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紅月のクロスリーパー   作者: ルーツ
第五章 悪戯の終末

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19. 意地と支配

登場人物

<ディヴァインリーパー>

ジェシカ 

グラフ

アンディ 

アリス

アルス

クロード


教会の司祭(アンフォリーの妹)

アン・レゾン


四代厄災

悲狂のアン・フォリー

神速のレーヴ

絶対死者アブソリュート


グラフの想い人

ルミナス・エフェメール


初代マリア

リーン・ホーク・マリア

ジェシカとグラフ、クロードの二人とはまた別の行動を取っているアンディは、アリスに適性を調べてもらった結果を受け同族の集落へと向かっていた。


「──矛じゃないだと!?」

「ええ。先に聞かせてほしいんだけどなぜアンディは矛だと言い切るのかしら?」


アリスの言葉に少し間があった。


「……そうだな。多分グラフも俺と理由は同じだと思うがな」

「それってどう言う事かしら」


アンディは座っていた椅子に背をもたれ、両足を伸ばし遠くを見ていた。


「そうだな。ただ俺の場合はグラフとは違い女じゃない。それにこれは……俺の意地でもある」


アンディは一息ついて更に話し出す。


「俺がまだリーパーとして親父とその仲間と一緒に──いや、ついていってた時の話になる。


その日も何も変わらず俺は必死に死者ししゃを狩り、親父たちが俺の手助けをしてくれていた。

そんなある日、グラフが大きな依頼を受けたと耳にした」


いつしかアンディは前のめりな体勢へと変え、指を絡ませて座っていた。


「俺にも声はかかったが、親父がそれを阻止しやがった。

正直言って……悔しかったよ。

だから俺はもっと強くなる為に一人で、死者ししゃ狩りの依頼を受けたりしていたんだ」


アンディの握る手に力が入り、所々白くなっているのがアリスの視界に入っていた。


「アンディ……」

「だがな、一人で死者ししゃを狩っていた時に俺は自分の力を過信していたんだ。

その時の俺は死者ししゃたちに囲まれ、逃げる事に必死になっていた。

そんな俺は限界だった。


諦めたよ。

俺はここで死ぬってな。


──だが違った。


俺の事を笑いながら襲って来た死者が赤黒い矛に貫ぬかれ、視界から消えたんだ。

そして聞き覚えのある声と手が差し伸べられた。


"遅れた。すまない"ってな。


あの時の俺は「……助かった」と心から安堵したのを覚えている。


その光景だけは、今でも忘れる事はない。

俺はブラッディローズを自在に操れるようになったら——

矛を扱えるクロスリーパーになってやるってな!」


アンディの目はしっかりとアリスに向けられていた。


「そうなのね、アンディの気持ちは分かったわ。

それで、どうするの?」

「──分かっている。今の俺ではこの先助けにはならない事くらい」


「そう、それなら今すぐグラフのお兄さんの所に行くべきだわ」

「そうだな」


そう言うとアンディは席を立ち、今に至る。


「ふっ、意地か……」


鼻で笑いつつアンディはグレンのいる工房へと駆け抜けていった。


────────────────


一方、ミネルバ王国。拠点──裏庭。


「グラフ」

「分かっている。まだ“こいつ”は俺をあるじと認めていない」


「なら俺先に用事済ませてくるから、帰ってくる頃には完全に屈服させててよ」

「ふっ、さっさと行ってこい。こっちの用もさっさと終わらせてやる」


クロードはグラフに手を振って拠点を後にした。


「──さて、いい加減にしてもらわないとな」


グラフは黒く重厚なロングソードを見下ろす。


「ふうー」


左手で帽子を取り、その辺に投げた。


「──やるぞ」


────────────


「ブラッディローズ」


────────────


言葉と同時に右手に握るロングソードへグラフの赤黒い血が流れ込む。

剣に埋め込まれた結晶化のフィセルがそれを吸い込み、刃が赤色へと変化していく。

だかそれは決して服従した訳ではなく、むしろその逆、血を奪っているようにも見える。


「ちっ! まだ抵抗しやがるか。いい加減俺に従え!」


互いの意志がぶつかり合う。


その時、結晶からの"声”がグラフに訴えかける。


「あはは! もっとお前の血をくれ!それだけでいい!むしろそれ以外は必要ない!」


「こ、この声は……フィセル」


「そうだよ! お前ごときが俺を屈服できるもんなら力でも何でも勝手に使え!!あはは!

もっと、もっとだ! お前の血を飲ませろー!!」


フィセルの狂ったような笑いと要求に、グラフは口元を歪める。


「ふっ、いいぜ。 飲みたけりゃ存分に味わえ!!」


グラフの赤い瞳が、鮮やかな真紅へと変わる。


─────────────


「アブゾ・ブラッディローズ」


─────────────


グラフの全力身体解放ぜんりょくしんたいかいほう


右手から血が溢れる。


それでも、止めない。


フィセルは貪るように吸い込む。


「あはは! こりゃいい!」


「うおぉぉぉぉおおおお!!」


意地と意地がぶつかる。


足元へ血が滴る。


それでも、止めない。


「あはは! もっとだ! まだ足りねぇ!」


フィセルは笑う。


だが——


ほんの一瞬。


その笑いが、わずかに歪んだ。


「……おい」


わずかに間が空く。


それでも、止まらない。

血が流れ続ける。


「あはは……いい、ぞ……」


声が引きつる。


「お、おい……もういい……これ以上飲んだら俺が俺じゃなくなる」


フィセルの声が、初めて揺らいだ。


だが止めない。


グラフはさらに血を流し、押し込む。


「や、やめろ!!これ以上は──」


血が溢れる。


「わ、分かった……!」


止まらない。


「やめてくれ……!」

「何言ってやがる。俺の血が足りねーんだろ、もっと喰らえよ」


「くっ……や、やめて、下さい!!」


その瞬間——グラフは身体解放をやめ片膝をついた。


「はっ!はっ!はっ……さすがホーリーエンブレムだぜ……はっ……はぁ……」



グラフの手には、真紅に染まったロングソード。


「交渉……成立だな」


ゆっくりと立ち上がる。


遠くの木人へと向け、構える。


空気が沈む。


──身体解放しんたいかいほう


地を蹴る。


一瞬で間合いを詰める。


複数の斬撃を刻み、通り抜ける。


遅れて——木人が崩れた。


足元には、細切れの木片。


「ちっ、まだ練度がたらねーか。まあいい」


真紅に染まったロングソードを見つめ、グラフはニヤリと口角を吊り上げた。

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