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紅月のクロスリーパー   作者: ルーツ
第五章 悪戯の終末

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24.次なる盤面へ

登場人物

<ディヴァインリーパー>

ジェシカ 

グラフ

アンディ 

アリス

アルス

クロード


教会の司祭(アンフォリーの妹)

アン・レゾン


四代厄災

悲狂のアン・フォリー

神速のレーヴ

絶対死者アブソリュート


グラフの想い人

ルミナス・エフェメール


明日──聖王国リベリオンと魔法国家アルカナンによる全面戦争が過激化し、両国が一気に決着へ動き出す。


そんな戦いを目前に控え、ディヴァインリーパーの面々は判断を迫られていた。


戦争へ参入するべきか。

それとも、事後に動くべきか。

だが、誰も解決策を出せずにいた。


重い沈黙。

その空気を破ったのは、クロードだった。


「あの……まずは今できる事を、一つずつ片付けていきませんか?」


はっきりとした声だった。


「どういう事?」

「あ、うん。まずは、その免罪符で解呪して、新しいジェシカ専用の刀を作る事。

それと……リベリオンから来る宿主たちの保護かな」


クロードの言葉に、ジェシカは小さく頷く。

それにつられるように、グラフとアリスも頷いた。

するとアリスが、口元へ指を添えながら柔らかく笑う。


「うふふ。確かにクロードの言う通りだわ。

それじゃ──アルスを呼ばないといけないわね。

それに、免罪符の取り扱いは私しかできないもの」


「え!? そうなの!?」


ジェシカが驚いたように身を乗り出す。


「てっきりクロードがやるものだと思ってた……」

「うふふ。解呪自体は、そこまで難しい事じゃないのよ。

ただ──その後が大変なの」


アリスは意味深に笑う。


「だって、完成した刀が溶けちゃうから」

「と、溶ける!?」


「ええ。解呪──正式には《ルヴェルソール》。

呪いを解くというより、“存在そのものを還元する”に近いわ。


今まで形を保っていた物質が、一度根本から崩壊して、新しい物質へ変質する。

そして、その変質した素材を鍛冶師が再形成し、新しい武器として構築し直す必要があるの」


静かな声。

だが、その内容は異質だった。


「つまり、今までの出来事は全部──新しい武器を生み出す為の前段階だった、って事になるのかしらね。うふふ」


ジェシカは思わず息を呑む。


《真打》建御雷神。


その存在が、今まさに別の何かへ変わろうとしている。


「それじゃ、私はアルスを呼びに行くわね。

ついでにソフィアへ、さっき話していた宿主と子供たちの件も伝えておくわ。


戻ったらすぐ始められるよう、準備だけお願いできるかしら?」

「は、はい! 炉に火を入れておきます!」


クロードの返事に、アリスは満足そうに頷く。


そして、指を鳴らした。


パチン──。


その瞬間、アリスの姿が霧のように掻き消える。



「……アリス、なんか変わった?」


ジェシカがぽつりと呟く。

グラフは鼻で笑った。


「さぁな。奴も奴で色々抱えてんだろ。

──それより、俺はアンディの所へ行ってくる」


「え? 何で?」

「ふっ。ここに俺が居る意味はないからな。

それに、いきなり実戦に出るより、アンディと手合わせして色々確かめておきたい」


ルミナスの件。

グラフの中で、確実に何かが燃え始めていた。


「そっか……分かった!

