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紅月のクロスリーパー   作者: ルーツ
第五章 悪戯の終末

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123/124

22. バカ…………

登場人物

<ディヴァインリーパー>

ジェシカ 

グラフ

アンディ 

アリス

アルス

クロード


教会の司祭(アンフォリーの妹)

アン・レゾン


四代厄災

悲狂のアン・フォリー

神速のレーヴ

絶対死者アブソリュート


グラフの想い人

ルミナス・エフェメール

アンディはグレンの元に残り、ジェシカはひと足先にミネルバ王国へと戻っていた。


「あ、見えてきた! これをアルスに渡せばやっと──」


ジェシカはカバンへ視線を落としながら、一瞬だけアブソリュートとルミナスの事が頭をよぎる。


一抹の不安を残しながらも、空を駆け抜け、拠点へと戻った。


────────────


ジェシカは拠点の玄関前へ無事に着地すると、小さく息を整え、扉のノブへ手を伸ばした。


「あれ!? ジェシカ!?」

「えっ」


突然の声に、思わず肩がビクッと跳ねる。


振り向くと、そこにはクロードが立っていた。


「──もう、いきなり驚かせないでよー」

「あ、ごめんジェシカ。だって、あれからまだ五日しか経ってないから、もう帰ってきたのかと思ってさ」


「何で? 早く済ませちゃダメだった?」

「へ? 何でそんな機嫌悪いのさ。俺、何かした?」


何故か、自分でも理由が分からない。


だがジェシカは、クロードに対して妙に苛立っていた。


「……別に、何でもない」

 

そう言った瞬間、自分でも少し腹が立った。


「いやいや、明らかに機嫌悪いよ」


最初は軽い会話程度だった声量も、次第に口論になりかけるほど大きくなっていく。


「何でもないってば! 放っておいてよ!」

「何だよそれ! 俺が何かしたなら言ってくれないと分からないだろ!」


その時だった。


二人の背後へ、大きな影が落ちる。


「お前たち、声を荒げて何をしている。さっさと中に入れ」


低い声。


振り向けば、そこにはグラフが立っていた。


「あ、グラフ!」


ジェシカはクロードから視線を外し、グラフへ向けて笑顔を見せる。


先ほどまでの態度との違いに、クロードは僅かな違和感を覚えた。


一方で、グラフの表情は険しいままだった。


「中に入れ」


『……はい』


三人は拠点の中へ入る。


グラフを間に挟むようにして歩きながら、ジェシカとクロードの間には気まずい空気が流れていた。


そのままリビングへ向かい、それぞれソファーへ腰を落とす。


「あら? 早かったわね。うふふ」

「あ、アリス。ただいま」

「ええ、お帰りなさい、ジェシカ」


やはりアリスへ向ける表情も、先ほどのグラフと同じように柔らかい。


そんな二人へ見せる笑顔と、自分へ向けられた態度の違いに、クロードは戸惑いを覚えていた。


しかし、この小さな違和感こそが、二人の距離を大きく変えていく事になる。


やがてそれは、ディヴァインリーパー全体を巻き込み、果てには国すら影響を及ぼす事態へと繋がっていくのだが──。


この時の四人は、まだ知る由もなかった。


ジェシカは傍に置いていたカバンを膝へ乗せ、おもむろに中から免罪符を取り出し、テーブルへ置いた。


「これがアルカナンから持って帰ってきた免罪符だよ。これで《真打》建御雷神を解呪できるんだよね?」

「ええ、そうね。これさえあれば──確かに」


テーブルへ置かれた免罪符へ、ジェシカ以外の三人の視線が集まる。


その中で、アリスが静かに口を開いた。


「それにしても……早かったわね。もっと時間が掛かるものだと思っていたのに」

「私も最初はそう思ってたんだけど、あの日ここからアルカナンへ向かって飛び立った後、アリスの住処を横切ろうとした時に、ふと血の匂いがして降りたんだ」


そう言うとジェシカは胸元のポケットから、赤い結晶を取り出し、免罪符の隣へ置いた。


「これは?」

「多分……ホーリーエンブレムのエルダートだと思う」


その言葉に、グラフが勢いよく立ち上がった。


「何!? ホーリーエンブレムだと!? ジェシカ、お前……一人で殺ったのか!?」


だが、すぐにアリスが間へ入る。


「違うわ、グラフ。落ち着いて」


アリスは静かに頷き、グラフを見る。


空気を察したグラフは、小さく舌打ちしながら再びソファーへ腰を下ろした。


「ふふ。少し話が長くなりそうだし、紅茶でも飲みながら聞きましょうか。それに、こちらからも話さないといけない事があるしね。……そうでしょ? お二人さん」


アリスはグラフとクロードへ微笑みかけ、そのまま席を立ってリビングを後にした。


重かった空気が、少しだけ軽くなる。


そんな中、ジェシカが口を開いた。


「──着替えてきていいかな? ずっとこの服だったから」

「ああ、今のうちに行ってこい」


クロードは何も言わなかった。


そんなクロードから視線を逸らすように、ジェシカはリビングを後にする。


残されたのは、グラフとクロードの二人。


「おい、何があった」

「──分からない。何で僕に怒ってるのか……」


クロードは両肘を膝へ置き、指を絡ませながら俯く。


「お前はジェシカの眷属として生きていく覚悟を決めてきたんじゃないのか?」

「え……何で知ってるの」


「昨日、お前はギルドへ行くと言っただろ。それに──今こうしてここへ戻ってきたという事は、そういう事なんだろうと予想はつく」


クロードは小さく頷いた。


「うん……。さっきまで親父と話してきたんだ」


静かなリビングに、クロードの声だけが響く。


「クロスリーパーになった事。ジェシカの為に生きる事。ディヴァインリーパーとして力を使う事。そして──ジェシカを守って、力だけじゃなく、心も全部捧げるって……!」


拳を強く握る。


だが、その直後。


「でも──!!」


感情を抑えきれないように声を荒げた。


「さっきのジェシカの態度は何なんだよ……! 分からないよ!」


グラフは静かに聞いていた。


やがて、ゆっくり口を開く。


「そうだな。遠くで見ていたが、あれはジェシカが悪い。だがな……俺たちには、あんな露骨な態度を見せた事なんて一度もない」


淡々としたその言葉に、クロードは顔を上げた。


「……え。それって、どういう……」

「ふっ。そういう事なんだろうよ」


グラフは照れ隠しをするように、帽子の鍔を指で押し上げる。


「それより、いいのか?」

「え、何が……?」


帽子の奥から見えるグラフの目だけが、何かを語っている。


「クロスリーパーは聴覚が鋭いって事だ」


その言葉に、クロードはハッと息を呑んだ。


「ウソ……マジ? まさか……聞こえて──」


その時。


リビングの扉が開いた。


クロードは恐る恐るそちらへ顔を向ける。


だが、そこにいたのは紅茶の茶器を持ったアリスだった。


「……っはぁ……」


安堵したように背もたれへ身体を預けるクロード。


その瞬間。


「……バカ」


──!!


思わず肩が跳ねる。


再び視線を向けると、アリスの後ろへ隠れるようにして、着替えを済ませたジェシカが立っていた。


そんなクロードの反応を見て、アリスはくすりと微笑む。


そしてテーブルへ茶器を並べると、ジェシカと共にソファーへ腰を下ろした。


「さて──どうしたらいいかしらね。うふふ」」


アリスのいたずらっぽい笑みが、静かなリビングへゆっくりと広がっていった。

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