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紅月のクロスリーパー   作者: ルーツ
第五章 悪戯の終末

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23. 覚悟の傷跡

登場人物

<ディヴァインリーパー>

ジェシカ 

グラフ

アンディ 

アリス

アルス

クロード


教会の司祭(アンフォリーの妹)

アン・レゾン


四代厄災

悲狂のアン・フォリー

神速のレーヴ

絶対死者アブソリュート


グラフの想い人

ルミナス・エフェメール

「それで、先にジェシカの話を聞かせてもらえるかしら」

「あ、うん。えっとね、実は昨日アンディとたまたま会って、一緒にグレンの所へ行ってきたんだ。

それで──アンディの戦闘スタイルに私の意見を言わせてもらいつつ、さっき話が終わって、今頃武器の制作をしていると思う」


「そう……。私もアンディにはあまり強く言えないから助かったわ。ありがとう、ジェシカ」

「ううん。私がやりたいようにしただけだから」


ジェシカとアリスは目を合わせ、優しく微笑む。


だが次の瞬間、ジェシカの表情が僅かに曇り、ゆっくりとグラフへ顔を向けた。


「グラフ」

「どうした?」


ジェシカの表情は、先ほどまでの柔らかいものではなかった。


むしろ、鬼気迫るような鋭さを帯びている。


その空気の変化に、クロードも思わず息を呑んだ。


「……聞こう」

「その前に、私の質問に素直に答えてほしい。いいかな?」

「ああ。問題ない」


グラフへ確認し、ジェシカは深く息を吸い込む。


そして、静かに口を開いた。


「ルミって……ルミナス・エフェメールだよね?」


その名前を聞いた瞬間、グラフの手が強く握り締められた。


「ああ。それがどうした」

「ううん。グラフ、覚悟して聞いてね」


鋭い視線を向けるジェシカ。


グラフもまた、その視線から逃げない。


無言のまま、二人の間で何かが通じ合っていた。


やがてジェシカはカバンを開き、中から一つの物を取り出してテーブルへ置く。


──アブソリュートに斬り落とされた、ルミナスの右手。


「おい……何だそれは。死者の、か……?」

「そう。これは──《覚醒者》ルミナス・エフェメール」


──!!


「な、なんだと!? ルミナスだと!!」


グラフは思わずソファーから立ち上がり、テーブルの上の右手を凝視した。


「……ルミが……」


その瞬間。


グラフの脳裏へ、過去の記憶が蘇る。


「た、確かに奴に殺され、血を与えられて姿を消した……。そんな馬鹿な……! ルミは奴の……」

「これで分かると思うけど、はっきり言うね」


ジェシカは静かに続けた。


「ルミナスは絶対死者アブソリュートの右腕だよ」


その言葉は、グラフの心を抉るようだった。


受け止めるか。


壊れるか。


その選択だけは、グラフ自身が決めなければならない。


それを、この場にいる全員が理解していた。


グラフは無言のまま立ち尽くす。


──しかし次の瞬間。


その口角が、ゆっくりと吊り上がった。


「ふっ……おもしれー」


低く笑う。


「やってやるぜ。《覚醒者》ルミナス・エフェメール、か……。

俺様の手でぶっ殺して、成仏させてやる!」


黒い瞳が見開かれ、赤へ変わる。


「はっ……あははは!! 待ってろよ!!」


喉の奥を震わせるように笑うグラフ。


肩を大きく揺らしながら笑い続けるその姿は、どこか壊れているようにも見えた。


やがてグラフはジェシカへ向き直る。


「ジェシカ。俺にこんな機会をくれてありがとよ。

俺は──これでやっと……」


そう言って、いつも深く被っていた帽子へ手を掛ける。


ゆっくりと持ち上げる。


そして、ぐしゃり、と力を込めて握り潰した。


灰色の髪をかき上げる。


今まで帽子に隠れていた左目の周囲には、深い傷跡が残っていた。


さらに、胸元には刻まれた刺青。


「グラフ、それって……」

「ああ。これは──奴につけられた傷だ。

そして、この刺青は俺たちクロスリーパーが、命を落としてでもやり遂げる事への(みそぎ)だ」


その覚悟が、三人へ静かに伝わっていく。


「気にする事はねぇ。俺はずっと、この時を待っていた。

それに今の俺には──」


グラフは傍へ立て掛けられていた重厚なロングソードへ視線を向け、笑う。


「……話を折って悪かった。続けてくれ」

「あ、うん」


グラフを気に掛けながらも、ジェシカは再び話し始めた。


アブソリュートとの件。


ルミナスと共に起こしたリベリオンでの出来事。


アン・フォリーの件。


《ホーリーエンブレム》メテオの件。


リベリオン崩壊。


宿屋の店主の件。


フォリーの妹、レゾンの件。


アッシュとクリスの件。


今まで起きた事、その全てを三人へ話した。


静かになったリビングで、クロードがぽつりと呟く。


「……こんな事を、この短期間で終わらせたの? ジェシカ」

「そうだよ。私一人じゃ、とても無理だったけどね。

色んな人に助けられたし……アブソリュートの掌の上で踊らされてるのも分かってた。

でも、こうして免罪符も持ち帰れたから……今思えば、悪くはなかったのかなって」


「──ご、ごめんジェシカ。お、俺……」

「ううん。私こそごめんね、クロード。貴方の覚悟も知らずに……勝手に怒っちゃって」


クロードは歯を強く食いしばる。


ジェシカが、この短期間でどれだけ苦しみ、どれだけのものを背負ってきたのか。


そして、自分が眷属として何も支えられなかった事。


その不甲斐なさが、どうしようもなく悔しかった。


顔を伏せる。


肩が、小さく震えていた。


「クロード……ごめんね」

「あ、謝らないでよ……。俺、強く……強くなるから」


「ふっ。男ならそう簡単に泣くな。

女の前で泣く時は、全てが報われた時だけだ」


グラフはクロードの肩へ手を置く。


「は、はい……すいません」


その様子を見ていたアリスが、静かに口を開いた。


「ねぇジェシカ。アルカナンだけど」

「あ、うん。あそこは今、変な本を国中の人が読んでる。

人と話す時も本を開いたままだし、歩きながら読んでたりして……とにかく国全体がおかしい事になってる」


その言葉に、アリスは困ったように眉を下げた。


「でも、明日の大戦でアルカナンが勝ち、リベリオンは崩壊する。

だけど──アブソリュートやホーリーエンブレムが黙ってるとは思えない。

警戒は絶対必要だと思う。


それに、アルカナンのクレアもフォリーとの決着をつけるつもりみたいだし……そこへ、アブソリュートは必ず介入してくる」


ジェシカ自身が見て、聞いて、歩いて集めた情報。


だからこそ、その言葉には重みがあった。


「ありがとう、ジェシカ。

これでアルカナンが変わればいいと思うけど……やっぱり、こちらもアブソリュートとホーリーエンブレムへ対抗する手段を考えないといけないわね」

「そうだね。だから、それを話し合わないといけないと思って、早く戻ってきたんだ」


ジェシカ。


アリス。


グラフ。


クロード。


そして、武器を鍛えているアンディ。


持ち帰った免罪符で《真打》建御雷神を解呪し、新たな武器へ生まれ変わらせる為に待機しているアルス。


リベリオン。


アルカナン。


そしてミネルバ王国。


様々な思惑が、静かに絡み合っていく。


遠くで、誰かが笑っている。


まるで最初から、こうなる事を知っていたかのように。


そして、その思惑を──たった一人のクロスリーパーが打ち砕く事になるなど、まだ誰も知る由もなかった。

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