でも、無茶しないでね。気が済んだら二人ともちゃんと帰ってきてよ?」

「ああ。お前がくれた機会を、みすみす捨てる訳ないだろ」


そう言い残し、グラフはリーパーの集落へと飛び立った。


         ◇◇◇


「それじゃ僕も、作業場へ行って準備してくるね」


クロードも立ち上がる。

だが、その背中へジェシカが小さく声を掛けた。


「ねぇ……怒ってないの?」

「え……?」


クロードは振り返る。


「だって俺、何も知らなかったし……。

ジェシカが一人で、そんな辛い思いしてたなんて……」


悔しそうに俯く。


「なんか、ごめん。俺……何も──」

「ううん」


ジェシカはゆっくり歩み寄る。

そして、クロードの肩へそっと額を預けた。


「ありがとう、クロード」


クロードの身体が僅かに強張る。


抱きしめたい。


そう思う。


だが、その衝動を押し殺すように両手へ力を込め、静かに目を閉じた。

二人の距離は、もう主人と眷属だけのものではなかった。


「大丈夫だよ、ジェシカ。俺……強くなったから」

「え……?」


「俺の中にも、マリアの声が聞こえるんだ。

たまにだけど……力も貸してくれる」


その言葉に、ジェシカの表情が曇る。

喜びではなかった。

むしろ、不安に近い。


「ウソ……そんな……」


自分と同じように。

クロードまで、“向こう側”へ近づいている。

そんな感覚が、胸をざわつかせた。


「大丈夫だって!」


クロードは無理やり笑う。


「俺、ジェシカを守るから。

眷属としてだけじゃなくて……ちゃんと、お前の隣に立てるくらい強くなる」


ジェシカは何も言わなかった。

ただ、クロードの背中へ腕を回す。


ぎゅっと。


強く。


離れないように。


クロードもゆっくり振り返る。


互いの距離が近づく。


呼吸が触れるほどに。


だが──。


ジェシカは小さく目を伏せた。


「……クロードがいると、安心する」

「ジェシカ……」



その言葉は、愛情だったのか。


依存だったのか。


あるいは、“人間でいられる最後の拠り所”だったのか。


まだ、誰にも分からない。


        ◇◇◇


「それじゃ、行くね。

ジェシカの為に──最高の一振りを作らないといけないから」


「……あ、私も行くよ」

「確かに! ジェシカがいないとダメだよね」


二人は互いの顔を御合わせ笑って作業場へ向かう。


そんなクロードの笑顔を見ながら心で想う。


「……行かないで」


だが、その心の声は届かず静寂へ溶けて消えていった。


─────────────────


一方、アリス。


ミネルバ王国へ向かった彼女は、とある一室で紅茶を口にしていた。

やがて扉が開き、ソフィアとアルスが部屋へ入ってくる。


「よぉ、待たせたな」

「うふふ。平気よ。それより、随分忙しそうねソフィア」


アリスが柔らかく笑う。

ソフィアは疲れたように椅子へ腰を下ろした。


「大変なんてもんじゃないわよ!

出雲国との外交も進めないといけないし、内政も山積みだし……」


だが、その顔に悲壮感はない。

むしろ国を背負う者としての覚悟が滲んでいた。


「うふふ。頼もしい国王ね。

──そんな貴女にとって、これから話す事が吉と出るか凶と出るか……少し悩んでいるのだけれど」

「……どういう意味?」


ソフィアの表情が変わり空気が張り詰めた。


「その前に、アルスへ先に伝えておきたい事があるわ」


アリスは静かに続ける。


「ジェシカが免罪符を持ち帰ってきたの」

「──!! 何だって!?」


アルスが目を見開く。


「ええ。私たちが思っていた以上に早く、ね」


アリスはソフィアへ視線を送る。

ソフィアは僅かに頷いた。


「だからアルス。先に拠点へ向かって準備をお願いしたいの。

クロードが既に炉へ火を入れて待っているわ」

「分かった! それじゃ俺は行く!」


アルスは勢いよく部屋を飛び出していった。


扉が閉まり、しばらく静寂が続いた。


「──それで、話って何なの?」


ソフィアが真っ直ぐアリスを見る。

アリスもまた、その視線を受け止めた。


「今から話す事は全て、ジェシカが実際に見てきた事。

そして既に動き出している現実よ」


静かな声。

だが、重い。


「その上で聞かせてほしいの。

ミネルバ王国は、これからどう動くつもりなのかを」


        ◇◇◇


「……なるほどね」


話を聞き終えたソフィアは、静かに目を閉じる。


リベリオン。


アルカナン。


アブソリュート。


ホーリーエンブレム。


様々な思惑が複雑に絡み合っていた。


「ミネルバ王国はどうするつもりなの?」


アリスの問いにソフィアはすぐには答えなかった。

窓の外へ視線を向ける。


この国で暮らす民。


守るべき命。


国王としての責任。


沈黙が流れる。

やがてソフィアは、小さく息を吐いた。


「……ミネルバは参戦しない」


その声は、はっきりしていた。


「確かに被害が及ぶ可能性はあるわ。

でも、ここで私たちまで戦争へ加われば、三国全てが崩壊しかねない。


それに、リベリオンが本当に崩壊した場合……次はアルカナンとの全面衝突になる可能性が高い」


ソフィアは拳を握る。


「だから今、優先するべきは外交と防衛よ。

出雲国との国交を進めて、ミネルバの民を守る準備を整える。

私は国王として、そっちへ力を注ぐ」


その答えに、アリスの表情が少し和らいだ。


「そう……安心したわ」

「何かあるの?」


アリスは紅茶へ口をつけ、そして静かに語り始めた。


自分の過去。


クレア。


アン・フォリー。


そして──アルカナン。


話を聞き終えたソフィアは、しばらく言葉を失っていた。


「だから私は、この争いに乗じてアルカナンさえ崩壊させようとしているの」


静かな声音。

だが、その奥には狂気にも似た覚悟が滲んでいた。


「私は、貴女がこの地を統べる王となるべきだと思っているわ」


ソフィアは黙る。


その言葉の重さを、理解していた。


これは冗談ではない。


覚悟の話だ。


アリスは今、この場で答えを求めている。


沈黙。


長い沈黙。


「あはは!あははは!」


ソフィアが突然笑い出した。


「やっぱり貴女、面白いわね!!」


笑いながら、真っ直ぐアリスを指差す。


「好きにやりなさい!

後ろ盾は、このミネルバ王国国王──ミネルバ・ソフィア・マニフィックが受け持つわ!!」


その言葉は、国家そのものの覚悟だった。


アリスは静かに席を立ち、片膝をつき頭を垂れた。


「うふふ……助かるわ、ソフィア。いいえ──ミネルバ国王」


──交渉成立。


戦争。


国家。


怪物。


それぞれの思惑が渦巻く中、アリスは静かに城を後にした。


次なるジェシカ専用の刀作成と言う盤面へ。

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