21.血の花びらと銃声
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
グラフの兄。
グレン
「大丈夫。もうすぐリベリオンは崩壊する」
淡々と話すジェシカの言葉に、グレンだけではなく、隣に立っていたアンディまでもが、ほんの一瞬時間が止まったように感じていた。
「お、おい。それはどういう事だよ、なんでリベリオンが崩壊するなんて言えんだよ?」
「ジェシカ、お前まさか……殺ったのか? レーヴを」
アンディとグレンの二人は、ジェシカから視線を外せずにいた。
額から冷汗が流れ落ち、背中まで伝う。
「えっと、どこから説明すればいいか分からないけど──とりあえず、レーヴは殺した。だから免罪符がここにあるって事」
事実を淡々と話し出すジェシカ。
「それと、リベリオンの政は腐敗しきっていて、国の名前にもなってるけど、“リベリオン王”っていう人はこの世に存在してないの。
だからもう、国として機能する事はほぼ不可能な状態ってわけ」
ジェシカの言葉に嘘がない事は理解できた。
だが、それをすぐ受け入れられるかは別の話だった。
「その話は本当なんだろうが──攻めて来ないって保証はないだろ」
「まぁ、確かにそうだけど……考え方の問題だと思うのは私だけなのかな?」
「どういう事だ?」
「だって、アリスの話と今の話を同時に考えたら、接点がないじゃない。崩壊するって分かってるのに、城壁を作る必要なんてないよね?
それに、もう“神速のレーヴ”はいない。
この二つがあるならまだ分かるけど、無いのに存在しない者を怖がっても仕方なくない?」
何一つ間違った事を言わず、真実だけを淡々と話すジェシカに、グレンもアンディもただ言葉を失うしかなかった。
──そして。
「ふふ、はは! あはは! なんだよそれ!」
肩を大きく揺らしながら、グレンが笑い出す。
「んだよ! すげー心配したじゃねーかよ! そんな話、もっと早く言ってくれりゃいいのによ」
「はは、ごめんね。なんせ昨日の話だからさ──」
「あはは──……え? 昨日の出来事?」
「あ、うん。昨日全部終わらせて、さっきまでアルカナンに行って免罪符をもらってきたんだよね」
ジェシカは事の重大さをまるで理解していない。
その様子に、グレンは呆れたように額へ手を当てた。
「お、おいジェシカ。お前、これがどれだけ重大な事だったか分かってるのか?」
「そうなの? アンディ、そうなの?」
ジェシカはグレンと話していたが、顔をアンディへ向けた。
「……いや、お前はそのままでいい。後処理はこちらでやる。気にする事はない」
「えへへ、分かった。──それでさグレン、ちょっとアンディの話を聞いてよ」
ジェシカの扱いを熟知しているアンディに、グレンは思わず見入っていた。
「あ、ああ。何を聞いて欲しいんだ? 言ってみろ」
「そうだな。この前ここにグラフが来ただろ」
「ああ、いきなり片手剣を作ってくれなんて言ってきたな」
「同じだ。俺にも武器を作って欲しい」
「なんだ? またあれか。クロスリーパーの進化って奴」
「そうだ。これからの戦いに必要な力だ」
グレンはアンディの話を半信半疑のまま、とりあえず聞く事にした。
「それで、アンディは何を作って欲しいんだ?」
「……それが分からないんだ」
「はあ? なんだよそりゃ。自分の武器を依頼しに来たのに、分からないって言われてもこっちが困るな」
もっともな話に、アンディは口を開く事ができなかった。
そんな時、隣にいたジェシカが口を開く。
「一つ、私からいいかな?」
「なんだ、言ってみろ」
「うん。あのさ、私たちってブラッディローズと身体解放を使って死者を殺してるでしょ。
だけど、これって長期戦に向いてないのが課題だったんだよね?
だから今回の進化は、それを可能にする為なんでしょ?」
「──そうだな」
「それなら、ブラッディローズは移動手段として使って、全力の身体解放をした状態で武器を扱う事はできないの?
