ソファの前にあるローテーブルに広げた地図は、当然ながら何も答えてくれない。


 はぁと小さく溜息を吐いた時、ふとカーテンが揺れた気がした。何気なく窓辺を見たが、窓は閉まっている。気のせいかと思い視線を地図に戻した瞬間、ローテーブルの向かいに人の足が見えた。


 驚いて顔を上げると、騎士風の若い男が立っていた。赤茶色の髪に深紅の瞳を持つその青年は、ノエルが衛兵を呼ぼうと声を上げる前に、素早く用件を話した。


「ステラ王女殿下から手紙を預かっております」


「お姉様から……?」


 男の一言で、ノエルは衛兵を呼ぶのをやめた。この男からは敵意も殺気も感じない。今の話が本当なら、今衛兵を呼ぶのは愚策だ。それに、相手が刺客なら、とっくに殺されている。


「あなたは何者ですか?」


 ノエルが尋ねると、男は恭しく一礼をした。まるで上流貴族のそれだ。


「ご挨拶が遅れ申し訳ございません、ノエル王子殿下。私はレオナルド。ステラ王女殿下の協力者です」


「協力者……? お姉様は今どこに? どうして失踪なされたのですか?」


 焦燥に駆られ、ノエルは矢継ぎ早に尋ねた。レオナルドは答える代わりに、手紙を差し出す。ノエルはそれを恐る恐る受け取り、中を開いた。


 ◇ ◇ ◇


 ノエルへ


 心配と迷惑をかけてごめんなさい。

 わけがあって、しばらく城を離れます。

 でも必ず戻ると約束するわ。


 あなたに三つ、お願いがあります。

 勝手な姉を許してね。


 ひとつ、私が戻るまで、絶対に死なないこと。

 ふたつ、書状に関して、宰相から話を聞きなさい。

 みっつ、お母様のことを頼みます。


 あなたの無事を願って。


 ステラ


 ◇ ◇ ◇


 間違いなく姉の筆跡だ。ノエルは手紙を持つ手を震わせながら、唇を噛みしめる。姉が生きていることに安堵し、泣きそうになった。


「お姉様はご無事なのですね。よかった……!」


 ノエルは顔を綻ばせたが、レオナルドは険しい表情をしている。


「少なくとも、今は。正念場はこれからです。キャロライナ様が刺客を放ち、ステラ殿下の命を狙っています」


「……!」


 ノエルは息をのんだ。やはりステラはキャロライナの企みに巻き込まれたのだと、確信する。


 キャロライナの父であるジェイルズ侯爵は、国政を握るステラのことを明らかに敵視している。キャロライナがステラを失脚させようとしていても、おかしくはないと思っていた。


「すぐにキャロライナ様を止めなければ……」


「今すぐには難しいでしょう。ステラ殿下が不在の今、弁明できる状況ではありませんし、キャロライナ様を止める正当な理由が見つかりません。追及しても、相手は大罪人なのだからと流される可能性が高いでしょう」


「でも……!」


 レオナルドが言うことはわかる。しかし、何もせずにただ指をくわえて見ていることなどできない。


「僕にできることはありませんか?」


「ステラ殿下がこの城に戻られた際に、エドウィン殿下――というより、キャロライナ様側の勢力を、できるだけそぎ落としておけるとよいかと」


「わかりました。できる限りのことはやってみます」


 ステラの手紙には、宰相に話を聞けと書かれていた。ということは、少なくとも宰相は味方なのだろう。今は彼に力を借りる他ない。


「あなたはこれからどうするのですか? お姉様の元へ戻られるのですか?」


「いいえ。私はこれから、キャロライナ様に近づき、毒殺未遂事件の真相を探ります」


「え? でもそれだと、お姉様を守る方が減ってしまうのでは……」


 ステラは今、誰と一緒にいるのだろうか。一人ということはないだろうが、刺客に対抗できる者がそばにいるのかと、ノエルは途端に不安になった。


 しかし、その不安を取り除くかのように、レオナルドは優しく微笑んだ。


「ご安心を、ノエル殿下。ステラ殿下には頼もしい男がついております。必ず守り抜いてみせるでしょう」


「……わかりました。その方を信じます」


 何も情報が得られない中、今は目の前にいるレオナルドと、ステラを守っているという男を信じるしかない。己の無力さに悔しさを覚えつつ、ノエルは自分にできることを全うしようと決意した。ステラが帰ってきたときに「彼女の居場所がない」なんてことは避けなければならない。


 レオナルドは一歩下がると、また丁寧に一礼した。


「では、私はこれにて。城で見かけても、見て見ぬふりをしてくださいませ」


 そしてレオナルドは窓から出て行った。なんとなく彼の後を追い、窓から外を見たが、すでに彼の姿は見当たらなかった。まるで白昼夢を見ていたようだと思ったが、ステラからの手紙が、すべて現実であると告げていた。


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