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紅月のクロスリーパー   作者: ルーツ
第五章 悪戯の終末

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21.血の花びらと銃声

登場人物

<ディヴァインリーパー>

ジェシカ 

グラフ

アンディ 

アリス


グラフの兄。

グレン

「大丈夫。もうすぐリベリオンは崩壊する」


淡々と話すジェシカの言葉に、グレンだけではなく、隣に立っていたアンディまでもが、ほんの一瞬時間が止まったように感じていた。


「お、おい。それはどういう事だよ、なんでリベリオンが崩壊するなんて言えんだよ?」

「ジェシカ、お前まさか……殺ったのか? レーヴを」


アンディとグレンの二人は、ジェシカから視線を外せずにいた。

額から冷汗が流れ落ち、背中まで伝う。


「えっと、どこから説明すればいいか分からないけど──とりあえず、レーヴは殺した。だから免罪符がここにあるって事」


事実を淡々と話し出すジェシカ。


「それと、リベリオンのまつりごとは腐敗しきっていて、国の名前にもなってるけど、“リベリオン王”っていう人はこの世に存在してないの。

だからもう、国として機能する事はほぼ不可能な状態ってわけ」


ジェシカの言葉に嘘がない事は理解できた。

だが、それをすぐ受け入れられるかは別の話だった。


「その話は本当なんだろうが──攻めて来ないって保証はないだろ」

「まぁ、確かにそうだけど……考え方の問題だと思うのは私だけなのかな?」


「どういう事だ?」

「だって、アリスの話と今の話を同時に考えたら、接点がないじゃない。崩壊するって分かってるのに、城壁を作る必要なんてないよね?


それに、もう“神速のレーヴ”はいない。


この二つがあるならまだ分かるけど、無いのに存在しない者を怖がっても仕方なくない?」


何一つ間違った事を言わず、真実だけを淡々と話すジェシカに、グレンもアンディもただ言葉を失うしかなかった。


──そして。


「ふふ、はは! あはは! なんだよそれ!」


肩を大きく揺らしながら、グレンが笑い出す。


「んだよ! すげー心配したじゃねーかよ! そんな話、もっと早く言ってくれりゃいいのによ」

「はは、ごめんね。なんせ昨日の話だからさ──」


「あはは──……え? 昨日の出来事?」

「あ、うん。昨日全部終わらせて、さっきまでアルカナンに行って免罪符をもらってきたんだよね」


ジェシカは事の重大さをまるで理解していない。

その様子に、グレンは呆れたように額へ手を当てた。


「お、おいジェシカ。お前、これがどれだけ重大な事だったか分かってるのか?」

「そうなの? アンディ、そうなの?」


ジェシカはグレンと話していたが、顔をアンディへ向けた。


「……いや、お前はそのままでいい。後処理はこちらでやる。気にする事はない」

「えへへ、分かった。──それでさグレン、ちょっとアンディの話を聞いてよ」


ジェシカの扱いを熟知しているアンディに、グレンは思わず見入っていた。


「あ、ああ。何を聞いて欲しいんだ? 言ってみろ」

「そうだな。この前ここにグラフが来ただろ」


「ああ、いきなり片手剣を作ってくれなんて言ってきたな」

「同じだ。俺にも武器を作って欲しい」


「なんだ? またあれか。クロスリーパーの進化って奴」

「そうだ。これからの戦いに必要な力だ」


グレンはアンディの話を半信半疑のまま、とりあえず聞く事にした。


「それで、アンディは何を作って欲しいんだ?」

「……それが分からないんだ」

「はあ? なんだよそりゃ。自分の武器を依頼しに来たのに、分からないって言われてもこっちが困るな」


もっともな話に、アンディは口を開く事ができなかった。


そんな時、隣にいたジェシカが口を開く。


「一つ、私からいいかな?」

「なんだ、言ってみろ」


「うん。あのさ、私たちってブラッディローズと身体解放を使って死者を殺してるでしょ。


だけど、これって長期戦に向いてないのが課題だったんだよね?

だから今回の進化は、それを可能にする為なんでしょ?」


「──そうだな」


「それなら、ブラッディローズは移動手段として使って、全力の身体解放をした状態で武器を扱う事はできないの?