グラフはクロードみたいに血を武器へ吸わせるって言ってたけど、別にそれだけが全てじゃない気がするんだよね」
ジェシカの言葉に、アンディは目を見開いた。
「ジェシカ、お前……」
「へ? な、何。なんか変な事言ったかな……」
「いや、それだ。ジェシカの言う通りだぜ。確かにその通りだな」
アンディは周囲を見渡し、壁に掛けられていた両手剣へ目を向けた。
歩み寄り、手に取り、握る。
ずっしり。
片手で扱うには適さない重さ。
それでもアンディは力を込め、右手だけで持ち上げていた。
「少し離れてくれ」
ジェシカとグレンはアンディから距離を取る。
アンディは血が噴き出さないよう、全身へ力を込めた。
“身体解放”
全身の血流が一気に加速する。
すると、先程まで重そうに持っていた両手剣を、片手で軽々と持ち上げた。
──ブンッ!
──ブンッ! ブンッ!
風を斬る音が工房へ響く。
「よし、次は全力で行く」
全力の身体解放。
黒い瞳が赤へ──そして、紅へと変わる。
「はぁぁぁぁぁああー!!」
アンディの身体が、青白いオーラに包まれた。
「アンディすごい……」
「さすが、家系の血はすげーな」
すると、先程まで大振りだった両手剣が、まるで細剣のような速度で連続の突きを放つ。
「アンディ! これってブラッディローズは使ってないの?」
ジェシカの言葉に、アンディは身体解放を解き、振り返った。
「──そうだな。身体解放だけでここまで動けるとは思わなかった」
その場で少し考え込むアンディ。
「どうしたのアンディ?」
「あ、いや。このままだと遠距離への牽制ができないと思ってな。
ブラッディローズで距離を詰める事はできる。だが、剣を振るまでのタイムラグをどうにかしないと、この提案は厳しいだろうと思う」
「なるほどね……あ、そうだ」
何かを思い出したように、ジェシカが顔を上げる。
「アンディ。ブラッディローズって血の花びらが舞うでしょ? あれって武器にもなるのかな?」
「どういう意味だ?」
「ほら、舞う血を武器に変えるでしょ?それをそのまま飛ばす事は可能なのかなーと思ったんだよね」
「なるほどな、実際は花びらに見えてるだけで、ブラッディローズは血を集めて物質化してるだけだから正確に言えば──可能だな。だが、その飛ばす手段がないのが現状だ」
アンディの話を聞いたジェシカは、カバンから二つの拳銃を取り出し、近くのテーブルへ置いた。
「何だそれは。見た事もないぞ」
「ああ、俺も知らないな」
アンディとグレンは首を傾げる。
「実は私もよく分からないんだけど、これは遠くの敵を攻撃できる武器なんだって」
そう言うとジェシカは拳銃を手に取り、少し離れた場所にあるグレンの灰皿へ向けた。
──パンッ!!
甲高い音が工房中へ響き渡る。
「な、何をした!?」
「あ、ごめん。びっくりしたよね。でも見てよ」
ジェシカが指差した先では、グレンの灰皿に穴が空いていた。
「拳銃っていう物らしいよ。これ」
「け、けんじゅう……」
「うん。詳しい話はミネルバに着いてからするけど、これ使えばアンディの悩み、解決できるんじゃない?
ブラッディローズの花びらを銃弾みたいに撃って動きを止めつつ、距離を詰めて、身体解放状態で剣を振り回す」
アンディは鼻で笑う。
「はっ! 簡単に言いやがる」
「ダメ?」
ジェシカの提案を、アンディは一瞬だけ考える。
だが、その全てが理にかなっている事を理解している。
「ふっ……分かった。やってみる」
「やったー!! 頑張ってねアンディ」
「ああ」
「あはは! なんか今のグラフっぽかったよ?」
「うるせー。放っとけ」
「あはは!」
こうしてアンディの新たな戦闘スタイルが決まり、あとはグレンとの武器製作、そして長期戦を可能にする為の修行が始まるのだった。