グラフはクロードみたいに血を武器へ吸わせるって言ってたけど、別にそれだけが全てじゃない気がするんだよね」


ジェシカの言葉に、アンディは目を見開いた。


「ジェシカ、お前……」

「へ? な、何。なんか変な事言ったかな……」

「いや、それだ。ジェシカの言う通りだぜ。確かにその通りだな」


アンディは周囲を見渡し、壁に掛けられていた両手剣へ目を向けた。


歩み寄り、手に取り、握る。


ずっしり。


片手で扱うには適さない重さ。

それでもアンディは力を込め、右手だけで持ち上げていた。


「少し離れてくれ」


ジェシカとグレンはアンディから距離を取る。


アンディは血が噴き出さないよう、全身へ力を込めた。


“身体解放”


全身の血流が一気に加速する。


すると、先程まで重そうに持っていた両手剣を、片手で軽々と持ち上げた。


──ブンッ!


──ブンッ! ブンッ!


風を斬る音が工房へ響く。


「よし、次は全力で行く」


全力の身体解放。


黒い瞳が赤へ──そして、紅へと変わる。


「はぁぁぁぁぁああー!!」


アンディの身体が、青白いオーラに包まれた。


「アンディすごい……」

「さすが、家系の血はすげーな」


すると、先程まで大振りだった両手剣が、まるで細剣のような速度で連続の突きを放つ。


「アンディ! これってブラッディローズは使ってないの?」


ジェシカの言葉に、アンディは身体解放を解き、振り返った。


「──そうだな。身体解放だけでここまで動けるとは思わなかった」


その場で少し考え込むアンディ。


「どうしたのアンディ?」

「あ、いや。このままだと遠距離への牽制ができないと思ってな。


ブラッディローズで距離を詰める事はできる。だが、剣を振るまでのタイムラグをどうにかしないと、この提案は厳しいだろうと思う」


「なるほどね……あ、そうだ」


何かを思い出したように、ジェシカが顔を上げる。


「アンディ。ブラッディローズって血の花びらが舞うでしょ? あれって武器にもなるのかな?」

「どういう意味だ?」


「ほら、舞う血を武器に変えるでしょ?それをそのまま飛ばす事は可能なのかなーと思ったんだよね」

「なるほどな、実際は花びらに見えてるだけで、ブラッディローズは血を集めて物質化してるだけだから正確に言えば──可能だな。だが、その飛ばす手段がないのが現状だ」


アンディの話を聞いたジェシカは、カバンから二つの拳銃を取り出し、近くのテーブルへ置いた。


「何だそれは。見た事もないぞ」

「ああ、俺も知らないな」


アンディとグレンは首を傾げる。


「実は私もよく分からないんだけど、これは遠くの敵を攻撃できる武器なんだって」


そう言うとジェシカは拳銃を手に取り、少し離れた場所にあるグレンの灰皿へ向けた。


──パンッ!!


甲高い音が工房中へ響き渡る。


「な、何をした!?」

「あ、ごめん。びっくりしたよね。でも見てよ」


ジェシカが指差した先では、グレンの灰皿に穴が空いていた。


「拳銃っていう物らしいよ。これ」

「け、けんじゅう……」


「うん。詳しい話はミネルバに着いてからするけど、これ使えばアンディの悩み、解決できるんじゃない?


ブラッディローズの花びらを銃弾みたいに撃って動きを止めつつ、距離を詰めて、身体解放状態で剣を振り回す」


アンディは鼻で笑う。


「はっ! 簡単に言いやがる」

「ダメ?」


ジェシカの提案を、アンディは一瞬だけ考える。

だが、その全てが理にかなっている事を理解している。


「ふっ……分かった。やってみる」

「やったー!! 頑張ってねアンディ」


「ああ」

「あはは! なんか今のグラフっぽかったよ?」


「うるせー。放っとけ」

「あはは!」


こうしてアンディの新たな戦闘スタイルが決まり、あとはグレンとの武器製作、そして長期戦を可能にする為の修行が始まるのだった。

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